【ジェシー=ジェリーは副料理長】 1
「さてと、必要な物は全部買ったと」
空中に浮かぶ画面を見ながら、ジェシーはそうつぶやいた。
収納魔法の表示画面であり、内部に入れてある物の名称が列記されている。
ジェシーは同時にもう一つの画面も呼び出した。それは買い物リストであり、それを確認していく。
「うん、買い漏らしもなしと。そんじゃま帰りますか」
彼女が帰路への道を歩こうとしたとき、お腹がぐうと鳴った。彼女は顔を少し赤らめながら。
「……その前に少し腹ごしらえでもしますか。とりあえずあそこのレストランででも」
そうしてジェシーは、道の先にあるレストランへと向かっていった。
○
「うん、美味しい」
レストランでジェシーはパスタを食べていた。
美味しさに顔を綻ばせながら、味や材料について分析していく。
「ほのかな甘味に加えて、酸味も微かに漂っているね。隠し味に何を使っているのかな?」
昼を過ぎた午後の時間帯だからか、レストランのなかは案外空いていた。
「レモン、いやオレンジやリンゴという可能性もあるね。意外性を出してイチゴかも」
試しに後で全部作ってみるかな?
そんなことをジェシーが思っていると、入口のほうからざわざわと声が聞こえてきた。
(団体客でも来たのかな?)
ジェシーがそちらに目を向けると、店に入ってきたのは貴族らしい男と、それに付き従う数人の使用人だった。
男のそばにはレストランの店長と思われるコック姿の人物もいた。
「お待ちしておりました、アンダー様。ただいま特等席へご案内致します」
「おう。誰にも邪魔されないVIP席を頼むぜ。貧相な庶民共が邪魔してこないようにな」
そう言って笑い声を上げる男を、店長は苦笑しながら奥の部屋へと案内していく。
男の言葉を聞いて、レストラン内にいた数人の客達は眉をひそめていた。
ジェシーもまた顔にこそ出してはいなかったものの。
(あれはアンダー男爵家の、アンバー=アンダーだね。やれやれ、運が悪い)
爵位を持つ貴族家ということもあり、ジェシーはアンバーの噂を耳にしていた。
横柄な態度を取るという噂だった。アンバーのことを直接見て、噂通りだなあと思った。
(さっさと食べて、さっさと帰ろうっと)
ジェシーはパスタの残りをフォークで巻き取っていく。
パスタの隣にはプリンの皿もあったが、味わって食べる余裕があるかは分からなかった。
そうしてジェシーがパスタを再び食べ始めてから少しして、店の奥から怒鳴り声が響いてきた。
アンバーの声だった。
「不味い! 何だこの料理は⁉ この俺を愚弄しているのか⁉」
「め、滅相もございませんっ!」
「いくら庶民向けのオードブルとはいえ不味すぎる! この俺に豚の餌を食わせやがって!」
「も、申し訳ございませんっ!」
アンバーの声を耳にした客達は露骨に嫌な顔をしていた。
お前が食べたのが豚の餌なら、自分達のは何なんだよ⁉と。
「帰る! こんな不味いもの食ってられるか!」
「お、お待ちくださいっ⁉」
「こんな不味い店なんか潰してやる! 代わりに俺が監修した超高級レストランを建ててやる! こんな豚の餌なんかではなく、俺が食うに値する最高級の料理の店をな!」
「そ、そんなっ⁉」
プリンを食べながら、ジェシーは顔を上に向けた。
見上げた天井には、綺麗なシャンデリアがあった。蝋燭を立てるタイプではなく、魔力で灯す魔法具ではあったが。
壁紙も綺麗で、窓からは太陽の光が差し込み、観葉植物もいくつか置いてある。厨房からは美味しそうな料理の匂いが鼻孔をくすぐってきていた。
「うん。無視するにはもったいないね」
スプーンを皿に置いて、ジェシーは立ち上がった。
他の客達が視線を向けるなか、彼女は奥の部屋のドアから出てこようとしているアンバーの前に出て言う。
「まあまあ男爵さん、もう少し待ってくれちゃあいけませんかね? ほんの二十分、いや十分でいいんで」
「何だキサマ⁉ 貧乏庶民はどきやが」
ジェシーは手に持っていた金平糖のように小さいものを、親指でコインのように弾いてアンバーの口のなかに放り込む。
「ムグッ⁉」
いきなりのことに飲み込んでしまった男爵は、白目を剥いてバタンッと床に倒れてしまった。
ジェシーは大袈裟な様子でアンバーに駆け寄っていく。
「男爵⁉ どうかしましたか⁉」




