【グロリア=ガンナスターはアイラの専属メイドで護衛】 3
壇上から降りてくるアイラとグロリアの周りに貴族達が集まっていき、口々に歓声を述べていく。
それらの黄色い声のなか、アイラはグロリアに言った。
「ハンカチある? リンゴの果汁が掛かっちゃった」
「ただいま用意致します」
グロリアはそう返答したのだが、彼女がハンカチを差し出す前に、
「それなら私のハンカチをお使いくださいっ、アイラさんっ」
「ずるいぞっ! アイラさん、俺のハンカチをお使いください!」
などと、周囲の者達が競うようにハンカチを差し出してきた。
「あ、ありがとう、皆さん」
珍しくアイラが戸惑い、手近にいた貴族の少女からハンカチを受け取っているなか……彼らから離れた場所で、メイドのイメルダが主人のヘレナに頼み込んでいた。
「お願いしますヘレナ様! ヘレナ様はジャグリングが得意でしたよねッ、ヘレナ様がリンゴを何個かジャグリングして、頃合いを見てそれらを私に次々と投げてください! 私がそれらを投げナイフで突き刺していきますので!」
「えぇっ⁉ 大丈夫っ⁉ 貴女、料理あまり上手くないじゃないっ⁉」
「料理と投げナイフは別です! お願いしますッ、絶対に成功させてみせますから!」
「そんな無茶しなくても、貴女、ダンス得意じゃない。皆さんに演奏と歌をしてもらって、それに合わせて素敵なダンスをすれば良いじゃない。相手役ならうちの執事を……」
「それじゃ駄目なんです! 一番になれないんです! エインズ家のメイドに勝てないんです! 私は勝ちたいんです! 勝たなきゃ意味がないんです!」
「イメルダ……」
「お願いしますヘレナ様! 私にチャンスをください! 失敗したらどんな処罰も受けますから!」
「…………、分かったわ」
ヘレナは了承し、二人は壇上に上がっていく。
貴族達が見守るなか、ヘレナはリンゴのジャグリングを始めた。とても上手く、一度に六個ものリンゴを空中に回し続けている。
対してイメルダはというと……ナイフを手に持ちながらスーハーと深呼吸していた。
大丈夫……私なら出来る……あの芋女に出来て私に出来ないことなんてないんだから!
「お願いしますヘレナ様!」
イメルダが言って、ヘレナが次々とリンゴを彼女へと投げていく。それに合わせてイメルダもナイフを投げるが。
「あ⁉」
それはイメルダの声でもあり、観衆の声でもあった。
彼女が投げたいくつものナイフはリンゴには当たらず、あろうことかヘレナの顔や身体へと直進していったのである。
「⁉」
目を見開くヘレナは動くことができなかった。観衆も見ていることしかできなかった。
「グロリア」
アイラが言うのと、グロリアが動くのはほとんど同時だった。
グロリアは瞬時にしてヘレナとナイフの間に割り込むと、手にしたナイフで飛んでくるナイフの群れを叩き落としていった。
ヘレナは呆然としていた。観衆も呆然としていた。
イメルダだけが床に膝をついて、顔を両手で覆って泣き崩れていた。
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