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【王国内屈指の公爵家の令嬢ですが、婚約破棄される前に婚約破棄しました。元婚約者は没落したそうですが、そんなの知りません】  作者: ナロー


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【演奏会の帰り、望まぬ再会】 2


 背を向けて道を行こうとするアイラを、ザイアが手を伸ばして引き止めようとする。

 ザイアの手がアイラの肩に触れようとした寸前で、メイドが俊敏に動き、ザイアを地面にうつ伏せに倒していた。男の両手を後ろに回して、抵抗できないように動けなくしていた。


「グワッ⁉ 何するんだこの無礼者! 僕は! 僕はジグソウ伯爵家のザイア=ジグソウだぞ! こんなことして許されると」


 冷たい顔でメイドが言った。


「貴方の家の爵位は既に剥奪されています。いまの貴方は、四方八方に返せる当てのない借金を頼み込む、ただの不審者です」

「何を! 何を無礼な! 僕の家は伯爵家なんだ! お前みたいな卑しいメイドなんかどうとでも」

「酒くさい。借金のみならず自棄酒ですか。ギャンブルもしていたらスリーセブンですね」

「スリーセブンだと! スロットなら僕は得意だぞ! 一回五百ゴールドのスロットを一万回回して一万ゴールド当てたからな!」

「……とことん救えませんね」


 アイラがメイドに言った。


「その辺にしておきなさい。本物の馬鹿と関わっても、時間と心の無駄よ」

「そうですね」


 アイラがザイアに声を降らせる。


「今度同じこと言ってきたら、警察に連れていかせますから」


 そうしてアイラとメイドは再び帰途についた。


「手、汚れちゃったんじゃない?」

「水魔法で洗っておきます」

「そうしなさい。屋敷に帰ったら、服もね」

「はい」


 離れていく二人のはるか後ろで、男は滲んだ声をつぶやき続けていた。


「僕は、僕は、僕は……」



「ザイア=ジグソウが逮捕されたそうです」


 アイラの私室。ハーブティーを飲むアイラにメイドが伝えていた。


「昨夜、赤ちゃんの泣き声がずっと聞こえていたので隣家の方が様子を見に行ったところ、ザイア=ジグソウと妻のベリンダ=ジグソウが血塗れで倒れていたそうです」


 アイラはクッキーを食べている。


「ザイア=ジグソウは手に割れた酒瓶を、ベリンダ=ジグソウも手に包丁を持っていたらしいです。ザイア=ジグソウには刺傷がありましたが軽傷で、ベリンダ=ジグソウは頭に数針縫う怪我と全身に裂傷と打撲痕があったそうです。警察はザイア=ジグソウを殺人未遂で逮捕、ベリンダ=ジグソウは目を覚ました後に事情聴取するとのことです。現場も捜査し、必要とあらばベリンダ=ジグソウも逮捕する予定とのことでした」

「ケーキを頂戴。チョコ味がいいわ」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 アイラにはもう興味も関係もない話だった。




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