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姫様可哀想じゃね?

「姫様、可哀想だよなぁ」


とある国の城下町の片隅のベンチに男二人が朝食を取るがてら雑談に興じていた。


「姫が?王族に生まれて欲しい物なんて指鳴らせば手に入る、その上あの美貌…可哀想なんて要素がないだろ」


「お前知らないのか?昨日の号外、めちゃくちゃ話題になったろ」


「昨日魔物狩って爆睡したからなんとも」


「はぁ、しっかりしてくれよ相棒。まぁ優しい俺がちゃーんと教えてやるから耳の穴を…」


「早く言えよ」


「……『龍を討伐した者には姫との婚約を認める』ってよ」


龍とは王国を含めた数多の国を脅かす厄災、今まで龍に奪われた命、国は数知れず。だからこそ世界は待っている、龍を倒す勇者の登場を。


「王様もなりふり構ってられないって感じだな、まさか実の娘を報酬にするなんて思わなかった」


「なぁ可哀想だろ?あんなに可愛く生まれて蝶よ花よと育てられても結婚する相手すら選べないなんて不憫だぜ」


「とは言っても無理だろう、龍なんて討伐出来るやつなんて居るわけない。ここ千年どれだけの数の英雄と言われた者達が何もできずに散ったと思ってる。今この国が滅んでない理由なんて龍の気まぐれ、俺達は泥舟に乗ってるみたいなもんなんだ、いずれ穴が空き、ひっくり返えって沈むのがオチだ。誰と結婚しようが関係ない、いずれ死ぬ」


龍には誰も勝てない、この世界に生まれたなら最初に覚える常識。王様だってきっと勝てる人がいるなんて思ってない、それでも願うしかない、億が一でも可能性があるなら王として賭けるしかないのだ。


龍を倒せる勇者の出現を…


「…憶えてるか?俺らが偶然魔物に襲われた姫様を守った時よ、ちょっと掠り傷負っただけで血なんてすぐ止まるってのに…姫様自分の可愛いドレス破って俺の腕をぐるぐる巻きにしてくれてさ」


『私にはこれぐらいしか出来ないんですけど…本当に助けて頂いてありがとうございます!』


「心配になるぐらい頭ぶんぶん振ってよ、大丈夫って言っても聞いてくんなくてさぁ…その時思ったんだよ。守ってあげたいってよ」


「……」


「お前の言ってることは正しいよ、確かにこの国は泥舟でいつかは滅ぶのかも知れない。明日か明後日…ワンチャン今日ってこともなくはない。それでも俺は諦めたくないね、お前もそうだろ相棒?諦めてたら魔物討伐しになんかいかねぇもんな」


少し前を向けば朝から遊ぶ子供がいる、煙突からは家族の為のご飯を作る女の苦労が分かる、愛する家族を守る為に死ぬかも知れない魔物討伐に行く父親がいる。


「俺はこの国も姫様も大好きだからさ、守りてぇんだよ」


「口で言うのは簡単だ、どう守るんだ」


「決まってんだろ、今から龍ぶっ倒しに行くんだよ。それで姫様幸せにするんだよ」


「無理だと思うぞ」


「確かに…俺に女性経験はないけど…」


「そっちじゃねぇよ」


「まぁまぁ、いっちょ俺達が世界救っちゃおうぜ」


朝の喧騒が徐々に活気を帯びてくる中、二人の男は同時に立ち上がった。ベンチの脇に立てかけてあった剣を腰に佩き、背負っていた弓矢を肩に担ぎ直す。


街の人々はいつものように二人組が出発する姿を見送った。


振り返ることなく、二人は歩き続けた。城下町の喧騒が徐々に遠ざかり、代わりに鳥のさえずりと風の音だけが聞こえるようになる。足音だけが石畳に響き、やがてそれも土の道に変わって静かになった。


朝日が雲間から差し込み、二つの影を長く地面に落としながら、彼らの姿は遥かなる地平線へと向かって小さくなっていった。

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