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あの頃の僕と新しい君へ

後悔しても反省してももう取り戻せないことってありませんか?

第1章「思い出」

彼女と出会ったのは、大学でもバイト先でもなく、今どきよくあるインターネットでの偶然だった。何気ないやりとりが続いて、気づけば毎日、言葉を交わすようになっていた。付き合っているわけでもないのに、趣味も話題も尽きなくて、この先もずっと話し続けられるんじゃないかと思えるほど、心地よい時間だった。

その時間を愛した僕は、特別な日を特別な彼女と過ごすことを望んだ。12月24日、待ち合わせ場所は品川。寒さは厳しかったけれど、空は澄み、街はどこか浮かれていて。慣れないコートに身を包み、少し大きな靴で歩く僕の隣には、楽しそうな彼女がいた。僕らは何度も笑った。

帰り際、この日のために選んだプレゼントを彼女に渡すと、驚いたような、少し照れたような顔で受け取ってくれた。あの日が、僕の人生で一番幸せだった。

そして迎えたクリスマス当日。一緒に見たYouTubeはクリスマス一色に染まり、画面の向こうも僕たちの世界も、華やかに輝いていた。彼女と過ごす時間はとても色鮮やかで――その色に溺れた僕は、彼女を傷つけてしまった。

年が明ける頃には、彼女の返信は少しずつ短く、そして間隔も空くようになっていた。それでも、どこかで期待していた。「もしかしたら、初日の出を一緒に見に行けるかもしれない」その願いは叶った。新しい年、初めての太陽と、彼女の笑顔を並べて見ることができた。こんな日々が、永遠に続くと思っていた。


第2章「不穏な空気」

正月が明け、クリスマスの後悔を取り戻すかのように、彼女とまた会う約束をした。その日、僕は何気なく、「料理全然できなくてさ」と自慢げに口にした。冗談のつもりだった。でも、その一瞬、彼女の顔から優しさがすっと消えた。僕は、それを見逃してしまった。

翌日、彼女は僕のために、手作りのホットサンドを持ってきてくれた。温かな香りが、ぎこちなくなりかけていた僕らの間に、わずかな安らぎを運んできた。ゲームをしたり、寝転がったり。そんな時間が、彼女と過ごす最後の日になった。

その頃から、グループ内で「ケッパキングと話しているとイライラする」という噂が、ちらほら聞こえ始めた。嫌な予感がして、理由を探ろうとしたけれど、誰も具体的なことは教えてくれなかった。もやもやとした不安だけが、胸の中でじわじわと広がっていった。

足踏みしていても何も変わらない。だから、僕は変わろうと決めた。話し方を改善するためにボイストレーニングに通い、体を鍛えるためにジムに行き始めた。資格の勉強も始めて、毎日少しずつ、努力を積み重ねた。

睦月の終わり、彼女から早めのバレンタインのお菓子が届いた。それは、本当に、本当に美味しかった。知る由もない最後の味。


第3章「終焉」

如月の風はまだ冷たく、でもどこか、春の匂いを孕んでいた。

久しぶりに交わした会話は、静かで穏やかだった。彼女の声のトーンはやわらかくて、僕の胸に、少しだけ暖かい火を灯した。「また、春になったら──」そんな約束を、何気ない言葉の中に忍ばせたのも覚えている。

だけど、その夜だった。僕は、あまりにも軽い一言を投げてしまった。何も考えず、気を抜いたままの言葉だった。その一瞬で、彼女の中の何かが静かに崩れたのがわかった。

それを境に、彼女の返信は目に見えて変わった。短く、冷たく、そして遅くなっていった。会話は薄まり、やり取りのたびに、ぎこちなさと沈黙だけが残った。

焦った僕は、余計な言葉ばかりを積み重ねていった。ごめんの代わりに、寂しいと口走った。本当は謝りたかったのに、自分の感情ばかりを優先してしまった。

ある夜、彼女はついに言った。

「話したい人とだけ、話す」

それは静かで、冷たくて、すべてを断ち切るような言葉だった。僕はただ、「わかった、今までごめん」とだけ返すことしかできなかった。その瞬間、あの色鮮やかだった時間が、音もなく黒に塗りつぶされた。


第4章「春の陽炎」

それでも、僕は春が来るのを待っていた。

いや、本当はとっくに終わっていたのかもしれない。あの夜、怒らせたまま謝れなかったこと。距離を取られていると知りながら、追いすがるような言葉しか吐けなかったこと。どれも、「もう遅い」と突き放されても仕方がないことばかりだった。

──けれど、その「もう遅い」の一言すら、もう返ってこなかった。

「春になったら、花見に行けるかもしれない」「ホワイトデーには、ちゃんとお返しを渡したい」そんな実体のない希望だけが、僕の中でずっと息をしていた。

僕は、料理なんてできなかった。けれど彼女のために、人生で初めてクッキー作りを始めた。小麦粉の配分も、焼き時間も、レシピも、全部が手探りだった。オーブンの中で焦げていくクッキーを見つめながら、僕の心もまた、真っ黒に焦げていった。

泣きながら、何度も焼いた。指先が震えて、まともな形にもならなくて、それでも彼女の顔が浮かんだ。

「美味しい」と、あの優しい笑顔で言ってくれるかもしれない。そんな幻想にすがりついた。

彼女のために何かを作ろうとしたことなんて、これまでなかった。だからこそ、うまくいかないたびに胸が痛み、焦った。それでも僕は、何度もクッキーを焼いた。

味がどうかもわからないまま、形を整え、香りを確かめて、やっと「これなら」と思える出来にたどり着いたころ、ホワイトデーは過ぎていた。

あの春は──あの夜の言葉で、もう黒く塗りつぶされていた。

僕の想いは結局、自己満足でしかなかった。ただの独りよがりで、見返りばかり求めていた。その醜さが、ようやく見えてきた頃には、もう何もかも壊れていた。

……これも、「普通の人」なら分かっていたのだろうか。


第5章「化け物」

楽しかった日々は、今も夢に出てくる。色鮮やかで、笑い声が絶えなかったあの時間が、まるで映画のワンシーンみたいに繰り返される。pだけど現実は、もう取り返しのつかないほどに壊れていた。

どれだけ努力しても、染まった黒は消えなかった。彼女とは、もう声も交わせず、触れることもできない。別の世界に行ってしまった人。僕の気持ちは、ただ空回りするだけだった。

後悔だけが、胸の中で渦を巻いていた。理解されない孤独と、自分自身への憎しみの中で、僕は何度も自分を責めた。

どうして、もっと優しくできなかったのか。どうして、もっと早く謝れなかったのか。どうして、普通の人間になれなかったのか。

反省は、やがて僕の心をさらに黒く塗りつぶした。

「正しいことがわからないなら、全部試せばいい」「人を傷つけることを一つずつ排除していけば、きっと最後には優しくなれる」

そんな考えに縋っていた。気づいた時にはもう遅かった。

僕は、誰もが恐れる“化け物”になっていた。

自分を責める言葉も、誰かを傷つける言葉も、全部抱えて、どこにも逃げ場のない暗闇に、静かに沈んでいった。

もう治らないほど、心は壊れてしまった。それでも僕は、あの頃の幸せだけを夢見ている。

夢の中なら、まだ彼女と笑い合える。夢の中だけなら──。

努力し続ければ、いつかまた彼女の笑顔に会えるかもしれない。そんな叶わぬ幻想を抱えながら、僕は今日も、壊れた心の欠片を拾い集めている。そこにあるのは、もう存在しない誰かの幻影──。

それでも、僕は見つめている。失ったものの残像を。


エピローグ「あの頃の僕と新しい君へ」

あの頃の僕は、何も知らなかった。傷つけ、傷つき、壊れていく関係を。壊してはいけない関係を。

あの頃の僕は、自分だけの世界に閉じこもっていた。色鮮やかな思い出と黒く塗りつぶした現実の世界。君は、もうその世界にはいない。君は新しい誰かと外の世界へ旅だった。

あの日伝えられなかったごめんねはもう届かない。

だからこれからの僕は、もっと強く、もっと優しくなりたい。過去の痛みを胸に抱えながら、それでも未来へと歩き出さなければいけない。

もし、新しい君がどこかで笑っているなら――。僕も誰かを大切にできる日が来ると信じて。

あの頃の僕と、新しい君へ。ありがとう。さよなら。そして、またいつか――。


最後まで読んでくれてありがとうございます!

作品内で彼女と読んでいますが英語で言う「She」であり、付き合っていた・付き合っているわけではないです。

それとクッキー作りやジム・ボイトレ・資格勉強などや僕の感情部分は大半が事実ですが、彼女の設定や一緒に見たもの、一緒にしたことなどはフィクションです。あくまでも物語として見てくれると嬉しいです。


最後になりますが、書こうと思ったきっかけは「心が汚れたら一生戻らない」と言われ、本当の意味でもう終わりなんだなと思ったからです。それと今回の作品は自分自身への後悔の日記であると共にそうなる人が少しでも減るといいなと思って書いたものです。

やっぱスーパーメンヘラすぎてもう無理なのはわかってるのに努力してればいつかきっとって思っちゃうのはやっぱ辛いな!

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