表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

咲き誇る追放された庭師は元家族から全てを奪い返す〜それは私のものだから返してもらうね〜

作者: リーシャ
掲載日:2025/06/07

このパターンには、飽き飽きしている。


「出て行け、役立たず!」


冷たい声が、リーリアの背中に突き刺さる。


誰が役立たずか。


豪華な装飾が施された応接室で、父である公爵は顔を歪め、忌々しそうに彼女を見下ろしている。


隣には、美しく着飾った義母と、意地の悪い笑みを浮かべる二人の異母妹。


使い古された設定ですね、と皮肉に笑う。


彼女たちにとって、おとなしいリーリアは邪魔な存在でしかなかった。


こっちも向こうが邪魔だけど。


前世、日本の片隅で庭師として生きた記憶が蘇ったのは、数日前のこと。


土の匂い、植物の息遣い、剪定鋏の感触。


それらは、この異世界の貴族令嬢である今の自分には無縁のものだったはず。


「お前のような出来損ないが、わが家の名を汚すのだ!」


婚約者の王子に袖にされたことを理由に、リーリアは一方的に断罪された。


真実は違う。


王子の態度は傲慢で、リーリアを見下し。


尊厳を踏みにじるような言葉を、平気でぶつけてきた。


「お言葉ですが」


耐えかねて、一度だけ言い返したことが、彼らの逆鱗に触れたのだ。


器が極小すぎるでしょ。


「今日限り、お前はわが家の人間ではない!」


有無を言わさぬ宣告。


最低限の荷物だけを押し付けられ、冷たい夜の街へと放り出された。


(私なら、こんな理不尽、絶対に許さない!)


心の中で、前世の自分が叫んだ。


土と植物を愛し、どんな困難にも屈しなかった庭師の魂が、今のリーリアの中で静かに燃え始めた。


前の職業は女庭師。


凍えるような寒さの中、あてもなく歩いた。


貴族令嬢としての知識も教養も、今の彼女には何の役にも立たない。


肩書きがなくなったのだな。


「あの、毒家族達めっ」


空腹と不安が、じわじわと体を蝕んでいく。


そんな時、路地の奥からガラの悪い声が聞こえた。


「おい、そこのお嬢ちゃん!こんなところで何してんだ?」


警戒しながら振り返る。


そこに立っていたのは、黒い革のジャケットをラフに着こなし、銀色のピアスをいくつも着け。


いかにも“やんちゃ”という雰囲気の、青年。


鋭い眼光が、獲物を定めるようにこちらを射抜く。


「……別に」


精一杯の強がりで答えるリーリアに、青年はニヤリと笑った。


「ふーん。もしかして、行き場がないのか?」


図星だった。


リーリアは何も言えずに俯く。


「まあいいや。俺はキール。あんたは?」


「リーリア」


「リーリア、ね。面白い。よかったら、うちに来るか?少々騒がしいけど、野宿よりはマシだぜ」


キールの言葉には、警戒しながらもわずかな希望を感じた。


他に頼る人もいない。


意を決して頷いた。


キールに連れられたのは、街の裏通りにある、酒場のような賑やかな場所。


様々な身なりの人々が酒を飲み、騒ぎ、中には剣を磨いている者もいる。


場違いな場所に足を踏み入れてしまったと、一瞬後悔した。


「おい、みんな!新しい仲間だ」


キールがそう言うと、周囲の視線が一斉に集まった。


好奇の目、訝しむ目、中には下卑た視線を向けてくる者も。


うわぁ。


「こいつはリーリア。今日からしばらく、ここで厄介になる」


キールの言葉に、ざわめきが起こる。


そんな中、一人の屈強な男が近づいてきた。


「キール、こんなお嬢ちゃん、連れてきてどうするんだ?足手まといになるだけだろ」


男の言葉に、身をすくませた。


しかし、キールはニッと笑って男の肩を叩く。


「心配すんなって、ゴルド。意外と役に立つかもしれねえぜ?」


その言葉の意味が、すぐに明らかになる。


数日後、キールが率いる盗賊団(どうやら、彼らはそういう集団らしい)が、とある貴族の屋敷に忍び込む計画を立てた。


リーリアは、庭の手入れ具合を見ただけで、屋敷の構造や警備の配置、抜け道を的確に言い当てたのだ。


前世の庭師としての知識が、思わぬ形で役に立ったのである。


「へえ、あんた、本当にただのお嬢ちゃんじゃないんだな」


キールは目を丸くしてリーリアを見つめた。


「庭師をしていたの」


「庭師?そんな知識が、こんなところで役に立つなんてな!」


キールは豪快に笑った。


この一件以来、リーリアはキールたちにとって、単なる厄介者ではなく、頼れる仲間として認められるようになった。


リーリアの中で、ある計画が静かに芽生え始めていた。


自分を追い出した、元家族への復讐。


彼らに、自分が無能な役立たずではないこと。


理不尽な行いの代償を、思い知らせてやりたい。


そのためには、もっと力をつける必要がある。


リーリアは、キールたちに様々なことを教わりながら、生きるための術を身につけていった。


彼らは、ただの盗賊集団ではなかったのだ。


盗賊としての隠密行動、護身術。


前世の知識を応用した奇襲作戦。


キールもまた、リーリアの成長を面白がり、積極的に協力してくれた。


粗野な言葉遣いとは裏腹に、彼は仲間思いで、面倒見の良い男だ。


いつしか、彼のことを単なる庇護者以上の存在として、意識するようになっていた。


彼の不器用な優しさや、時折見せる真剣な眼差しに、心が惹かれていく。


「おい、リーリア!ぼーっとしてる暇があったら、もっと動きを早くしろ!」


キールの声が、訓練場の隅に立つリーリアに飛んだ。


「ごめん」


少し頬を赤らめながら、リーリアは再び訓練に集中する。


これは自分が悪い。


剣の扱いも、最初はぎこちなかったが。


キールの熱心な指導のおかげで、ずいぶんと様になってきた。


数ヶ月後、かつての自分とは見違えるほど成長していた。


精神的にも。


冷静な判断力、素早い身のこなし、強い意志を。


ついにその日が来た。


キールたちが、元実家である公爵家の財産を狙う計画を立てたのだ。


その計画に積極的に参加することを申し出る。


「私も行く。私が、あの家の中のことは一番よく知っているから」


キールは少し、心配そうな顔をした。


「危ない真似はするなよ」


「大丈夫。今度の私は、簡単に追い出されるような弱い女じゃない」


夜の闇に紛れ、リーリアたちは公爵家の屋敷へと忍び込んだ。


襲うことに、罪悪感なんてあるわけがない。


この数ヶ月で培った技術を駆使し、警備の目を掻い潜っていく。


庭の手入れの甘さ、見張り番の配置の隙。


全てが、頭の中で鮮明に浮かび上がってくる。


ついにたどり着いたのは、公爵の私室。


そこで、父と義母、二人の異母妹が、奪った財産を前に醜く笑い合っている光景を目にする。


「これで、あの出来損ないの娘がいなくても、私たちは安泰ね」


義母の言葉が、リーリアの胸に突き刺さる。


よくも。


怒りと憎しみが、静かに確実に燃え上がった。


合図と共に、キールたちが部屋に突入する。


突然の襲撃に、公爵一家は驚愕し、喚き散らし始めた。


「な、何者だ!」


狼狽える父に、冷たい視線を送った。


「久しぶりね、お父様」


元娘の声を聞いた瞬間、公爵の顔はみるみる青ざめていく。


「リー、リア……!?お前、まさか……!」


「まさか、生きていて、こうしてあなたたちの前に現れるとは、思ってもいなかったでしょうね」


この数ヶ月の間に考え抜いた言葉を、一つ一つ丁寧に紡ぎ出した。


「あなたが私を役立たずと罵り、追い出したあの日から、私は変わりました。あなたたちが踏みにじった私の尊厳を、もう二度と誰にも汚させない」


義母や異母妹たちは、何が起こったのか理解できずに震えている。


話すだけ話す。


きっと、最後だ。


キールは、そんな彼女たちを面白そうに眺めている。


「お前のような出来損ないに、一体何ができるというのだ!」


なにができるというが、今こうやって押し込んでいるではないか?


父は最後の抵抗とばかりに叫んだ。


「私に何ができるか、教えて差し上げましょう」


リーリアは、キールから預かった短剣をゆっくりと構え。


それは、かつて庭師だった自分が、大切に手入れしていた、剪定鋏を思い出させた。


「腐敗した部分は剪定しないと」


言葉の刃で、彼らの傲慢さ、冷酷さ、そして愚かさを容赦なく抉り出す。


王子に袖にされたのは、自分のせいではないこと。


最初から気に入らなかっただけ。


彼らが真実を見ようともせず、一方的に自分を断罪したこと。


最初から、機会があればやろうとしていただけ。


そして、追い出した娘が、今こうして自分たちの前に立っているという現実。


「きっともう貴族として生きてはいけないと、暗示されていたのです」


言葉の一つ一つが、公爵一家の心を蝕んでいく。


毒を流し込む。


特に、かつて自分が蔑んでいた娘の、堂々とした態度。


鋭い眼光は、彼らに大きな衝撃を与えた。


遠慮なく不正を言ってやったのだ。


「あなたたちが私を追い出したおかげで、私は大切な仲間と出会い、強くなることができた。感謝こそすれ、恨みはないわ」


リーリアはそう言いながらも、その瞳には確かな怒りが宿っていた。


「でも、あなたたちが犯した罪は、決して許されるものではない」


キールがニヤリと笑い、公爵の肩に手を置いた。


「お嬢ちゃんの言う通りだ。あんたらがやったことは、タダじゃ済まねえぞ」


結局、公爵家の財産はキールたちの手に渡り、公爵一家は失意のどん底に突き落とされた。


リーリアは、直接的な暴力を振るうことはしなかったものの。


彼らの築き上げてきたものを奪い、精神的に打ちのめすことで、十分な報復を果たしたのだ。


騒動の後、キールはリーリアに優しく語りかけた。


「よくやったな、リーリア。見違えるほど強くなった」


「ありがとう、キール。あなたと、みんなのおかげ」


初めて心からの笑顔を見せた。


その笑顔は、かつての陰鬱さを微塵も感じさせない、明るく輝くものだった。


「なあ、リーリア」


キールは少し照れたように言葉を続ける。


「もしよかったら、これからもずっと、俺たちの側にいてくれないか?」


リーリアは、キールの瞳をじっと見つめた。


粗野だけれど温かい眼差し。


自分を信じ、支えてくれた大切な人。


「ええ、喜んで」


数日後、街の片隅でやつれ果てた公爵一家が、惨めな姿で施しを受けているのを見かけた。


当主の証も奪ったので、身元が証明できないからだ。


一瞬だけ憐れみの情を抱いたが、すぐにその思いを振り払う。


これは、彼らが自ら招いた結果。


キールと共に新たな道を歩み始めた。


盗賊団の一員として、弱きを助け、強きを挫く。


前世の庭師としての知識も活かし、人々の生活を豊かにする活動も始めた。


荒れた土地を耕し、花を植え、実りをもたらす。


その噂は広まり、人々から感謝されるようになった。


かつての家族は、失った財産と名誉を取り戻そうと画策するだろう。


しかし、今のリーリアはもう、あの頃の弱々しい少女ではない。


彼女の傍には、頼れる仲間たちと、何よりも大切な、素敵な恋人がいる。

⭐︎の評価をしていただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ