プロローグ
今私たちの住む世界は「平等」を掲げている
まるでそれはそうするのが当たり前のように
だがそんなのは空想で理想像でしか過ぎない
私たちは生まれながらにして平等ではない
しかし私たちの世界は平等のように見えなければいけないらしい
もし世界がすべて平等であるなら
それは退屈でつまらない世界であることだろう
ビビビビビ
アラームが部屋に鳴り響く
いつも通りにうるさく、煩わしいようなアラーム
だがなぜだろう。このアラームを聞くと不思議と目が覚める
私は左手で手探りで目覚まし時計を探す
1回目は空振り、2回目にしてようやく目覚まし時計を見つけることができた
そしてそのまま流れるようにアラームを止めた
私はまるでかたつむりのようにのっそりと起き上がる
時計は午前6時半を指していた
いつも通りの朝
カーテンを開けてみると太陽からギラギラと出る日差しがまぶしい
だがこの行為がコーヒーを飲むよりも自分を起こすのに適しているのだ
「今日も仕事か....」
不思議と口から漏れ出ていた
私の仕事は研究だ
いや研究というよりも管理のほうが正しいだろうか
日本政府公認「CBT」の研究員として仕事をこなしている
私がやることはただ一つ
いたって単純で簡単な仕事
「叡智の書 シグマ・ヴィルギニス」の管理である
昔この本の報告書を読んだことがある
その報告書を要約するとこのようなことが記されていた
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報告書 021
シグマ・ヴィルギニスの特異性について
第4回目の実験では研究員042「クルウェー・ノーレッジ」研究員043「霧島卓也」の2人による無線機、カメラを持った実験が行われていますが
無線機は機能せず、カメラのライブ映像も別次元にとんだ瞬間に途切れてしまいました
またカメラを使って本の内容を確認する第5回目の実験では本の登場人物に研究員042.043の名前が記されていることを確認出来ました
このことからこの本はこの本を読んだ人を別次元へと飛ばす特異性を持つと考えられています
なおこの特異性はカメラ越しに本を読んだとしても発動しません
見ることが無ければ害はないためClassは2、厳重管理体制がとられています
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まあ簡単に言うと「決して読んではいけない本」ということだ
そんな本を誰にも見せないために管理するのが私の仕事というわけだ
まあ管理といっても警報も監視カメラもつけられているし私がやることといえばゆったりとコーヒーを飲みながら報告書に目を通すくらいである
「じゃあ、行ってくるから」
誰もいない部屋に別れを告げた後
私はこの世界にもサヨナラを告げた