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真っ白子ウサギの自嘲

「世間一般的に見たら、あなたの考えは多数派かもしれないわね。私たち孤児が、キラキラとした夢なんか持っていたら哀れで滑稽かもしれないね。だけど、わたしたち孤児が夢をもったらいけないなんて誰が決めたの?」


「………うるせーよ。哀れで滑稽と思われてるとわかってんなら、そんな無駄なことするなよ。歌を世界中に届ける? はっ。馬鹿以外の何者でもねーな。」


「まあ、若いのに現実的なんだね。じゃあ、ウィルはどんな現実的な夢を持っているの?」


「………俺が、夢なんて持ってるわけねーだろ! どうせ、どうせ俺なんて、呪われたいらない奴なんだ! お前も思っているんだろ? この気持ち悪い俺の外見を! 

人になんか期待してないし、俺自身にも期待していない。」



ウィルは大声でそう言い切ると、肩を上下させながら大きく息を吸っていた。

なんとなく、事情がみえてきたような気がする。ウィルの珍しい外見が原因で何かあったのだろう、と。……だけど。



「私はそういうことは聞いてないよ。私はウィル自身は、何か夢を持っているのかと聞いたの。」



「………だから、夢なんて持ってねーよ! そんなの持っていたって、意味ねーんだから! さっきから、うざいことばかり言いやがって、俺に構うなと言ってるだろ!」


「うふふふふ。それは無理な相談だよ。私には、あなたをお世話する義務があるもの。……いや、違うかな。それもあるけど、あなたのことをちゃんと知って、この孤児院の家族になってほしいと思ってるよ。」



私がそういうと、ウィルは様々な感情を孕んだ紅の瞳で私のことを睨みつけた。

そして、嘲るような表情で口をひらこうとしたときだった。ノック音が聞こえて、扉が開くと、そこにはトレーを持ったミーアお姉ちゃんがいた。




「院長先生に許可をとって、夕食を持ってきたよ。」


「まあ、ミーアお姉ちゃんありがとう! 夕食をあきらめる覚悟はしていたから、とてもうれしいよ!」


「うふふふふ。2人とも、お腹すいたでしょう? 2人の声が扉の向こうまで聞こえていたわ。とりあえず、ご飯を食べて気分を変えましょう。」



あらら……。自分では冷静なつもりだったけど、思っていたよりも大きな声が出ていたようだ。

生前の年とこちらでの年を合わせれば、私はすでに立派な大人なのだから気を付けないと。

私はミーアお姉ちゃんから差し出されたトレーに目を向けた。……って、あれ? 今日の料理……。


「いらねーよ!」


大声と共に、食器が地面に落ちる音が室内に響き渡った。

見ると、ウィルがミーアお姉ちゃんから差し出されたトレーを叩き落としたようだった。


プチン。

私の中で何かが切れたような音がしたのと同時に、「パチン」っと、私はウィルの頬を叩いた。


「……な! 何すんだ」


「あなたはここに来たばかりだから、孤児院の食糧事情を知らないのはしょうがない。だから、教えてあげるね。孤児院の食事は、神殿の神官や巫女が食べ終わった後の残りものなの。孤児院全体分を賄うにはあまりに少なすぎるんだよ。だから私たちは、森に行って狩りをしたり、採集をしたりするの。だけど、自給自足にも限界がある。とった分を毎回食べていたら、もしもの時に対応できないし、なにより実りがなくなる冬を越すことができなくなる。だから毎回の食事は、下げ渡されたものを水でかさまししたり、体調を崩さない程度に量を少なくしたりしているんだよ。……でも、今日の私たちの食事はいつもより量も多く、具材が多かった。それがどういうことかわかる? 孤児院のみんなが、自分たちが食べる分を我慢して私たちの食事を増やしてくれたんだよ。新入りのあなたを歓迎するためにね。そんな貴重な食事をあなたは地面に捨てたんだよ。それがどういうことかわからないほど、子どもではないでしょう?」



地面に叩き落された食事を片付けながら、私はウィルにそういった。

ウィルが孤児院の事情をまだ知らないのも知っている。ウィルが感情的に食事を地面に叩き落としたのもわかっている。だけど、我慢することができなかった。


「片付けも終わったし、私たちは今日は自分の部屋に戻るね。明日の朝食にはちゃんと来てね。」


私はそういうと、ミーアお姉ちゃんを部屋をあとにした。





ーー




「チッ……。」


俺は舌打ちをしながら、まだ痛む頬をおさえた。

あいつ……俺のことを何も知らずに勝手に言いやがって。


俺の名前はウィル。8歳だ。孤児院に来るまでは下町で暮らしていた。

下町では、母さんと2人で暮らしていた。……いや、たまに知らない男が来ていたな。

俺は父親の顔を知らないし、聞いたこともない。物心がついたときには、母さんと2人だった。



「……はー、気味が悪いわ。絶対に家から出てはだめよ。本当にお前さえ生まれなければ、こんな下町なんかに来ることもなかったのに。」



気味が悪い。母さんから何回も聞かされた言葉だ。

白い髪に紅の瞳。母さんと何一つ似ていない俺の容姿は、気味が悪いらしい。外に出たことがないから、俺にはわからなかった。


気味が悪いと言われながらも、付かず離れずという感じの日々が流れた。

だけど、それが壊れたのは5歳の時の夏の日だった。



「これが最後? もうお金は渡さないですって!? ふざけないで!」


毎月どこからかお金が入った袋が届けられていたが、その袋に入っていた紙を見ながら、母さんが喚き散らしていたのが始まりだ。

しばらく喚き散らしていた母さんは、俺のことを睨みつけて、「お前のせいだ」と口にした。


それから、母さんは夜な夜などこかへと出かけていった。何日も帰らないとことなんてしょっちゅうあった。そんな日が何年か続いた。

ある日、突然帰ってきた母さんは、「いいというまでここから出ないように」といった。

何日ぶりかの食事となる硬いパンを与えられた俺は素直に頷いて、押し入れへと入った。



すると、聞いたことがない男の声が聞こえてきた。

母さんの友達かな。ちょっとだけ、見てみようかな。そう思った俺は、押し入れの戸を少し開けて室内を見渡した。

しかし、何日も食事をとっていなかった俺の体は、限界だった。バランスを崩した俺の体は、大きな音を立てて押し入れの戸へとぶつかった。



「その中に何かいるのか?」


聞き慣れない男の声が聞こえた。

どうしよう、どうしよう。


「………い、いいえ。何もいないわ。気のせいじゃないかしら?」


「気のせいなわけないだろ? 開けるぞ。」



男はそういうと、母さんの静止も聞かずに俺がいる押し入れの戸を開いた。

すると、鋭い視線が俺に突き刺さった。



「何、こいつ。お前のガキか? ガキがいるなら面倒だし、お前とは暮らせないな。」


「ま、まってよ! これはその……ただ、家に置いておくだけでいいから!」


「あ? 嫌だよ。それに、こんな気味の悪い外見のガキなんか嫌だぜ。まるで悪魔みたいだな。」



見知らぬ男はそういうと、母さんを振り払って家を出て行ってしまった。

母さんは少しの間微動だにせずその場に立ち尽くしていた。すると、突然金切り声を上げて俺に馬乗りなった。

しばらくの間殴られ続けた俺は、「ごめんなさい」と繰り返して、意識を失った。



それからというもの、母さんは俺のことを「悪魔」と呼ぶようになった。



「悪魔、音を立てないでいいと言いうまでここにいて。悪魔、しばらく外にでていって。 悪魔。」



外に出た俺の姿を見た周りの人たちは、そろって「気味が悪い」といった。

なんで俺が悪魔と呼ばれなければいけない? 気味悪がられなければいけない? 俺が何かしたのか? 



ふざけるな。


人には期待しない。俺の外見を見た周りのやつらは、俺のことを悪魔と思っているにきまっている。




母さんは帰ってこなくなった。

そうして俺は、大家と名乗る男に捨てられた。




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