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ケーキはやっぱりショートケーキに限るよね

孤児の数は減ることがほとんどない。市井の者が育てられないと神殿に預けることや、神殿内で生まれることによるものが原因だ。

特徴としてそのほとんどが、赤ん坊のときや物心がつく前に連れてこられるということだ。そうであるならば、自然と孤児院での生活を受け入れることができる。

しかし、4、5歳以降、突然親に捨てられたり、その他何らかの理由で孤児となったりすることで孤児院にやってくる者が多くはないが一定数存在する。

そういう子供の特徴は、心を閉ざしたりかんしゃくを起こしたりすることだ。だけと、無理もないことだ。突然親元から離されるのだから、幼い子供が精神的に不安定になるのは当然だ。

そういう子供たちを受け入れるのが、孤児院の役目なのだ。


「おい、パイル聞いたか? 今日新入りが来るらしいぜ?」


「ほへ~。」



まだ寝ぼけた頭で固いパンを咀嚼している私に、コニーは新入りが来ることを告げた。

新入りが来ることは、特段珍しいイベントではない。だけど、孤児院のメンバーが増えることはうれしいことだ。



「ここ最近はあんまりなかったわよね。何歳くらいの子が来るか聞いている?」


すでに朝食を食べ終わって、編み物をしているミーアお姉ちゃんがコニーにそう尋ねた。

私とは別方向で、女子力が高くて何よりである。ちなみに、私は裁縫の類の才能が少々欠けている。



「聞いてねー。どうせ、赤ん坊だろう?」


「ふふふふ。赤ん坊なら、私がお世話してみたいな。今までは、病弱なこともあって赤ん坊のお世話に携わることができなかったから。」


すっかり、元気になったイールがまだ見ぬ赤ん坊に思いを馳せながらそう言った。

うふふふふ。イールもお姉ちゃんになりたい年ごろなのね。確かに、子守歌を歌って赤ん坊が笑ってくれるととてもうれしい。


さてと。残りのパンを一気に頬張って飲み込んだ私は、勢いよく立ち上がった。



「よし! 新入りの家族を気持ちよく迎えるために、朝のお掃除を頑張りましょう!」


「今日の掃除場所は、孤児院じゃなくて神殿だけどなー。」


「………モテないよ。」


「やかましいわ!」






ーー






私たちは、神殿の玄関へとやってきた。

今日は、私たち4人で神殿の玄関を掃除するのだ。もちろんその他の場所にもそれぞれ掃除に向かっている。この人数で大きな玄関を掃除するため、午前いっぱいかかるのだ。




「イール。床掃除は俺がやるから、お前はミーアと一緒に扉を拭けよ!。あ、口に布をまくのも忘れるなよ。」


「はいはい、毎日聞いてるから大丈夫だよ。明日は、私も床掃除をやるからね?」


「お前にはまだ早い!」



あらあら。相変わらず、イールの前ではかっこつけているんだね。男の子はよくわからない。

それにしても、ここにも歌姫の私がいるんだけどな。


「私は?」


「パイルは俺と一緒に床掃除だ! この前トイレに行く手助けをしてやっただろ!」


「なっ!」



私がさらに反論しようとすると、ミーアお姉ちゃんが私とコニーの口を慌てて塞いだ。

そして、すさまじい眼力とともに、小声で「誰か来るわ、静かに!」と告げた。

私とコニーはピシャリと口を閉ざして、静かに頷いた。貴族である神官や巫女に、私たちが楽しそうに掃除をしている姿を見られたら、災厄折檻を受けても不思議ではない。

彼ら彼女らにとって、私たち孤児は同じ人間ではなく、数段下の生き物だから。


私たちはすぐさま胸の前で腕を交差させて跪いた。面倒くさいが、神官や巫女が通るたびに、私たちは跪かなければならないのだ。

とはいっても、廊下ならともかく、ほとんど神殿から出ることがない神官や巫女が玄関に来ることはめったにない。私たちは近づく足音が過ぎ去るのをじっと待つのみだ。

だけど、私はちらっとだけ足音の主の方へ向けて視線を送ってみた。


するとそこには、普通の神官とは一線を画すような雰囲気を持った神官が3人いた。

とんでもなくイケメンの神官を中心に、1人は神殿ではまずいない帯剣をした神官、もう1人は地味顔の上に人好きのしそうな笑顔を浮かべた神官だ。

間違いない。あのイケメンは神官長だ。私はすぐに視線を地面に戻した。

神官長とは、神殿長に次ぐNo.2の力を持った神官のことだ。とんでもなく美形のため、孤児院の中でも見られれば1日幸運でいられると噂になっているくらいだ。

それにしても、神殿内は争いごとはご法度なのに帯剣が許されているなんて、地位の高い人は苦労が多そうで大変だな。


足音は私たちなんて歯牙にもかけてないと言わんばかりに、颯爽と遠ざかっていった。


   


「いやー、緊張したな。神官長は何というか、他の方々とは雰囲気が違うよな。」


「ええ、そうね。視線があったら、硬直して動けなさそうね。」



みんなは、やっと息が吸えると言わんばかりに深呼吸をしている。確かに、あの清廉な空気を直接向けられれば、まともに息なんか吸えなくなってしまうだろう。

まあ、私たち孤児が神官長とかかわる機会なんてないだろうけどね。



それから私たちはてきぱきと玄関掃除を終え、孤児院へと帰還した。

さあ、昼食ね。その後は、礼儀作法の座学で晴れて自由時間よ! 今日は久しぶりに、作詞作曲に取り組もうかな。

そうして自由時間になると、院長先生が新しい家族が増えることを告げた。



「今日から新しい家族が増えることになります。さあ、いらっしゃい。」



院長先生がそういうと、クルルお兄ちゃんの後ろから男の子が歩いてきた。

物心は……ついているようだ。



「……真っ白。」



どこからともなく、そんな声が聞こえてきた。

そう、年齢もだけど、何よりその外見に目が行ってしまう。この世界の人たちはカラフルな髪や瞳をしている。かくいう私も、桜色の髪に翡翠の瞳とわりかし派手に分類される外見をしているのだけど、彼は別格と言っていいほどだ。彼の髪は、今まで見たこともない色、真っ白なのだ。前髪で目は覆われていて、長くボサボサだ。それだけで、どういう環境で育ってきたのか、なんとなく想像はできる。


「チッ。」


え……? 舌打ち? 今、舌打ちが聞こえたような……。気のせいかしら?



「名前は、ウィル。年齢は、8歳よ。さあ、自己紹介をお願いします。」



ウィルと呼ばれた少年は、目元が髪で隠れているため今どんな表情をしているかはわからない。

だけど、院長先生から自己紹介を促されても黙ったままだった。

波乱の予感だ。




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