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お見舞いとエメラルド

「おーい、パイル。」


今日のトレーニング内容について確認していると、コニーが声をかけてきた。

どうやら一緒に、歌のトレーニングをしたいようだ。


「今日は、体幹トレーニングをする予定だよ。安定した体幹があってこそ、安定した歌声になるんだよ!」


「そんなこと聞いてねーよ。それよりも、今日はイールの面会ができるらしいぜ。院長先生から聞いたんだ!」


「本当⁉ 早速行こう!」



イールとは、私とコニーと同じ年齢の女の子だ。

つまり、同級生、同期と言ったところだ。イールは生まれつき体が弱く、今は重い風をひいてしまっている。最近まで、院長先生から面会謝絶が言い渡されていたが、どうやら回復兆しをみせているようだ。


私とコニーは、早速イールの部屋へと足を運んだ。



「あ、パイルとコニー! 来てくれたんだね!」


イールは、ベットに体重を完全にあずける様にして、かろうじて上体を起こしていた。しかし、あまりいいとは言えない顔色にもかかわらず、私たちを笑顔で迎えてくれた。

イールは、編み物と読書が好きな心優しい女の子だ。



「当たり前だよ! 体調は大丈夫?」


「うん、昨日に比べたら全然つらくないよ。コホコホ」


「おい、イール! まだ寝といた方が良いんじゃないか? あんまり顔色がよくないみたいだし……。」


「んーん、大丈夫だよ。2人と話すと、元気がもらえるからね。」


コニーは心配そうな表情を浮かべて、布団をかけてやったり、のどが渇いていないか聞いたりなど、イールのお世話をしだした。

普段はこんなにも、世話焼きのタイプじゃないと思うのにな。


「コニー相変わらず、イールには紳士な対応をするね。普段から、私にもしてほしいな?」


「し、紳士じゃねーよ! 普通だ普通。というか、お前には必要ないだろ。俺はお前のことを男兄弟だと思っているからな。」


「な!」


このジャガイモ小僧は、なんて失礼なのかしら!

ジャガイモと兄弟というのなら、私はサツマイモかなにかということなの? 私の可憐で儚げな歌姫たる姿を見て、なぜそのようなことが言えるのか疑問である。 


「私はイモではなく、歌姫よ!」


「ツッコむところちげーよ!」


それをきっかけに、私とコニーがヤーヤー言い合っていると、すーっと扉が開いて、笑顔のミーアお姉ちゃんが顔をのぞかせた。

まるで、ホラー映画のワンシーンみたいだ。




「病人のいる部屋で騒いではいけませんよ、2人とも。」


「ミ、ミーアお姉ちゃん! やだなー、私たちは騒いでなんかいないよ? ねえ、コニー?」


「お、おう! イールを励ましているところだ!」



私たちがすさまじい回数のアイコンタクトを取りながら弁明すると、ミーアお姉ちゃんはあきれたような表情でイールに確認をとった。



「本当なの、イール?」


「うん、そうだよ。2人とも、息の合ったやり取りで、私を楽しませてくれていたよ。」


「「息なんか合ってない(ねー)よ!」」



私とコニーが同時にそういうと、ミーアお姉ちゃんとイールは顔を見合わせてクスクスと笑い出した。

……同い年だからか、なぜか息があってしまっただけだ。



「ふふふふ。でもね、パイルはとってもかわいいし、コニーは、とってもかっこいいと私は思うよ。」


「まあ、流石イールね! 私の歌姫としての資質をわかっているなんて、流石だよ! ねえ、コニー?」


「………お、おう。」


見ると、コニーは顔を少し赤らめいていた。

きっと、同い年の女の子からかっこいいと言われて、照れているのだろう。


「パイル、コニー。そろそろ、面会時間は終わりよ。」


「え? もうそんな時間なの? じゃあ、イールが早く良くなるように、私の歌をプレゼントして、締めと行きましょうか!」


「やったー! 久しぶりに、パイルの歌が聞けるのね!」


「もちろんよ! じゃあいくわよ!」




ーー




次の日。

朝食をとろうと食堂の席についていると、体調が随分とよさそうなイールが食堂に現れた。



「え? イール!?」


どこからともなく声が上がったかと思うと、イールの周りにわらわらと子供たちが集まった。

みんなが驚くのも無理はない。昔から体の弱いイールは、めったに歩き回ることはなかった。食事も寝室でとることがほとんだった。


すると、後ろから現れた院長先生も、不思議だと言わんばかりに頬に手を当てて口を開いた。



「急に体調がよくなるなんて、不思議だわ。何か、特別なことがあったのかしら。」


「………もしかしたら、パイルの歌のおかげかもしれません!」



イールがハッと思い出したように、そういうと、院長先生は目を瞬かせて、私に視線を送った。

確かに、私の癒しのオリジナルソングで、病気がよくなった可能性は大いにある。



「昨日パイルの歌を聞いている時、不思議と体が楽になっていくのを感じたんだよ! 気のせいかな、とも思ったんだけどね。」


イールが思い出したようにそういうと、院長先生は顔を色をサーッと変えると、私に「食後に院長室に来るように」と言い残して、食堂をあとにした。



「院長先生どうしたんだろう?」


「さー? 私のファンクラブの設立を急がないといけないと、気づいたのかもしれないね。」


私がそういうと、イールは理解不能とばかりに首をかしげた。

そんなイールをコニーが、あきれた表情で席へと誘導した。





食後、私は堂々と院長室へと入室した。

だって、何もわることはしていないもの。こういう時は、堂々としているのが大切だ。


「いらっしゃい、パイル。さあ、ここに座って。あなたに渡したいものと大切なお話があります。」


院長先生は、優しく、だけど確かな意思を感じさせる表情で私を席へと促した。

何だろう、かなりまじめな話の様だ。……もしかして、まあ、それはないか。私は、頭を切り替えてまじめな話を聞く体勢をとった。



「パイル、あなたにこの石を渡します。常に肌身離さず身につけておきなさい。それからこの石は人目に触れないように、常に服の中に入れておくのよ。」


院長先生はそういうと、淡いエメラルドグリーン色の石がついたネックレスを私に差し出した。

とてもきれいな石だ。……。まるで、院長先生の瞳の色みたいにね。


「………とてもきれいな石ですね。だけど私にだけ、ですか?」


「ええ、そうよ。」


「理由をお伺いしてもよろしいですか?」


「………ごめんなさい。今はまだ、確証があるわけではないから、話すことができないわ。それでも、身につけて欲しいの。」


院長先生は、どこか切実さを孕んだような表情で私にそう言った。

普段あまり見ない、というよりも、初めて見る表情かもしれない。それだけの何かがある、ということなのだろう。



「わかりました。ありがたく頂戴します。」


「………ありがとう、パイル。では、今から注意事項を言うわね。その石が熱を帯び始めたら、感情を落ち着けて、その時に行っている行動の一切を止めること。熱が一定ラインを越えてしまうと、その石は光を帯びてしまうわ。決して、光らせてはだめよ。光ってしまったら、パイルだけにこの石を渡したことがみんなに伝わってしまいますからね。」


院長先生は、そう言って悪戯っ子のような笑みを私に向けた。

おどけたように言っているが、周りには決してばれないようにしろということだ。熱を持つことや光を帯びることに疑問を感じるが、今聞いても答えてはくれないだろう。

何か特別なことをしなければ、ただの石が付いたネックレスを身につけているに過ぎないということだ。


「わかりました。気を付けますね。」


「こういう時のあなたは、とても素直ね。」


「いつも、素直ですよ。」


「自分の欲求に素直なことは認めるわ。特に、歌に対する欲ね。」



私は院長先生の言葉に静かにほほ笑みを返して、明言を避けた。

院長先生もそれを察したようで、退出の許可を出してくれた。


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