セクハラ発言はあとにしてください
「神官長。聖女の力はどのように行使すればよろしいのでしょうか。」
「聖女の力を行使するには、最近其方に習わせている舞を……聖女の舞を行う必要がある。だが、聖女の力を行使するとはすなわち、己の身に瘴気を取り込むということだ。聖女自身は取り込んだ瘴気を浄化する力を持っているが、一度に多量に取り込んだり、浄化を上回る頻度で瘴気を取り込めば、最悪死に至る。其方の許容量は、先程の判定で通常の聖女たちよりも桁違いに多いことが判明したが、孤児院全体の瘴気を取り込むことになれば其方の安全は保障できぬ。……其方自身も何らかの代償を負うことを覚悟した方が良い。」
聖女の舞。
1か月ほど前から、神官長に直々に教えられていたものだ。
歌や楽器のほかに、踊りまでやらせるのかと思いながら続けていたけど、まさかそのような意味があったなんて思いもしなかったな。
もちろん、私の体内に瘴気を取り込むことによって孤児院のみんなを助けられるというのなら、喜んで聖女の舞を行うよ。
だけど、1つだけ気になることがある。
私が身につけていたあの魔石が反応したのは、いつも私が歌っていた時だ。舞を行うよりも歌うことの方が効果が高いとかそういう事情があるのなら、私は歌でみんなを助けたい。
「かしこまりました。……1つだけ気になることがあるのですが、よろしいでしょうか。」
「なんだ?」
「私が身につけていた魔石が反応を示したのは、決まって私が歌っている時でした。ということは、歌うことでも聖女の力を行使することができるということなのでしょうか?」
私がそういうと、神官長とイングランド様は少しの間視線を交わし合った後に、ゆっくりと1つ頷いた。
「聖女の力を行使する方法は、聖女の舞を行うこと以外は知られていない。しかし、騎士団の前で其方が歌を披露したあとに、一部の瘴魔石が理由はわからないが通常の魔石になっていた。このことから、私たちは其方に何らかの力があるのではないかと仮定し、其方について様々な調査を行ったのだ。」
「様々な調査、ですか……。私には身に覚えがございませんが……。」
「其方に楽師としての仕事をさせる部屋に、瘴魔石が入った箱を置いて、其方の力の有無を確認したのだ。」
楽師としての仕事ということは、イングランド様たちが客人として神官長室にいらっしゃっときに、陰でそのような検証をしていたということか。
だけど、先程まで私の力の有無が判明していなかったことを考えると……。
「検証の結果では、其方に聖女の力は認められなかったのだ。」
イングランド様は、私の考えを見透かしたようにそういった。
そうだよね。私の歌と聖女の力の関係は、何もないという結果が得られたということだよね。
「だが、聖女の力を持っている其方が、舞を行わずに何らかの方法で瘴気の除去を行ったのもまた事実だ。其方自身が、歌っている時に闇の魔石の反応を感じたというのなら、舞の前に歌うことを許可する。……其方がやりたいように、皆を救え。」
イングランド様はそういうと、優しげな表情で私を見つめた。……イングランド様は、とてもいい人だな。領主としては甘すぎるのではないかと思うけど、飴がいれば鞭がいるものだ。そう、神官長という鋭い鞭が、ね。
「ありがとう存じます、イングランド様。」
「……ふん。其方は相変わらず甘いな。まあ、良い。早速瘴気の除去に移りたいところだが……1つ気になることがある。そこの小汚い者のことだ。」
神官長はそういうと、ウィルを鋭い視線でみやった。
当のウィルは、今の状況や話の内容についていけていないようで、目を白黒させていた。
ある程度この状況が落ち着いたら、しっかりと説明をしなければ。
「何が気になるのだ?」
「……其方は阿呆か? 我々でも長時間いれば大きな影響があるほどの瘴気が漂っている中で、何日も過ごしたその者が、意識を持ちつつなぜ動けているのか其方は疑問に思わないのか? 現に、他の孤児院の者たちは倒れているというではないか。私には、その者の存在が不思議でならない。」
確かに、今日孤児院に来たばかりのミーアお姉ちゃんでさえ、瘴気に侵されて意識を失っているのだ。
それなのに、長い期間瘴気に蝕まれていたウィルが、意識を保ちふらふらながらも、人を支えられるくらいには力が残っている。神官長が疑問を持つのも不思議ではない。
……だけど、今はそれよりも孤児院の瘴気を取り除く方が先だと思う。
私の思いが通じたのか、イングランド様が引きつるような笑みを浮かべて、口を開いた。
「……阿呆。其方は相変わらず、口が悪いな。まあ、今は其方の好奇心よりも、孤児院の瘴気を取り除く方が先だ。」
「時間はとらせない。」
神官長はそういうと、ウィルの元へと近づいて、見下ろすように問いかけた。
「其方、身体を動かせることに心当たりはあるか?」
「……え? え、いや……。わ、わかりません。」
ウィルは、状況についていけないのも相まって、かなり動揺しているようで、神官長の問いに答えるのに少し時間がかかってしまっていた。
ウィルの答えを聞いた神官長は、眉間にしわを寄せて、冷たい視線をウィルに向けた。
「……た、ただ、私が動かせるのは左半身だけです。右半身は、ほとんど動きません。」
ウィルがそういうと、この場にいる皆の視線がウィルの右半身へと向いた。
確かに、今も左半身に体重を乗せて立っている状態だ。
ミーアお姉ちゃんを支えているのも左手だし、思い返せば先程の一連の動きも左半身を中心としたものだったと思う。
「……左半身だけだと? ふむ。」
神官長はそういうと、何か思い当たる節があるのか。ウィルを再び厳しい視線で見やった。
「其方、上の服を脱げ。」
「神官長!?」
私は急なセクハラ発言に驚いてしまい、思わず大きな声を出してしまった。
「大きな声を出すな、馬鹿者。其方が考えていることはなんとなく想像できるが、そのような馬鹿馬鹿しいことをこの私が言うわけがないだろう? 右半身だけが動かないということは、右半身だけが瘴気に侵されているという奇妙な状況になっているかもしれないと思ったまでだ。」
……な、なるほど?
なんとなくわかったような気はするけど、別に今確かめることのほどのことではないと思う。
まあ、瘴気を除去してしまえばわからなくなってしまうからという理由からかもしれないけど……。
神官長から促すような視線を受けたウィルは、人前で上裸になることにはあまり抵抗がないようで、左手でゆっくりと服を脱ぎ捨てた。
……なにこれ?
ウィルの体を見た私は、いや、私たちは驚きの表情を隠すころとができなかった。
なぜかというと、ウィルの体には右と左で黒い痣の有無がきれいにそして、くっきりと分かれていたからだ。
「ゴホゴホッ!」
すると、沈黙を破るかのように、ミーアお姉ちゃんが苦しそうに咳込んだ。
ミーアお姉ちゃんがこの状態なら、この扉の先にいる皆はもっと苦しい思いをしているはずだ。
もう、神官長の好奇心に付き合っている時間はない。
「神官長……申し訳ございませんが、瘴気の除去に取り掛かってもよろしいでしょうか?」
「……ああ。私もすこし、考えを整理する時間が欲しいと思ったところだ。取り掛かってくれ。」
「かしこまりました。」
神官長許可を得た私は一礼した後に、扉を開いた。




