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鶏が先か卵が先か(※神官長視点)

~ハルウォーガン視点~


神官長室には現在、私と側近、イングランド、そしてメイウッド公爵とその息子であり騎士団長のランベタントがいる。

もちろん神殿にいるような面子ではないため、全員神官服や巫女服を纏っている。

……私が言うのもおかしな話だが、こやつらはなかなかに変わり者のようだ。



先程まではメイウッド公爵の申し出で、パイルの歌の鑑賞会が行われていた。もちろん瘴魔石を配置し、パイルの聖女の力の有無を確かめてみたが、結果は前回と同じだった。

いっそうのこと、回りくどい方法は止めて、あれを使った方が早いのだが……極力は避けたいところだ。



「とても素晴らしい演奏でしたわね。特に歌、貴族でも追随を許さないほどの才能を持っているようですわ。」


「私は、あの者が巫女ではなくただの側仕えであることに驚きました。歌は、とてもよかったと思います。」


「まあ、ランベタント。それくらい見抜けなくて、どうしますの? 騎士団長としてやっていけているのか不安になりますこと。」


「……母上に心配されずとも己が役割をまっとうしております。」


「そうでなくては困ります。」



メイウッド公爵はそういうと、上級貴族らしいほほえみでランベタントを見つめた。

どうやら騎士団長といえども、母親には強く出られないようだ。ランベタントも苦労しているのだな。


「親子の会話は終わりでよいか? 今は、間近に迫った反領主派の切り崩しについて話したいのだが。」


イングランドがそういうと、2人は居住まいを正して首を縦に振った。


「お見苦しいところをお見せしてしまいましたわ。よろしくお願いいたします。」


「うむ。其方らの協力もあって、半数近くはこちら側の陣営に取り込むことができている。あちらの派閥を若干上回ることができていない点が懸念点として挙げられるが、証拠はすでに押さえているため、母上と神殿長を排除することはできると考えている。中立派の動きが読めないところが若干の不安ではあるが、排除への影響は少ないと判断し、また、領内の切迫した状況を踏まえ、来週決行することとする。」


イングランドがそう宣言すると、私たちは首を縦に振って恭順の意を示した。

その後、イングランドが私に視線を送ってきたので、私は引き継ぐように口を開いた。



「決行後の領内の安定を鑑みれば、力の強い新たな聖女を擁立できればよかったのだが、先程の検証のとおり候補の聖女の力を確認することはできなかった。並行して聖女の舞をひそかに覚えさせてはいたが、練度はまだ低く検証するのは排除を決行した後になってしまうだろう。排除後の検証でよければ、神殿長が管理する聖水晶を用いて、聖女の力を判別することが直接的に可能となる。」



パイルには、1か月ほど前から聖女の舞を練習させている。聖女の舞とは、光りの女神に捧げる聖女専用の舞のことで、この舞をすることにより、瘴気を体内へと取り込み、瘴魔石から瘴気を完全に除去することが可能となる。


また、聖水晶とは、対象者が手をかざすことによって聖女の力の有無を判別することができる魔石のことだ。

洗礼式にはすべての女子に手をかざさせて、聖女の力の有無をはかることしている。ただ、領主一族は例外的に毎年、聖女の力を判別することとしている。聖女の力は血縁に受け継がれやすく、領主一族はその可能性が最も高いためこのようになっている。


すると、ランベタントが意を決したように、口を開いた。


「あの側仕えに、聖女の力が宿っている可能性があるということは、瘴魔石の件でわかっているつもりです。ですが、孤児であるあの者に本当に聖女の力が宿っているのでしたら、あの者は聖女から……貴族から産まれた娘ということです。本当にそのようなことがあるのでしょうか?」



「ふむ。その疑問はもっともだ。だが、其方にはまだ言っていなかったが、パイルの出生の秘密についてわかったことがある。ユットゲーの情報収集能力を持ってしても時間がかかってしまったが、確かな情報だ。……あの者の父親は定かでは無いが、生みの母親は判明した。名は、スイートベル。元上級貴族にして、聖女だった者だ。」



「スイートベルとは……。では、あの者は孤児院で……」



「皆まで言うな。」



イングランドがピシャリとそういうと、ランベタントはすぐに口を噤んだ。

まったく、孤児に対しても情が湧くとは、相変わらずだ。




「聖女の子であっても、確実に力を受け継いでいるとは限らん。今すぐ聖水晶で白黒つけられれば良いが、神殿長から取り上げてくるのは骨が折れるだろうな。借りるにしても、理由付けが難しく、色々と感づかれる可能性がある。」


「ああそうだな。頭と品性は低レベルだが、そのくらいはわかるだろう。無駄に力も持っているしな。」


「其方は本当にあの者が嫌いだな。まあ、私も好きではないが。」


「あれに人に好かれる要素などない。其方もそう思うだろう、メイウッド公爵?」


「ええ、そうですわね。大聖女に仕えている時点で、万死に値しますわ。」



メイウッド公爵はそういうと、真っ赤な唇で弧を描いた。

メイウッド公爵の亡くなった夫である前騎士団長は、連戦つづきとなっていた魔獣討伐や将の討伐によって命を落とした。

全ての元凶は、聖女を使い潰し、ましてや他国から瘴魔石を受け入れ、魔石を独占しているあの愚か者だ。

あの愚か者によって、夫の命を奪われたメイウッド公爵は、私と同じくらいあの者を恨んでいる。



「其方らの怒りも頂点に達していることは、私もよくわかっている。本日の打ち合わせを最終とし、後は実行日を残すものとする。皆もそれでよいな?」


イングランドがそういうと、私たちは恭順の意を示すために跪いて首を垂れた。


後は実行の日を待つのみとなったのだな。ようやく、ミレッジナーベの膿を出すことができる。長年悩まされてきた隣とのわだかまりを、このことをきっかに解消していきたいものだ。まったく、反領主派が表舞台にいた期間がそこそこ長いため、引きずり降ろした後の後始末にも一苦労だな。


各々がそれぞれに果たすべきことに思いを馳せるため、少し休憩しようと茶を淹れなおさせていると、扉がけたたましくノックされた。


この様なタイミングで、また品のない神官や巫女が来訪したのか? 後にも先にも来てほしくはないが、何も今来なくてもよかろうに。

まったく、どうでもよい要件だとしたら、そろそろ首をはねてしまおうか。流石のイングランドも、何も言わずに許可をだしてくれるだろう。


扉を開けて品のないノックをした者とやり取りをしたユットゲーが、いつもよりもすこし真面目な顔をして私たちの元へと歩いてきた。


「なんだ、ユットゲー? 可及的速やかな判断が必要な要件なのか?」


「……当人たちにとってはそうですね。」


「当人たちだと? 何があったのだ?」


「はい。今やってきているのはパイルでして、その……孤児院の者たちのほとんどが病に臥せっている状態なので、ご助力願いたいとのことです。」


「なんだと!? すぐにパイルを、この場に連れてこい!」


イングランドはユットゲーの言葉を聞くと、すぐに立ち上がってそう指示を出した。


神官長室にやってきた者なのにもかかわらず、私を差し置いて指示を出すとは、こやつは相変わらずだな。

だが、今はまあ良い。ほとんどの者たちが病に臥せっているということは、感染力の強い病が蔓延しているのか、それとも何らかの感染症の類か、どちらにしてもすぐに浄化しなければ神殿内にも被害が及ぶかもしれない。状況の確認ができ次第、すぐに行動に移さねばならないな。







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