再会は、ディナーの途中で
夕食の時間がやってきた。今は、孤児院に向かっているところだ。
先に院長先生に挨拶をしたいところだけど、今は夕食の時間だから、院長先生を含めみんなは食堂にいるだろう。
少し緊張するけど、食堂に堂々と現れるしかなさそうだ。
神官長が気をまわして、孤児院に私が訪れることを事前に伝えている……なんてことはないよね。
食堂の扉の前に着いた私は、静かにかつ堂々とした態度で扉を開いた。
「え? パイル!?」
扉の近くに座っていた子供たちが私に気づいて声を上げると、瞬く間に周りから驚く声が聞こえてきた。そして、食事を中断して私の周りを囲むようにみんなが集まった。
「どうしたんだよ、パイル?」
「なんでここにいるのー?」
「孤児院に戻ってきてくれたの?」
「側仕えクビになったのか?」
私は頷きながら、1人1人の言葉に耳を傾けて答えていった。
うんうん、聖徳太子はこんな気持ちだったんだね。……って、失礼な言葉が聞こえたんだけど! クビどころか、大活躍しているところだよ!
すると、院長先生が流れるような動作でこちらに向かってきた。その顔はいつもの包容力のある笑顔だったが、少しだけ不安の入り混じった笑顔だった。
「……まあ、パイル。一体どうしたのかしら? もしかして、孤児院に戻されてしまったの?」
「お久しぶりです、院長先生。……まあ、院長先生まで私がへまをやらかして、孤児院へ戻されてしまったと思われているのですか? 大丈夫です、そんなことはありませんよ。むしろ今の私は、側仕え兼楽師として活躍していますよ!」
私がそういうと、院長先生は目を見開いて驚愕した。私の活躍がそれほど驚くべきことなのだろうか? もしくは、楽師に抜擢されるというのが、異例の事態なのかもしれない。私としては、大好きな歌を公式に歌えて……って、あ!
「楽師ということは、歌だけではなく何か楽器も弾いているのですか? 楽師として活躍しているということは、練習中ではなく、すでに本番で弾いているということですよね? 孤児院では、楽器に触れる機会は無かったはずですが、いったいどういうことなのかしら?」
院長先生は、それはそれは素晴らしい笑顔でそう尋ねてきた。
た、確かに院長先生の疑問はもっともだ。神官長は、「私が才があると言ったのだから、楽器くらいは弾けるだろう?」的なスタンスで特に気にはしていないようだけど、普通は孤児の私が楽器を満足にひいていたら疑問に思うはずだ。
前世で似たような楽器をやっていたので弾けました、なんて馬鹿正直にはいえないから、何とかごまかそう。
「楽師として仕えるためには、歌だけではなく楽器もできなければならないと神官長はおっしゃいました。そこで指導役の楽師を私につけていただいて、スパルタ特訓を受けたのです。指導役の方の指導が素晴らしく加えて、幸い私にも少々才があったようなので、短期間に習得することができました。」
私がそういうと、院長先生は穏やかな笑顔を浮かべたままフリーズした。
穏やかな笑顔とは裏腹に院長先生の頭の中は、フルスロットルで色々なことを考えているのだろう。そして、少しの間の後、院長先生は一つ頷いた。
「事情は分かりました。あなたに楽器の才能があったことは驚きましたが、充実した日々を送れているようで安心しました。神官長のご期待に反しないように、しっかりと頑張るのですよ。」
「はい!」
「……それから、わたくしとの約束は忘れていませんね? おかしな事は起こっていませんか?」
院長先生はそういうと、ゆっくりと自身の胸に右手を当てた。おかしなことというのは、ネックレスの石が熱を帯びたり、光ったりしていないかということだ。
それについては、熱も帯びたし、多少だけど光ってしまっている。しかし、馬鹿正直に事実を言うわけにはいかない。
すでに孤児院を出ている私が、院長先生に余計な心労をかけるわけにはいかないのだ。それに、石が光ったからといって特段何かがあったわけではない。光っているところを見られれば問題になるだろうけれど、見つからなければセーフということだ。
「大丈夫です。特におかしな事は起こっていないです!」
「……そう。それなら、安心だわ。今日は、久しぶりにパイルの歌を聴けるのかしら?」
「もちろんです! 何度かの修羅場を乗り越えてきた私の歌を是非聞いてください! 次回からは、シュトラウスを持ってきますね!」
「まあ、楽しみだわ。早速聞かせて欲しいと言いたいところですけど、先に話をした方がよさそうね。」
院長先生はそういうと、椅子に座って目を見開きながら私を凝視しているウィルに視線を向けた。
私も気になって何度か視線を向けていいたけど、割と短くない時間を院長先生と話している中、ずっと目を見開いていたようだ。
もし手元にあるあなら、目薬を差し入れしたい。私はウィルの瞬きを回復させるべく、彼の近くへと向かった。
「ウィル、久しぶりだね。元気だった?」
「……お、おま! な、なんでここに……。」
「うん、とりあえず落ち着こうか。目がカピカピになっているよ。」
私がそういうと、ウィルは袖で目元をゴシゴシとぬぐった。目が乾燥している時にそんなにゴシゴシしたら、目を傷つけるんじゃ……。
すると、ウィルは勢いよく立ち上がって、輝きを取り戻した瞳で私を見つめた。
「なんでここにいるんだよ!」
「簡単に言うと、神官長に頑張ったご褒美として、月に1回孤児院に行く権利をもらったんだよ。私ったら、たくさん頑張ったからね!」
「本当!? 月に1回孤児院に来てくれるの!?」
すると、ウィルではなく周りにいた子どもたちが嬉しそうに反応を示した。こんなにもうれしい顔をされてしまったら、毎日来たくなってしまう。
……いやいや、過剰な願望は持ってはいけない。この状況がすでにかなり優遇されているのだ。これ以上何かを望んでしまったら、今あるものすら失いかねない。
「そうだよ! 月の最後の金の日に、孤児院に行く権利をもらったからね。毎月、最後の金の日に来るよ!」
「「やったー!!」」
うふふふふふ。孤児院に来る権利をご褒美として要求して本当によかった。認めてくれた神官長にも感謝をしなければ。
「がんばったご褒美って……。あの神官長って、そんなに優しい方なのか?」
「……優しい?」
確かに今、感謝の気持ちでいっぱいになったところだ。だがしかし、それとこれとは別の話だ。神官長に言われたあれやこれを思い返すと、やさしいとはとても言えない。
何度、枕さんにはお世話になったことか。枕さんがいなければ、私はストレスの捌け口がなく、どうにかなっていたかもしれない。
だけど、この場で主を非難するわけにはいかない。私は素晴らしい笑顔を浮かべて、首を縦に振った。
「うん、とっても優しい方だよ! ……歌もとってもうまいしね!」
「そ、そうか……。優しい主に召し上げられて、よかったな。」
「うん! あ、それとね……ミーアお姉ちゃんにも会えたんだよ。」
「ミーアに? 偶然会ったのか?」
「偶然と言えば、偶然なのかな。ミーアお姉ちゃんは、神官長といつも一緒にいる神官様に召し上げられたみたい。主同士に交流があったから、偶然会うことができたんだよ。」
まあ、偶然か作為的なものなのかは正直分からない。馬車内のユットゲー様の言動を見る限り作為的なのかなとも思うけど、本当に偶然でユットゲー様にも想定外のことだったのかもしれない。
だけどどちらにしろ、ミーアお姉ちゃんに会えたことは本当にうれしかった。
「そうなんだな。他のやつらには会えたのか?」
「いいや、ミーアお姉ちゃんだけだよ。他のみんなにも会えればいいんだけど……本当に偶然が重ならないと難しいんだよ。」
「そうか……。悪いな、暗い気分にさせたな。俺も久しぶりに、パイルの歌がききたいと思ってたんだ。みんなもパイルの歌を待っているから、早速歌ってくれるか?」
「もちろん!」
そうして、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
また来月……長いようだけど、やるべきことをやっていればすぐにまた孤児院にこれるよね!




