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騎士団長は聴いた

~ランベタント(騎士団長)視点~




私はランベタント。ミレッジナーベに忠誠を誓い、騎士団を束ねる騎士団長を拝命している。

現在ミレッジナーベは、聖女が実質1人しかおらず瘴気がたまる一方であるため、魔獣がひっきりなしに出現している。加えて、冬の将の討伐も重なってしまい、騎士団の疲労は極限に達しかけている。

それでもなお、ミレッジナーベに忠誠を誓った騎士として、私たちは戦い続けている。


私の主であるプリフは、騎士団を労うためにわざわざこのような所までくる領民思いで行動力のある方だ。様子を少し見た後は、すぐに帰還するものと思っていた。いや、筆頭護衛騎士として、このような危険の多い場所からはすぐに離れて欲しいというのが本心だ。


しかし、私の主にはほかに用事があるらしい。過去の経験から、突拍子もないことのような気もするが、ハルウォーガン様がご一緒ということは、ハルウォーガン様が許可を出してもいいと判断した事なのだろう。

プリフは優秀な方だが、ハルウォーガン様はプリフとは別の面で優秀だ。特に、剣術、知略、内政に長けている方で、プリフを支える右腕だ。神官長などという役職につくべき方ではないのだが……ミレッジナーベを変革するために力を尽くしてくださっている。



私が用事についてプリフに聞き返すと、プリフは私の顔をまっすぐ見据えた。

思わず跪きたくなるような、確かな意思を感じさせる瞳。私は気を引き締めて、次の言葉を待った。



「ミレッジナーベには希望が必要だ。厳しい状況が続いているが、騎士団を始め多くの者の頑張りのおかげで着々と準備が整えられている。その時まであと少し時間が必要だが、プリフとして、真っ暗な世界の中に微かな光があることを見せたいのだ。今回其方たちに示したいかすかな光とは、歌だ。」


「……歌でございますか。」




確かに歌を聞けば、気分転換にはなると考える。ただ、次の戦いに備えて少しでも早く休息をとりたいという気持ちの方が強い。


しかし、主であるプリフが我々に示したいものがあるとおっしゃったのだ。私は仕えるものとして、主のお言葉を信じたい。先の見えない我々に、光を灯してくれるかもしれない。



「ああ、そうだ。そのために今回、そこの巫女を連れてきたのだ。」



プリフがそういうと、今まで空気のように部屋の隅に棒立ちになっていた場違いな巫女に視線が集まった。巫女はフードで顔を覆っているが、酷く緊張していることがわかる。



……巫女か。ハルウォーガン様がいる手前、表立って神殿関係者を嘲る者はいないが、神官・巫女と聞いていい印象もつものはまずいないだろう。私もその一人だが、理由は、神官や巫女は貴族の血を引いているが、正確には貴族ではないからだ。つまり、我々貴族にとっては、平民とまではいかないが、一段劣る者たちなのだ。



「その巫女はハルウォーガンの専属楽師だ。今回はその者に、歌を歌ってもらう。」



巫女に歌を歌わせる、ですか……。いかにもプリフらしい大胆な行動だ。プリフのことなので、我々が思いつかないような考えがあるのだろう。ハルウォーガン様も許可を出しているのだから、あの巫女は相当歌がうまいのだろう。


しかし、この様な状況で、いくらプリフからの言葉あったとはいえ、巫女の歌を素直に聞こうとするものはどれだけいるだろうか。

だが、私は、プリフに仕えるものだ。個人的な感情を抜きして、自分のやるべきことをやらなければならない。



「かしこまりました。動けない者を除いて、中央の火の周りに騎士たちを集めればよろしいでしょうか。」


「ああ、頼む。……巫女の歌を聞くことを快く思わない者もいるだろうな。加えて、この様な状況の中で、歌なんて聞いてどうするのだと思うものいるかもしれない。しかしこのような状況だからこそ、必要なものもあると私は思うのだ。……其方には迷惑をかけるな。」


「とんでもございません。すぐに準備いたします。」








ーー







最低限の見張りの騎士を野営地の周りに配置し、それ以外の残りの騎士たちを中央に集め事情を説明した。

騎士たちは、普段どおりに話を聞いている。歌を歌うのが巫女だと告げたときも、露骨な表情の変化や反論する意見はなかった。まあ、貴族として騎士として当然のことではあるが。


しかし、騎士たちの纏う空気が少しだが不穏なものになった。いくらプリフのお達しとはいえ、巫女の歌を届けに来たと言われても、すぐには受け入れられないものだ。



私の説明が終わると、ハルウォーガン様が巫女に中央に行くよう指示を出した。驚いたことに、ハルウォーガンがシュトラウスを抱えている。まさか、巫女が歌い演奏をハルウォーガン様がするのだろうか。


……プ、プリフ!? あなたまでシュトラウスを持って、何をしているのですか!? あなたまで演奏をするのですか!? 止めなけれないけないと本能的に思うが、今更止められるものでもない。幸いハルウォーガン様が一緒ならば……ハルウォーガン様にお任せしよう。


プリフとハルウォーガン様が軽く音を鳴らし、音程を合わせ終わるとプリフが静かに立ち上がり口を開いた。



「突然のことで困惑している者も多いだろうが、少しの間だけ付き合ってほしい。日々、ミレッジナーベの戦う其方たちのために演奏しよう。」



プリフはそういうと、静かに椅子に腰かけた。それを受けて、フードのせいで表情が見えない巫女が一歩前進した。



「日々戦ってくださる騎士の方々に、領民の1人として感謝申し上げます。不肖の身ではございますが、皆様への感謝の気持ちを込めて歌わせていただきます。」



巫女はそういうと、祈るように胸の前で手を組み、歌い始めた。


貴族からは見下されている巫女が歌う歌。プリフとハルウォーガン様が認めている楽師ということで、歌はかなりうまいのだろう。戦いばかりの日々から、少しばかり気分転換できるかもしれない。騎士の多くが最初はそのように思っていたが、巫女が言葉を紡ぐたびにその空気は変わっていく。


『明日を信じて立ち上がろうとした 何から始めればいい、何が正解かもわからない』


魔獣が大量に湧く中、被害が出るのを防ぐためにひたすら魔獣を狩り続けた。領のため、プリフのため、頭ではわかっている。しかし、不意に、この戦いはいつ終わるのか、戦っているだけでいいのか、そんな不安が頭をよぎった。自分たちがやっていることは、正解なのか、と。


『最高の足と勇気で自分だけの道をつくっていこう ゼロからの一歩は全然怖くない 私が望む世界は私自身の足で作って見せるから 恐れずに一歩を踏み出すから 』



強大な魔獣。多数の魔獣。情けなくもひるんでしまうこともある。だが、私たちは騎士だ。領のため、プリフのためひたすら任務をこなすのだ。プリフの剣となり、私たちが道を切り開くのだ。


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