雛の巣立ちは気づいたときには終わっている
第一章最後の話になります。
ミーアお姉ちゃんたちの選別から約1年が経った。
ミーアお姉ちゃんたちがいなくなった悲しみに暮れている暇はなく、孤児院での日々はあっという間に過ぎ去っていった。イールは体調を崩すことなく、日々を元気に過ごしている。コニーは年長者ということもあり張り切っているが、少々から回ることもあった。ウィルは少しだけ丸くなったおかげで、今では頼れるお兄ちゃんになっている。かくいう私は、いつもどおり歌のレッスンに勤しんでいた。
「俺達もあと少しで選別だな。」
「そうだね。私たちの年は人数が少ないから、神官様や巫女様が不満に思わないといいけど……。」
「人数に関してはどうにもなんねーんだから仕方ないだろう。それにしても、パイルは歌のことばっかりだったな。」
「うふふふふふ。そのとおりだよ。仮に私たちの調書というものがあるのなら、「孤児院にいる間、格別歌を頑張りました」と書かれるくらいには、このラスト1年間を歌に費やしてきたからね!」
そう、この1年間は本当に頑張ったのだ。ウィルのお世話係を無事に終えて自由時間が増えた私は、院長先生からノーが出た時間以外は、全て歌のレッスンにあてていたのだ。うふふふふふ。そのお陰で、新曲が3曲も出来たんだからね!
すると、玄関の扉が開いて森担当組が姿を現した。
季節はすっかり、秋の終わり。森への採集も今日で最後だったのだ。こんな風に森に出かけるのもお迎えするのも最後になる可能性があると思うと、なんだか感慨深いものがある。
「おい、パイル。歌のことだけ考えていないで、お前は歴代でもトップクラスの成績なんだから、ちゃんとしたところで暮らせよな。」
すっかりお兄さんになってしまったウィルが、イノシシを引っ提げて私にそう言った。悔しいことに、背も追い越されてしまった。もう、頭をなでてあげることは必要なさそうだね。
「お帰りなさい、ウィル。ウィルが私の将来の心配をしてくれるだなんて、なんだかとても感慨深いよ。」
「……べ、別にそんなんじゃねーし!」
「うふふふふふ。」
お兄さんになったものの、こういう風に素直になり切れないところを見るとまだまだ子どもなのかなと思う。
私がほほえましそうにウィルのことを見ると、ウィルは踵を返して、イノシシの解体に向かっていった。
そうして、1週間経った本日。
いよいよ、選別を午後に控えた。去年と同じように、私たち3人を送り出すためのお別れ会が開かれた。私たちは孤児院のみんな一人一人に、お別れをしているところだ。
「ウィルのやつ、この場に来ないでどこに行っているんだろうな?」
「さー、屋上とかじゃないかな? まあ、ウィルとは昨日の夜にお別れを済ませてあるし、2回もお別れをしたくないと思っているのかもしれないね。」
それは、昨日の夜。
私たち3人は、ウィルの呼び出しを受けて屋上へとやってきた。呼び出しというと物騒になってしまうな。えーと、招待かな?
「……寒いところ来てもらって悪いな。」
「うふふふふふ。招待ありがとう、ウィル。満点な星空が素敵な、見事なスポットだね。」
私がそういうと、なんとも微妙な視線が3人から向けられた。……あらら。そういう雰囲気ではなかったみたいだね。私は軽口をたたかないようにと、真面目な顔をした。
「それで、どうしたんだウィル? 時間はたっぷりあるんだ、ゆっくり聞くぜ。」
「うん、そうだね。ゆっくり聞くよ。」
コニーとイールが微妙な空気を変えるように、ウィルにそう語りかけた。ウィルは、恥ずかしそうにそっぽを向きながらもゆっくりと頷いた。
「……俺は、3人にとても感謝している。1年しか一緒に過ごすことができなかったけど、たくさんのものをもらった。……居場所ももらった。……う、うまく言えないけど、本当にありがとう。」
言葉は少なげだったが、ウィル自身が本当に感謝してくれていることが伝わってくる。ウィルと出会ってからのこの1年間は無駄ではなかった、そう思わせてくれるそんな瞬間だった。
「ウィル、こちらこそ楽しい時間をありがとう。……もう、自分の居場所は自分で作れそう?」
「……ああ。大丈夫だ。だけど、最後に1つだけいいか? パイルの歌を聞きたいんだ。聞かせて欲しい。」
「うふふふふふ。もちろんよ。この満天の星空をみながら歌えるのも、最後かもしれないしね。ということで、歌うね。『星を織る街』」
『遥か彼方 廃れきった街 人の記憶から忘れられていく 情熱もなくし ただうつむいていた まるで影のように消えかけた夢 何もかも嫌になり立ち止まった時に
ふと見上げた空には あの日の無数星がある 夜に輝いている 瞳を閉じれば思い出される 無数の夢 星屑たち 何度も忘れかけた あの場所を思い出されるよ どんなに遠く離れていても 必ず帰ると誓うよ 星を織る街』
ーー
「では、選別の時間がきたわ。3人とも、神殿に向かいましょう。」
私たちは、孤児院のみんなからの声援を受けて、孤児院をあとにした。掃除に向かうためのいつもの道を通って、神殿のとある1室へとやってきた。この部屋は、掃除のときにも訪れたことがないな。
「この中には、すべての神官様と巫女様がいらっしゃいます。ここからは、1人ずつ入室してもらいます。中に入ったら、人事を統括する神官長の言うことに従うこと。この部屋にはいる順番は、イール、コニー、そしてパイルの順番です。よろしいですね?」
院長先生がそういうなら、そうするしかないのだろう。この扉の先にいるのは、孤児院のみんなとは全く違う価値観・生き方をしている人たちだ。私たちから一線を画すような存在ばかりだ。甘えはもう、許されないのだ。
「時間がなさそうだから、私から一言良いかな。……この3人が集まるのはもう最後かもしれないね。コニー、イール。本当にありがとう。私は、とても幸せだったよ。本当にありがとう。」
「私も、病弱な私をいつも励ましてくれてありがとう。とっても、楽しかったよ。」
「俺も、面白いことも悲しいこともたくさんあったけど、本当に楽しかった。ありがとうな。」
3人で二ッと笑いあったとに、3人で身を抱き合った。神殿内で仮に会えたとしても、主がいる前では気軽におしゃべりなんかできない。主の顔色を窺って、過ごしていくのだ。
「……わたくしも、あなたたち3人と共に暮らすことができて幸せだったわ。……ではイール、行きましょう。」
院長先生は悲しそうな名残惜しそうな顔しながらそう言ったが、すぐに表情を切り替えてイールと共に扉の先へと歩いて行った。
これにて第一章終了です。
次からは第二章側仕え編の開始です。
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