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雪上に咲く一輪の紅へ

「俺は本当に捨てたんだ! 本当だ! もう一度、叩くか? 叩くならさっさと叩けよ!」


「叩かないよ。ウィル、人にはね、叩かれるよりももっと痛いことがあるんだよ。例えば、あなたが感じている心の痛みとかね。」


「意味わかんないこと言ってんじゃねーよ! 叩くならさっさと」


「ごめんね、ウィル。あなたの過去のこと、院長先生に聞いたよ。」



私がそういうと、ウィルはサーッと顔色を変えた。その顔は怒りや悲しみでも憎しみでもなく、ただただ自身を嘲るような笑みだった。



「何だ、聞いたのか。じゃー、話は早いな。お前も俺のことを気味が悪いというのか。生まれてこなければよかったと言うのか。悪魔って呼ぶのか……呼べよ!」


「私は呼ばないよ。思ってもいない事をいうわけがない。」


「嘘をつくな! 俺のこの姿をちゃんと見ろよ! 白い髪に紅の瞳だ。俺のこの姿が、全ての不幸を招いたんだ! だからもう、俺に構うな!」



ウィルはそういうと、自身の頭を抱え込んでしゃがみこんだ。

何が、ここまで彼を追い詰めたのか。大きな原因は顔も知らない彼の母親だろう。周りの大人たちだろう。彼の父親だろう。会ったこともない彼女ら彼らへの強い非難の気持ちが溢れだした。



「あなたのせいではないよ、ウィル。あなたの容姿は全く関係ない。」


「う、うるさい! 俺のことを何も知らないくせに、知った風な口を利くな!」


「私は、あなたの白い髪も紅の瞳もどちらも素敵だと思うよ。白と赤って、とても素敵な組み合わせだと思う。」



私はそういうのと同時に、しゃがみこんでいるウィルの頭をそっと撫でた。

しかし、その手はすぐに振り払われてしまった。



「触るな! 何が素敵だ、適当なことを言ってんじゃねーよ!」


「適当なことを言っているのは、あなたの容姿を非難した人たちだよ。滅多に見ない組合わせの色だから気味が悪い? 悪魔? 生まれてこなければよかった? ふざけた話だ。私の容姿を見てみなさいよ。桜色の髪に翡翠色の瞳だよ。孤児院のほかの子たちに比べても派手な容姿だよ。こんな私は、魔王の手先かなにかかしら? それに、お貴族様も含めればもっと派手な容姿の人なんかきっといるよ。あなたは、その目立つ外見を山車にして、責任転嫁をされていただけだよ。」


「い、意味の分からないことを言うな! 俺は悪魔だと何回も言われた。生まれて来なければよかったと何回も言われた。それが本当に決まっているんだ!」



「ウィル。私は、今この瞬間、あなたは悪くないと言っているんだよ。あなたが過去に受けた傷は消えないかもしれない。だけど、何回でも言うよ。あなたは悪くないし、あなたの容姿はとてもすてきだよ。」



私が今言っていることは、偽善だ、いい子ちゃんぶっていると言われるものかもしれない。だけど、何も飾っていない、飾る必要もない本心だ。



「お、俺は……。俺は。」



ウィルは前髪が涙でぬれるくらいの大粒の涙を流していた。きっと、満足に泣くこともできない環境だったのだろう。私はそっとウィルの頭を抱き寄せて、そっと頭をなでた。



「俺は、こんな俺でも、生きていていいのか? 」


「もちろん。誰もあなたの生きる権利を否定なんてできないよ。悪魔だとか気味が悪いだとか、そんなもの勝手に言わせておけばいい。過去、あなたが出会った人が否定的な評価をあなたにくだしたのなら、私たちが、私が、あなたに肯定的な言葉をかけるよ。……ねえ、ウィル。あなたは今、将来、どんな夢を持っているの?」



私がそう問いかけると、ウィルはゴシゴシと袖で目元をぬぐった。そして、ゆっくりと立ち上がると、再び満天の星空を見上げた。



「俺は……俺が欲しいものは、俺の、自分の居場所だ。俺のことを必要としてくれる、いてもいいと言ってくれる人がいる、そういう自分の居場所が欲しい。」


「大丈夫。きっと手に入るよ。少なくとも、ここがあなたの居場所になるから。」


「ありがとう。」



それは、初めて見るウィルの笑顔だった。

これからだよ、ウィル。あなたはまだまだ、これからなんだよ。



「じゃあ、私から1つ贈り物を。あなたがくじけそうになった時の支えとなるように、私の歌を送らせてもらえるかな? 何回も歌を聞いてほしいと言ったのに、うるせーと言われるわ、無視をされるわで、私も少々傷ついたからね。今度こそ、聞いてくれる?」



「い、いや……それは……ごめん。」



「うふふふふ。冗談だよ。じゃあ、体も冷えてきたから早速歌うね。『一歩』」



『行く当てもなく 身を隠す場所もない 誰かに見つけてもらえる、そんなことは決してないと思っていた 明日を信じて立ち上がろうとした 何から始めればいい、何が正解かもわからない そんな時に一つまた一つとみえない道たちが僕を呼ぶ声が聞こえたよ 最高の足と根拠のない勇気で自分だけの道をつくっていこう ゼロからの一歩は全然怖くない 僕が望む世界は僕自身の足で作って見せるから 恐れずに一歩を踏み出すから あなたのヒーローになって見せるから だからあなたの幸せを願わせてほしい 確かな一歩にかけて』




「うふふふふ。どうだった、私の歌は……」



振り返った先には、涙を流しながら夜空を見上げるウィルの姿があった。私の歌が少しでもウィルの励みになってくれたらうれしい。また聞きたいと言ってくれたらうれしい。


「……最高だった。何があっても、一歩を踏み出せそうだ。」



俺は……俺は、過去と決別する。パイルの一言一言を聞くたびに、自分の苦しみが憎しみが癒されていくのがわかった。今日という日を、俺は決して忘れないだろうな。



「ありがとう。」


「どういたしまして。これから何回でも聞くことができる……グーッ!」



あれ、何かしら。このブーブークッションのような盛大な音は。私のお腹から聞こえたような気がする。って、いやーーーー! 歌姫としての尊厳が……。



「ウィル、これは違うの! これは腹式呼吸と言って、お腹から声を発する呼吸法なのよ。決して、お腹がすいたからではないからね!  あえて、実演してみせたのよ!」



「……もしかして、食ってないのか?」



「う、うん……。ウィルのお世話係の私が、一人だけ食べるわけにはいかないでしょ? ちゃんと食べたことがわかるまで、私も食べないようにって……。」



私が言葉尻を濁しながらそういうと、ウィルは額に手を当てて、再びしゃがみこんでしまった。あ、あれ? もしかして、言わない方が良かったかもしれないな……。



「お前の分も俺のトレーにのせていたのか?」


「え、え? えーと、まあ、残すのももったいないと思って、ね?」


「チッ……。俺って、マジで最低野郎だな。(小声) 明日から、俺の分も食ってくれ。」


「え!? それは、本末転倒というかなんというか……。それだと、ウィルが食べられないままじゃない! 」


「だから、いらねーって言ってんだろう! いいから、俺の分も食えよ!」


「私はあなたのお世話係なの! あなたからご飯を取り上げるようなことは絶対にしません!」


「だから……」



ウィルが再び反論しようとすると、屋上の扉が開いた。見るとそこには、ミーアお姉ちゃんとコニー、そしてイールがいた。



「とりあえず、2人は自分の分をしっかりと食べるということにしたらどうかしら? それから、外は冷えるからもう中に入るわよ!」



「み、みんな……。いつの間にそこに……。もしかして、私の腹式呼吸が聞こえたということは無いよね?」


「しっかりと聞こえてたぜ。」


「いやーーーーー!!!!」



私の歌姫としての尊厳が崩れ落ちる音が聞こえた。ミーアお姉ちゃんとイールだけではなく、ジャガイモ小僧にも聞かれていいたなんて……。ムカつくことに、いい笑顔でグッドサインをつくっている。親指を折ってやろうかしら。



「ま、まあまあ落ち着いて、パイル。とりあえず、食堂に行って夕ご飯の残りを食べよう。さっきまでそこにいたんだけど、院長先生に許可をもらっているから。」



「そ、そうだね! イールはあいかわらず優しいね。じゃあ、皆行こうか。もちろん、ウィルもね!」


「……ああ。」




ウィルは恥ずかしそうにしながらも、差し出した私の手をしっかりと取った。



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