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イグナイテッド・ワン   作者: M2
1.Cube編
21/26

21 Over Link


         ×××


 近づいてくる二つの足音に気づき、転流桐馬が顔を上げる。


「ジダイくん、キミは戻ってくると思っていましたよ」


 桐馬は向かってくる次代たちを待ち構えていた。

 並んで歩く次代と未来は、桐馬と千笠のペアと再三相まみえることとなる。一度敗れた千笠は、未来を見てバツの悪い顔をしていた。そう委縮されると、未来も張り合いがなくやりづらさを感じる。

 次代は千笠に目をくれることなく、まっすぐ桐馬だけを見ていた。一度敗れた相手に、色々と思うところがある。


「さっきは悪かったな。仕切り直しだ」

「かまいませんよ。どうです? キミが望むなら、今度は二人がかりでも……」


 桐馬は、次代一人では勝てないと揶揄するような提案をする。あれだけ好き放題やられたあとであり、舐められたとしても仕方がない。


「と、桐馬様!? いくら何でもそれはっ……」


 パートナーとして千笠は桐馬の危険な発言を案じる。


「千笠は黙っていてください」

「はい……」


 桐馬の言葉に千笠は黙ってしまう。何か言いたげにしているが、今の千笠には口出しをする権利がない。負けたばかりの千笠には、いつものようにうっとりとする心の余裕はなかった。


「それで、どうしますか?」


 改めて桐馬は次代に問いかける。


「その必要はない」


 次代は迷うことなく桐馬の提案を断った。

 未来は「本当に大丈夫?」と不安げに次代の顔を覗く。それに対して次代は笑って返した。


「心配するな。勝つのは俺たちだ」

「わかった。でも無茶しないで、何かあったらすぐ私を頼ってね」

「ああ、そのときは頼む」


 次代は小さく頷くと視線を桐馬に戻して前に出る。未来は勝利を祈り、胸元で手を組んだ。


「顔つきが変わりましたね」

「そうか?」

「ええ、さっきまでのキミは死人のようでしたから」

「今はどう見えている」

「それは答えても意味がないですね。再びキミは絶望に染まるんですから」

「やってみろよ。できるならな」


 次代はコルトガバメントを呼び出し、右手に構えた。一度戦闘を離脱したことで、負傷した右手は完璧でないにしても、十分動かせるほどに回復している。


「お望みとあらば……」


 桐馬は笑みを浮かべ、【手札ホルダー】を発動させる。


幻影舞踏ファントムミラージュ》。


 一つ、また一つと桐馬の影が増え、瞬く間に次代の前に大勢の桐馬の幻影が並んだ。

 次代は自分から動かず、一人ひとり桐馬の幻影を見澄ます。やはり本物と偽物の区別はつかなかった。数刻前に対峙した時と桐馬から感じるプレッシャーは変わらない。リベンジとして申し分ない。


「動かないんですか? それでは僕から行きましょう」


 桐馬が二人、コンバットナイフを手に次代へ走る。瞬く間に距離を詰めると桐馬は同時にナイフを突き出していた。

 桐馬の攻撃に合わせて動き出した次代は、ナイフを持つ手を弾くように右手で払うと次代に接触した幻影は空気に溶けるよう姿を消す。続けてもう一人の桐馬に蹴りを入れる。蹴りは空を切り、感触を得られないまま、幻影は消えた。


「幻影だからって攻め方が甘いんじゃないのか」

「キミの言う通りです。仕切り直しと言って、何も同じことを繰り返す必要はありませんでしたね」


 次代の挑発を受け、今度は出現させた幻影すべてを動員し、一斉に次代を襲う。跳び上がり、土砂崩れのように迫る桐馬の幻影に次代は立っているだけだった。

 先陣を切った幻影が一人、次代にナイフを届かせようとしたその時、桐馬の視界から次代が消える。


〝消えた!?〟


 桐馬は自分の目を疑った。まるで自分が幻影を見せられていたかのようだ。

 地に降り、立ち止まった桐馬の幻影たちは各々消えた次代を探してあたりを見回す。見つけるまでにそう時間はかからなかった。

 次代は直前まで桐馬がいた位置に立っている。今の一瞬で移動したのだとすれば、それは信じられないことだ。


「一体何が?」


 信じられない事象に桐馬は目を見開いた。


「これが俺の【切札ジョーカー】だ」


         ×××


 エグザルフは次代と桐馬の戦いを遠くの高台から観戦していた。ライフルスコープで覗いてようやく見える距離でも、エグザルフの眼はすべてが見えている。


「パートナー二人が、真のパートナーになったとき、【切札ジョーカー】が開放される。しかし、その条件を満たすことは決して容易くない。友情や、恋愛感情、家族を超越したその先の領域。共依存なんてものではなく、互いを認めて敬い、繋がりを求める状態、オーバーリンクが【切札ジョーカー】を開放する」


 エグザルフは高揚していた。

 これから次代が見せる【手札ホルダー】を超越した【切札ジョーカー】。それがもたらす結末が楽しみでたまらない。


「次代クン、まさかキミが【切札ジョーカー】に辿り着くなんて、思いもしなかった。キミは一体どれだけ僕を楽しませるつもりなんだい」


 思わず「クシシシッ」と笑ってしまう。転んでもただは起きない。

 エグザルフにとってただの玩具であった次代は、極上の玩具となった。


「まだまだ面白いものが見られそうだ」


 エグザルフはニヒルな笑みで次代と桐馬の戦いを見届ける。



        ×××



 桐馬は次代の【切札ジョーカー】に驚きこそしたが、それまでに留まった。驚くよりも未知の力に桐馬の好奇心が煽られる。


「面白いじゃないですか。そうではなくては」


 心が躍る。目の前に立つ男は、土壇場の状況で自身に対抗するための力を示した。これまで隠していたのか、使えなかったのか、はたまた奇跡が授けた力なのか。そんなことは桐馬にとってどうでもいいことだった。その力が自身を楽しませてくれるのであれば、それでいい。


「もっとキミの力を見せてください」


 興奮を抑えられず、桐馬の語気が強まる。

 次代の【切札ジョーカー】が如何ほどの力を秘めるのか、それを見極めるべく桐馬は幻影を率いて次代に襲い掛かる。


「お前はもう俺には触れられない」


 桐馬は幻影に紛れて次代に斬りかかるも、眼前で次代は消える。何が起きているのかまるでわからなかった。


「未来、こいつ借りるな」

「え?」


 突然名前を呼ばれる。次代を近くに感じて咄嗟に振り向くも未来は姿を目に捉えることすらできなかった。


「どゆこと?」


 未来は訝しげに首を傾げる。一瞬の出来事に理解が及ばなかった。

 次に次代が現れたのは桐馬の背後だった。拳銃を持つ右手で裏拳を放つように銃把の底、グリップエンドを叩きつける。

 手応えはない。次代が触れたことで幻影は感触なく消える。


「キミの力がどれだけのものであっても、本物を見抜くことはできないようですね」


 幻影の背後を取った次代は、自ら渦中に飛び込んだも同然。すでに次代は桐馬の幻影に囲まれ、逃げ場を失っていた。

 今度こそ逃がさないと半数の桐馬を跳躍させ、地上、空中と四方八方から次代に覆いかぶさる。


「キミがどれだけ早く動けるとしても、次こそ逃げ場はありませんよ」

「お前の言う通り、この【切札ちから】で本物を見抜くことはできない。それと一つ、これ以上逃げるつもりはない」


 宣言すると次代はまたしても桐馬の視界から消える。


「どれが本物かは、全部叩いて確かめるさ」


 まさしく刹那の出来事だった。消えゆく幻影の瞳に一瞬映る次代の姿。地上空中問わず、次代は刹那に現れ、瞬く間に消える。

 次々と幻影を消して回る最中、右手で放った拳が感触を覚えた次代は、眼前の桐馬こそが本物であると見極め、振り切る力を増して桐馬を吹き飛ばした。


「本物はお前だ」


 桐馬がダメージを受けたことで、一斉に幻影が消える。

 片膝をついた桐馬は、攻撃を受けた腹部をさすり、不気味に笑った。


「キミの【手札ホルダー】は物を呼び出す力でしたね。つまり、これは高速移動ではない」

「《幻想開扉イマジナリーゲート》。この【切札ジョーカー】は《幻想魔手イマジナリーポケット》と異なり、指定した座標に呼び出せる力だ。自分のこともな」

「疑似的な瞬間移動というわけですか」

「そういうことだ」


 次代は右手のコルトガバメントで立ち上がる桐馬の顔を追いかける。


「ところでその力、キミ自身に相当な負荷が掛かっているんじゃないですか。瞬間移動を短い時間で多用すれば、視点の切り替えが絶え間なく行われる。脳が処理する情報量は膨大のはず。これ以上の使用は、キミが先に壊れてしまいますよ」


 次代の《幻想開扉イマジナリーゲート》を看破した桐馬は、《幻影舞踏ファントムミラージュ》を発動させた。

 幻影の数は過去最大。これまでよりもずっと多くの幻影が現れ、本物の桐馬を一瞬で見失う。


「幻影はやられるたびに作ればいい。キミは無限に続く幻影の中から先と同じやり方で僕を探すことができますか?」

「その必要はない。お前はここで倒す」


 次代は迷いのない動きで無数の幻影の中から一人に照準を定める。

 幻影は使用者を忠実に作られ、衣服の擦り切れ具合まで完璧に再現されている。一目では決して見分けることができない。

 ただ一点を除いて。

 とある桐馬の肩で次代に手を振る者がいた。薄っぺらい紙人形、未来の式神だ。


「借りるって式神のこと!?」


 次代は桐馬を殴り飛ばした際、未来から拝借した式神を桐馬に忍ばせていた。

 桐馬はそれに気づかぬまま、次代が放った銃弾に右肩を撃ち抜かれる。痛みに打ちひしがれ、崩れ落ちる。

 近づく足音、重なる影に桐馬が顔を上げるとその先で銃口が見下ろしていた。


「どうやら、僕の負けみたいですね」


 桐馬はあっさり負けを認める。あまりにも潔い。

 一度桐馬に敗れかけている次代はこの勝利を素直に喜ぶことはできなかった。次代は自分が負けていた未来の可能性に気づいていたのだから。


「お前ならもっと前に、俺を殺せてたはずだ。それなのに、これでいいのかよ」


 戦いの中で桐馬は次代を試すようなことを幾度と繰り返した。それは桐馬が戦いをより楽しむためであり、次代を倒すチャンスを見過ごしていたことに変わりない。

 敗因は次代を泳がせたこと。【切札ジョーカー】を開放させるまでの時間を与えてしまったことだ。その原因が桐馬にあっても、ありえた結末まで否定しようとは思えなかった。


「桐馬様っ!」


 戦いを見届けるよう命じられていた千笠が、我慢できずに桐馬に危機に駆けつける。次代をキッと睨みつけ、《暗緑開花アビスブルーム》を行使しようとした。


「千笠!」


 桐馬は一言で千笠を御す。


「ですが桐馬様……」

「必要ない」


 桐馬を心配する千笠に無用だと冷たく一瞥して黙らせる。


「ジダイくん。勝ったのはキミだ」


 次代に視線を移し、桐馬は告げた。再度敗北宣言を受けてなお、時代は納得できずにいる。

 それを見た桐馬は、やれやれと笑った。


「困ったものですね」

「お前はこんな終わり方でいいのかよ」

「ええ、僕は満足しています。さぁ、終わらせてください」


 桐馬は次代の持つ拳銃に目を向け、トリガーを引くことを要求する。


「桐馬様なら次はこんな奴に負けません。そこのお前、もう一度桐馬様と戦いなさい!」


 死を乞う桐馬とは対照に、パートナーである千笠は桐馬の負けを認めようとはしない。


「千笠」

「私は桐馬様が負けるなんて嫌です。見たくありません」


 千笠は涙ながらに訴えた。その姿に、桐馬の心が揺れる。


「醜いぞ。勝敗はすでに決したはずだ」


 突如として聞こえた声。

 千笠は桐馬に迫る危険を察知した。


「桐馬様っ!」


 己の身体を盾にした桐馬を庇った千笠の胸を禍々しい滅紫の光が貫く。衝撃と痛みに千笠は仰け反り、後ろに倒れていく。崩れ行く千笠の胸に空いた穴は塞がらない。千笠の表情に生気はなく虚ろな目をしていた。


「千笠!」


 桐馬は傷ついた体に鞭を打ち、地面に落ちる寸前で千笠の身体を受け止めた。全身の力が抜けた千笠の身体は重たく、首も座っていなかった。

 千笠は桐馬の腕に抱えられ、頬をピクリとさせる。まともに笑う気力さえ残っていなかった。


「と……ま様」


 口を動かすも千笠の消え入りそうな声は、上手く言葉にならない。


「いつまでも愛して、います」


 残された力をすべて振り絞り、何より伝えたい気持ちを形にすることができた千笠は息絶え、粒子となり桐馬の腕の中で消滅した。

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