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イグナイテッド・ワン   作者: M2
1.Cube編
20/26

20 Connection


        ×××


「ここまでくれば大丈夫だよね」


 未来は周辺を見回し、危険がないことを確認する。二人を運んできた式神は次代を降ろすと姿を消した。


「……助かった」


 次代は浮かない表情で未来の目を見て、礼をすることができなかった。たった今、転流桐馬に敗北したばかり。未来に合わせる顔がない。瞼を閉じれば、敗北の瞬間がフラッシュバックする。手も足も出なかった。完全に打ち負かされた。次代が思っていたよりも、桐馬との力の差は開いていた。


「ねぇジダイ、聞いてもいい?」


 次代に問いかける未来は神妙な雰囲気を漂わせている。どこかピリピリしていた。未来が怒っているのだと次代は気づいていたが、そのわけを考えようとはしない。頭の中は敗北したことでいっぱいだったからだ。


「答えられることならな」

「さっき、みちずれを狙ってたよね」

「ああ、そうだ」

「どうして?」

「そうでもしないとあいつは倒せない」

「でも、それじゃあジダイが死んじゃう」

「何が問題なんだよ。俺が死ねばこの先、未来に掛ける負担は増えるが、ここで二人とも終わるよりマシだろ」

「そんなのおかしいよ」

「合理的な判断だ」

「自分が死んだら勝っても意味ないじゃん!」

「俺が生き返る必要はない。未来が生き返れるなら、それで十分だ」

「何言ってるの!?」


 未来には次代の言うことが理解できなかった。理解したくないと眉をひそめた。


「俺の【手札ホルダー】じゃあいつには届かない。だからみちずれを狙った。それもあいつには見破られていたけどな」


 つらつらと語り、自らの弱さを嘲る。そんな次代を見て、未来の顔が更に険しくなった。


「そんなことを聞いてるんじゃない。どうして自分のことを大事にしないの」


 未来は泣き出しそうな声で次代に訴える。怒りと心配が混在していた。


「俺のこと……」

「そうだよ。ジダイのことだよ」


 次代はそれを受けていらない気遣いだと鼻で笑った。


「俺のことは気にしなくていい」

「気にするよ」


 食い下がる未来にイラつき、それは言葉に表れる。


「お前には関係ないだろ」

「関係あるよ! 私たちはパートナーなんだから」


 突き放すように言葉を選んでも決して折れない未来に、次代は右手で顔を隠してため息をついた。お節介だと疎むのとは違う。このやり取りすべてが次代にとっては無駄でしかなかった。


「前にも言ったが、パートナーなんて勝手に決められただけだ。自分の意思で決めたことじゃない。それに俺たちは生き返るために互いを利用し合っているだけに過ぎないだろ」

「だったらジダイは? ジダイが生き返ろうとしてないじゃん」

「……」


 未来に矛盾を見抜かれ、次代は言葉を失う。なぜ楽にしてくれないのか。未来のことが心底忌々しいとさえ感じた。


「一緒に生き返ろうよ」

「……俺が生き返ることに意味はない」

「どうしてそんなこと言うの?」


 次代のことを思い、話し合おうとする未来に、これ以上自分のことを隠して納得してもらうのは限界だった。


「俺がここにいるのは、自殺したからだ。自分で死ぬことを選んだんだ。生きてることが辛かった。苦しかった。だから、そのすべてから解放されたくて飛び降りたんだよ」

「え……」


 次代の告白に今度は未来が絶句した。言葉の意味はわかっている。それでも、すぐに次代が言ったことを受け止めることができない。


「ここで目を覚ました時、俺の記憶はエグザルフに奪われていた。自分が何者であるのか、それすらわからなかった。でも今は違う。俺が何者で、どうして死んだのか、それをわかってる。俺は自分で死ぬことを選んでいながら、生き返りたいと願う奴らの邪魔をした。俺は取り返しがつかないことをしたんだ。それは許されないことだ。だったらせめて未来、お前だけは勝たせないといけないだろ」


 すべてを吐露していた。楽になりたかった。全部話せば、未来は納得してくれると思ったからだ。


「そんなこと頼んでないよ」


 未来は納得するどころか、怒った顔で次代に言った。


「お前の意思は関係ない。これは俺が決めたことだ」

「だったら私もジダイの意思は尊重しない。自分の命を大事にしない人を戦わせたりしない」


 未来は式神を展開し、これ以上の好き勝手はさせないと次代を包囲させる。

 次代は下唇を噛み、大人しく従ってくれない未来を見据えた。未来の覚悟は固いようだった。


「どうして邪魔をする。お前に俺を止める理由はないだろ」

「理由なんて、そんなのジダイに生きてほしいからじゃダメなの?」

「いいわけない。俺は自殺したんだ。生き返ったところで俺には何もない。また同じことを繰り返すだけだ」

「何もないなんて、そんなわけないじゃん」


 感情を昂らせる未来に対して、次代のテンションはすとんと落ちた。

 本当は考えたくなかった。考えることをしなければ、自分の中に抱える虚無を忘れて終わることができたのだから。苦しみを、痛みを、思い出すことをしたくなかった。


「本当に、何もないんだ」

「友達はいないの?」

「いない」

「恋人は?」

「いるわけないだろ」

「家族は?」

「ずっと話してない」

「やりたいこととか、好きなこととか、何かあるよね。絶対……」

「何もない」

「そんなわけない。だったら、どうしてジダイは人の死を悼むの? 私のことを生き返らせようとするの?」

「それは……」


 未来に指摘され、次代は困惑する。その言葉は一つの真理だったからだ。


〝自分の明日を諦める奴が、どうして他人の明日を信じてるんだろうな〟


 一方で次代が自分の人生に希望を持っていないこともまた事実だった。


「生きることを諦めないでよ」

「それでも、俺には何もないんだ。生き返ってもしょうがない。俺にもうかまわないでくれ」

「何もないなんて言わないでよ」

「お前がそれを勝手に決めるな。俺のことなんて何も知らないだろ」

「うん。私はジダイのこと、出会ってからのことしか知らない。でも、少なくとも今のジダイには私がいる。だからジダイの方こそ勝手に決めつけないで」

「何言ってんだ……」

「忘れたの? 打ち上げするって約束したじゃん。それだけじゃない。生き返ったら、楽しいことたくさんしようよ。生きてればさ、辛いことも苦しいこともあるけど、一緒なら大丈夫だよ」


 話していくうちに未来の強張っていた顔が朗らかに、優しい声音になる。温かな瞳で次代を見つめていた。


「お前がそんなことをする必要なんてないだろ。未来には未来の人生がある。俺のことなんて忘れて好きに生きればいい」

「ジダイはカッコつけすぎだよ。本当にここで終わるつもりなら、どれだけ醜くたっていいのに、最後までカッコつけるなんて、自分のこと好きすぎなんじゃないの」

「なんだよそれ」

「でも、それは私も同じ。私は誰かを諦めることで自分が傷つくことから逃げてた。誰かを諦めると心は痛むけど、きっとその時だけの話。いつか忘れてしまう。たまに思い出すこともあるよ。それで『私って嫌な人間だな』って思って、また忘れるんだ。ずっとその繰り返し。でも、そんなことしたくない。いつだって心から笑っていたい。自分に誇れる自分でいたい。自分のことを好きでいたい」


 未来はそう言って不器用に笑う。自分でも上手く感情を整理できていないようだった。


「そう思えるのはジダイがいたから。ジダイが一緒だと私頑張れるんだ。本当は何度も諦めそうになった。でも、そのたびにジダイが私に力をくれた。ジダイはそんなつもりなかったと思うけどね。私にはジダイが必要なんだよ」


 優しい言葉にほだされるつもりはない。一度決めたことを曲げるつもりはない。それでも未来の言葉に、心を揺さぶられる。


「ジダイ、友達いないって言ってたよね。だったらさ、私と友達になってくれない?」


 未来の申し出に次代は迷った。これは単なるプライドの問題だ。記憶を取り戻してから、自分の気持ちが変わることはないと思っていた。それは生前からの強固な決意だったのだから。ここで折れてしまっては、自分の存在そのものが否定されるような気さえする。


〝俺は本当にカッコつけすぎだな〟


 自分のことを必要だと言ってくれた未来。その気持ちに応えたい。

 一度決めたことを貫く。そんなのはただの頑固という話なだけだ。自分の体裁ばかり気にして、不変を選ぶことのほうがよっぽど醜い。次代が今すべきことは、一歩進むこと。それだけだ。


「俺の方こそ、友達になってほしい」

「いいの?」


 未来は照れくさそうに人差し指で頬を掻く。


「生き返っても一人ならきっと何も変わらない。でも、未来がいてくれるなら、違った景色を見られる気がする」

「何も変わらないかもしれないよ?」


 臆病風に吹かれた未来は予防線を張る。


「お前がそれを言うのかよ。その時はその時だ。一度経験してるからな。もう一度自殺するくらいわけない」

「それ、言ってて悲しくならないの?」

「別に」

「私はジダイがそんなこと言ってたら悲しいけど」

「わかったよ。もう言わない」

「ありがとう」


 未来は礼を言うと右手を衣服で拭い、次代に差し出す。


「あ……?」

「ほら、握手。友達の証。友好条約的な?」

「友好条約って、別に喧嘩してたわけでもないだろ。……やっぱり、未来のことよくわからないし、友達ってのも違う気がしてきたな」


 握手を求められたことで次代は弱気になり、未来と対照に自分の手を引っ込めてしまう。


「それはこれからの話だよ。だからほらっ」


 未来は差し出していた手をもう一つ前に出す。それを受けて、次代は引っ込めた手に視線を落とし、少しだけ手を前に出した。


「……」


 互いの指と指とが触れる僅かな距離で、次代の手が止まる。思い切り手を伸ばせば次代の手に届く。それでも未来は最後の判断を次代に委ねた。


「未来の言う通りだ。俺はお前のことを知りたい」


 次代は未来の手を取り、心中を打ち明けた。


「うん。なんでも教えてあげる。だから、ジダイのことも教えてね」

「ああ」


 次代は照れ笑いして前歯を見せ、それにつられて未来は破顔した。


「……ん?」


 唐突にポケットの中でリンクスが振動し始めた。

 それは未来も同じようで、二人は顔を見合わせると、それぞれ自身のリンクスを取り出した。

 ロック画面に表記された通知には、アップデート情報とだけある。次代は通知に従い、リンクスを操作するとプロフィール画面に繋がる。以前は文字化けしていた箇所が修正されており、次代の記憶と一致する情報が記載されている。

 そしてもう一つ、次代に与えられた【手札ホルダー】、《幻想魔手イマジナリーポケット》のあとに新たに追記されていた。


「これは……」


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