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イグナイテッド・ワン   作者: M2
1.Cube編
12/26

12 Struggle


「未来っ……!」

「うん!」


 次代が出雲の【手札ホルダー】を見極めるべく、未来に追撃を求めようとしたその時、黄緑色の閃光が武装した式神たちを一斉に撃ち抜いた。

 一掃された式神は宙を漂い、銃火器を残して姿を消す。


「そこまでだ」


 式神を貫いた閃光を放った正体。それは海神の頭上に五つ浮かぶ黒鉄の球体だった。


「さすがは瑞原殿。見事な腕前であった」

「この程度のこと【手札ホルダー】に頼らず銃弾を斬るお前と比べれば大したことはない」


 出雲と海神の二人は、緊張感なく他愛のない会話を紡ぐ。


〝【手札ホルダー】なしで銃弾を斬っただと?〟


 次代は海神の言葉を聞き逃さない。出雲が【手札ホルダー】を駆使することなく自らの力だけで銃弾を捌いたのであれば、不知火出雲という存在は人間のレベルを逸脱している。それこそ本当に説明がつかなかった。

 力量が不明瞭な不知火たちを次代は見据える。


「しかし瑞原殿、あの男も中々見どころがある」

「そのようだ。相方との連携も悪くない」

「そこで一つ折り入って頼みがあるのだが」

「……言ってみろ」

「拙僧にあの男と1対1の手合わせをさせてもらえぬだろうか」

「勝てるのか?」

「それはやってみなければわからぬことだな」

「お前の命だ。お前の好きにすればいい。ただし条件が一つある」

「む……? 瑞原殿らしくない。それは如何様な」

「勝て。それだけだ」


 海神が提示した条件に、出雲は片頬を笑わせる。


〝粋なことを言ってくれるではないか〟


「承知した。それでは、いざ参ろうか」


 出雲は霞の構えを取り、地面を強く蹴りつけた。姿勢を低くして走る様はさながら蛇。次代に一呼吸つかせる間も与えない。


「ジダイっ!」


 パートナーの危機に、身を潜めていた未来が出雲を止めようとパレットラックの陰から飛び出した。助けを送るため式神を飛ばすも、すぐに黄緑色の光がその尽くを貫く。


「お前の相手は私だ」


 未来に行く手を海神が阻む。

 海神の周囲に浮かぶ五つの球体。

精鋭部隊マイティフォース》。それが海神に与えられた【手札】の名だ。黒鉄の球体は思考駆動型ビットであり、海神の思いのままに働く。


〝強引な突破は難しいかも……でも、立ち止まってられない〟


 未来は式神を海神が操るビットと同じ数、五体呼び出し、自身の前に並べる。


「行くよ、みんな」


 未来は言葉に合わせて右手を振るうと、式神たちはそれに応じて一斉に海神を目指した。

 式神の動き出しに合わせてビットが空中を鋭角な動きで走り、式神をトラッキングする。ビットから放たれる黄緑の閃光を、式神はひらりと躱した。

 閃光が射出される瞬間、ビットの照射口が光る。未来はそれに気づいていた。先ほどはしてやられたが、来ることがわかっていれば対応できない攻撃ではない。


「今のを躱すか」


 未来が自身の《精鋭部隊マイティフォース》に対応しつつあることをわかっていながら、海神は落ち着いていた。一切の油断なく、対峙する未来の観察している。


「女だからって舐めないでよね!」


 未来は式神を操り、ビットから射出される閃光を潜り抜けさせ、着実に距離を詰めていく。閃光を躱し切り、操る式神五体すべては無傷のまま、海神に飛び掛かる。完全にビットを振り切っていた。


「舐めてなどいない。ましてや性別は侮る理由にならない」


 海神は遅れて返答をした。

 瞬間、海神に届かんとした式神すべては閃光に貫かれた。正確無比に中心を撃ち抜かれた式神は、焼き焦がされて形を保てず霧散する。

 ビットに搭載されている照射口は一点に留まらず、球状の三百六十度自在に移動する。つまりはビットの背後を奪っても無意味だったということになる。


〝振り切ったつもりだったのに……〟


 攻撃が通らなかったことに未来は歯噛みした。


「今度はこちらの番だ」


 海神の言葉に、一機のビットが式神を失った未来に照準を定める。


「しまった……!?」


 未来は攻撃ばかりを意識し、自分が狙われることが頭から抜けていた。

 発射口が眩い光を放ち、海神は未来に死を宣告する。

 未来は咄嗟に身を守る盾として式神を呼び出す。眼前を覆うほどの式神を大量に展開し、射出された閃光を遮断する。閃光は速度こそ脅威的であったが、厚く重なった式神の盾を貫通するほどの威力は持ちえなかった。

 閃光の持続が終わり、攻撃を受けた盾の表面は焼け焦げ剥がれ落ちる。


「危なかった」


 未来はひやりとした胸元に手を当てて息を吐き出した。ゆっくりと霧散し、広がる視界の先に立つ海神と目が合う。海神の表情から感情を読み取ることはできない。それどころか、一方的に考えを掌握されているような感覚に恐怖が増幅する。


〝どうすれば……〟


 海神の《精鋭部隊》は固く、攻略は容易ではない。しかし、攻めることばかりを意識してしまえばカウンターを狙われる。

 瑞原海神みずはらかいしん、一筋縄ではいかない強敵だ。



          ×××



 出雲の剣筋が空を切る。

 その太刀筋には確かな殺意こそ感じられたが、下がらなければ命を失うぞ、という警告を次代にしているようだった。

 次代は無理をせず、出雲の剣から逃げるように攻撃を躱し続ける。

 出雲の剣に誘導されていることに、次代は気づいていた。未来から遠ざけられていると知りながら、応戦せず防衛に徹する。正確には、守りに徹しなければならないほどに不知火の剣が鋭かった。

 二人のやりとりはまるで舞台上の演武だ。

 未来から引き離されるのは、次代の望むところではない。その考えとは裏腹に随分と遠くまで運ばれてしまった。


「それっ」


 また一歩、出雲の太刀に後退を強いられる。

 出雲は誰にも邪魔をされない戦いを望み、次代と未来を引き離すように剣を振るった。狙いは当然、誘導だ。とは言え、その鋭い切っ先は常に次代を殺そうとしている。この程度でくたばるようであれば、次代に戦う価値はなかったということだ。

 故に、次代はこの茶番に付き合わざるをえない。反撃をせず回避を続けたことで未来と合流することを諦め、出雲との一騎打ちに応じることを受け入れた。

 次代は回避と同時に出雲と距離を取り、コルトガバメントを構える。銃口を向けられたことで出雲は足を止めたが、変わらず飄々としていた。依然として瞼は閉じられたまま、双眸を見せることはない。


「さて、もう十分かな」


 出雲は耳を澄ませるとそう呟いた。


「俺と未来を引き離すのが狙いか?」

「邪魔されることなくお主と戦いたかっただけよ」

「1対1によほどの自信があるみたいだな」

「そうではござらん。言葉通りの意味よ。お主と戦いというのは本心に違いない」


 出雲の言葉に一片の偽りはない。次代の直感が告げていた。しかし、出雲の言葉を真に受けることができずにいる。


「納得できない。そういう顔をしているな?」


 出雲は一瞥することなく、次代の表情を言い当てた。


「見てないよな。どうしてわかる」

「見えぬのだから瞼を上げたところで仕方がない。それだけのことよ」

「……盲目か」


 出雲が瞼を上げない理由を聞かされ、次代は片頬をひくつかせた。


「なに、心配ご無用。拙僧の耳は特別製でな。こんな境遇に生まれた故。人よりも聴覚に優れている。今、お主が片頬を動かしたのもしっかりと聞こえていたぞ」


 普通であれば聞き分けることができない些細な音ですら、出雲は捉えていた。その精度に恐怖さえ覚える。


「教えてくれるなんて親切だな」

「隠すほどのことでもあるまいよ」

「そうかよ」

「さてお喋りはおしまいにしよう。そろそろ始めようではないか。……殺し合いを」


 出雲は太刀を構え、切っ先を次代に向ける。


「ああ」


 次代は頷き、右手の銃を強く握った。出雲は盲目、睨みを利かせてもそれは牽制の役割を果たさない。

 次の瞬間、出雲は地面を蹴るや否や音もなく次代との間合いを埋めた。

 容赦ない一閃が次代の眼前を通り抜ける。殺意はさらに鋭く研ぎ澄まされていた。殺意に塗れながら、その剣筋は美しい。これが戦いの場でなければ見惚れてしまうほどだ。


「ちっ」


 次代は咄嗟に体を後ろに倒して躱す。逃げ遅れた前髪の毛先が刈り取られ、ひらりと宙を舞った。ほんの一瞬遅れていれば首を跳ねられていた。そう思うと背筋がぞくりとする。

 後ろに体を倒した勢いで地面を蹴り、正中線を通した綺麗なバク転で距離を取りつつ着地する。出雲の猛追を警戒し、バックステップと共に弾幕を張った。

 ばら撒かれた弾幕に出雲は足を止める。

 その間、装填されていた銃弾を使い切ったコルトガバメントを投げ捨て、《幻想魔手イマジナリーポケット》で新たに拳銃を呼び出す。


〝足を止めたか〟


 銃弾を斬り落とせるほどの反応速度を持つ出雲であれば、弾幕を潜り抜けていたかもしれない。しかし、それは杞憂に終わった。同時に次代は一つの仮説を立てる。

 出雲は自身の害を為すものだけを斬り落としていた。今のように牽制目的である威嚇射撃には対応できないのではないか。たった一度のやりとりで確信には至れないが、何も得られないよりはマシだ。


〝どうやら俺から仕掛ける必要がありそうだな〟


 最初の奇襲が通じなかっただけで変に気後れしていたと次代は反省する。それに未来のことを考えると時間をゆっくり使っている場合ではない。

 次代は守りに徹していた姿勢を攻めに転じさせる。体を低くして踏み込み、屈伸させた膝をバネの如く弾かせた。跳び出すと同時に出雲へ発砲する。時速1000キロを超える高速の弾丸を追いかけるように走り抜けた。

 出雲は一振りで銃弾を斬り捨て、切り返しを次代に向ける。次代の進行方向を遮るように完璧な軌道が描かれていた。対して次代は刃を躱すために下半身を滑り込ませ、出雲の剣筋を頭上で見送る。勢いのまま出雲の足元を抜けた。起き上がりざまに体を翻し、至近距離での射撃を試みるも、悠長に構えていられないほどに出雲はすぐそこまで迫っていた。

 次代は咄嗟にコルトガバメントを出雲に向かって捨てる。行く手を遮る障害物。出雲はそれを刹那に斬り捨てていた。次代の瞳は通り抜けた刃の残光を捉える。


〝その一瞬が欲しかった〟


 コンマ数秒よりも短い一瞬。その時間があれば、《幻想魔手イマジナリーポケット》を間に合わせることができる。

 次代は呼び出したものを即座に出雲に向かって投げた。


「無駄なことを」


 何が来ようとも斬り捨てるだけだと太刀を振るう。


「む……」


 出雲が斬り捨てようとしたその時、刀身にぐるぐると巻きつく感覚に眉をひそめた。刀の自由が利かない。じゃり、と揺れて擦れた音に正体が鎖であると気づく。

 次代の手から伸びた黒い鎖は出雲の太刀を絡め取り、自由を奪っていた。次代は伸びた鎖の先を追い、距離を詰めていく最中に《幻想魔手イマジナリーポケット》で一本の短剣を呼び出す。

 銀色の刃には櫛状の峰があり、凹凸に太刀の刀身を噛ませる。

 ソードブレイカーは瞬く間に刀身を砕き、破壊した。砕かれた刀身は地に落ち、重たい音を鳴らした。


「見事。やはり拙僧の目に狂いはなかったようだ。とは言え、拙僧の目は見えておらぬのだがな」


 出雲は慌てるどころか満足げに微笑し、軽やかなステップで後ろへ下がった。

 次代に砕かれた出雲の太刀は、刃は数センチ残すだけで刀としての機能を失っている。所有する唯一の獲物を破壊されていながら、出雲の余裕は消えない。自虐的な物言いがその証拠だ。


「降参するなら今のうちだぞ」


 次代は武器を失った出雲に銃を向ける。


「なに、刀は折れようとも、拙僧はまだ折れていない」


 出雲は刀身を失い、鍔と柄を残した愛刀を見せつける。するとわずかに残された刃から青白い粒子が伸びていき、壊される前と変わらない長さの刀身を構築した。

 光の剣をこさえた出雲は、感覚を確かめるように軽い素振りを行う。


「悪くない。しかし、拙僧にこの刀は些か軽すぎる」


 見えていないはずの目で青白い刀身に向かい、不満を口にする。


「それがお前の【手札ホルダー】か」


 次代は出雲の右手に収まっている光の剣を見据えて言った。


「左様。名を《煌々白刃ブライトエッジ》という」



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