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夕暮れ時の放課後。
赤く染まる空をぼんやりと見る。特別な感傷は抱かず、ただぼんやりと。
目の前には一人の男子生徒がいる。机に座り、ぺちゃくちゃと話をしている。
「僕の話、聞いてる?」
「聞いてる。半分くらいは」
男子生徒はちょっとがっかりしたような顔をする。
「僕の渾身の小話を話半分に聞かないでよ。オチまでしっかり考えてたのに、話す気がなくなっちゃうよ」
「お前の小話は頻度が多すぎる。たまににしないとこっちも飽きてくるんだ。それに、大概のオチはひどい」
あはは、と頭をかく男子生徒。小話ずきの困ったやつだ。
「ところで、もう一つだけ話をしてもいいかな?」
男子生徒はうっすら目を細める。
「……」
こういう時のこいつは妙な話をする。ここ2ヶ月の経験則だ。
「別に構わない。特に帰ってやることもない」
「そうか、じゃあ話すね。僕がこの前花木に呼び出されたって話なんだけど、少し変なことがあったんだ。この前の月曜日だったかな、昼休みに教室でお昼ご飯を食べていると、女子生徒に声をかけられたんだ。ほとんど話したことのない子でね、一体なんだろう、と思うとなんでも花木が僕を呼んでるっていうんだ。職員室まで来いって。それで職員室まで行ったらさ、なんて言われたと思う?」
「何を言われたって、怒られたんじゃないのか?」
「僕もそう思ってた。でも実際はこうだった。僕を一目見るなり、『帰っていいぞ』って言ったんだ。おかしな話だと思わない?」
「人違いだったんだろ」
「僕もそう思って、人違いなら戻った時にその人を呼びましょうか、って言った。それも『大丈夫だ』って言われて。一体どうして僕は呼ばれたのか、不思議だったんだ」
そこまで言われると、確かに不思議な話かもしれない。。何の用も無いのに呼び出す、なんてことは誰もしない。
「ねえ、どうして僕は呼び出されたんだと思う?」
「ちょっとした間違いは誰にでもあるだろうけど、花木だと少し考えづらいな」
「僕もそう思う」
男子生徒は同感とばかりに頷く。
花木は英語教師でなかなかに厳しい人間だ。他人に厳しく、自分にはもっと厳しい。そういう人間が間違ったにも関わらず、謝りもしないというのは考えづらい。そもそも間違うことすら考えづらい。