7
全身さっぱりとしたところで朝飯を用意する。オグマたちの服は洗ってしまったので、僕の服を貸す。リートにはジョムの昔の服を。
チーズを載せたパンを齧りながらオグマが言った。
「何か手伝えることはあるだろうか」
唐突だ。けれどジョムが先に頷いた。
「あるよ。ヒヅリのケツを叩いてくれ。とっとと牛を仕上げろって完成まで言い続けるんだ」
「大きなお世話だよ」
リートがまん丸な目で何か言う。
「『ぼくが代わりに作ってあげる』だと」
「あはは、そうしてくれたら助かるね」
昨日ガラス作りを見せてから、リートはすっかり気に入ってくれたみたいだ。いけないというのにかまど(火は入っていない!)に顔を突っ込む。オグマによるときらきら光る欠片が残っていないか探しているのだそうだ。今も、整列した牛に手を伸ばしてはオグマに叱られている。
「リートもガラス職人になったらどうだ?」
オグマが伝えると、リートは首を横に振る。
「『ぼくは魔術師になる』……」
オグマは照れたのか、明後日の方を向いた。
「あ、そうだ」
ジョムがはっと背筋を正した。
「何?」
「大事なことを忘れてた」
「今日は女の子と約束があるとか?」
「そんな訳ないだろ」
「悲しいな、即答なんて」
「お前はちっとは黙ってろ」
ジョムをからかうのは楽しい。思った通りの反応を返してくれる。
「それで、大事なことって?」
「あのな、ヒヅリに頼みがあるんだ。引き受けてくれるか?」
「まず話してみろよ。内容による」
「灯りを灯すランプを五百個作ってくれ」
「は?」
大きな声が出た。
「今から?」
「悪いな、のっぴきならない理由で、担当の陶器職人が作れなくなって」
「無茶だよ」
「頼む! ナキシュニ様にじゃどうしても無理って言えないんだ。オレがこっぴどく怒られるんだよ」
「何でそこで警吏隊長の名前が出てくる?」
「何故か今年の祭りにナキシュニ隊長が出しゃばってるんだ」
ひどい言われようだ。しかし五百個はどう考えても不可能だ。寝ずに作業に集中したところで絶対に祭りには間に合わない!
その時、耳の中に風が舞い込んだ。
「引き受けていい」
「へ?」
「大丈夫、俺が手を貸す。引き受けるんだ」
勝手なことを! そう思ったけれど、僕は従わずにはいられなかった。
「……分かった。いつまでに用意すればいい?」
ジョムはほっと息を吐いた。
「助かった! 明後日までには欲しいんだけど……いいか?」
ジョムはオグマに尋ねている。
「大丈夫」
「ところで、無茶言う分報酬は弾んでくれるんだろうね?」
「任せろ、予算からたっぷりもぎ取ってくるよ」
「あんまり期待しないで待ってるよ。さあさあ、邪魔者はとっとと帰れ」
ジョムは口をへの字に曲げた。
「邪魔者扱いかよ」
「これ以上余計なことを頼んでくる前にな」
「根に持つじゃないか」
何が根に持つだ。ランプ五百個を言いつけられたのはたった今だ。おかげでのんびりと暮らす計画が台無しだ。
「文句はナキシュニ隊長に言えよ。職人を昨日急に逮捕したのはあの方だから」
「事情ってそういうこと? 何をやったの」
「いつものだよ。可哀想に、間諜だと疑われたんだ」
またか。これで何度目だ? 一体どこの部族がこんな辺鄙な町に間諜を送り込むというんだろう。
ジョムは何度も僕を拝みながら帰ってしまった。祭りの準備に引っ張りだこだと言って。力持ちだから彼は女子に大人気だ。働き手として。
溜息が出た。それを見ているオグマが薄く笑う。
「大変だな。だが決して不可能ではない」
「手伝うとは言ってくれたけど、どうやってです?」
オグマはにこりと笑う。
「見ていれば分かる。君はとにかく一個はランプを作ってくれ」
この時ばかりは、オグマが自信に満ち溢れているように見えた。
無装飾の丸いランプを作るのは、さほど難しくはない。棒の先ですくい取ったガラスの球に息を吹き込む。少しずつ、少しずつ。望む大きさまで膨らんだらやっとここで球を切り離すのだ。慌てると不格好になるので、心を落ち着かせて。邪魔も入らない静かな家の中では容易いことだ。
そこから少し時間をかけてランプを冷やし、手を近づけても熱を感じなくなったら指先ではじいてみる。固い音がしてからやっとオグマに見せる。
「……できました」
「早かったな」
座ってリートと密やかにしゃべっていたオグマが、少し驚いたようにランプを受け取った。
「これをどうするんです」
「増やすのさ、勿論」