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氷砕ける時  作者: 六福亭
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 翌朝。早く目が覚めたので、皆を叩き起こし、井戸の水をたっぷり汲み上げる。一番目覚めが良いのが仕事柄のチェロア、続いてリート。小さな子供は大抵早起きだ。それに対してオグマは揺すっても叩いても身動き一つしない。

「何かの病気じゃないだろうね」

「寝不足なだけでしょ」

「まさか、僕たちと同じ時間に寝たはずだよ」

 僕らは桶の水で顔を洗い、気だるさが残る体をうんと伸ばした。青や赤の縫い取りのある上着を羽織り、乱れた髪を軽く整える。その間、リートはオグマの側を一時も離れようとしない。

「ヒヅリさん、今日のご予定は?」

 はね散らかした髪のジョムが恭しく尋ねた。

「ガラス細工をしこたま作る、それだけ」

「おう、さっさと仕上げてくれよ」

「そういうジョムは?」

「今日は仕事は休み。けど祭りの準備がある」

「幹事の息子は大変だね」

 チェロアが、窓を覆っていた垂れ幕をのけた。眩しい朝の日差しがさっと差し込み、まともに喰らったオグマはうめきながら身を起こす。今日も雲一つない快晴だ。

 外で水浴びをするなら、なるべく早い時間がいい。人目につくのが今は最も怖い。いっそのこと夜に決行する方が良かったのかもしれないけど、それじゃ寒すぎて風邪をひく恐れがある。

 早朝の訓練があるというチェロアを丁重に送り出し、家の裏でこっそり服を脱いで、僕らはしばし水浴びに興じた。この家はバザールや広場から少し離れた場所にあるから、あまり人に見られる気遣いはない。けれどもし誰かが通りかかっていたら、あっと驚き眉をひそめるような光景だろう。

 さっぱりとした、涼しいというよりはむしろ寒くなるくらいの水浴びを楽しんでいたのは間違いなくリートだった。水をかけ合う間も、体をこすり埃を落とす間も絶えず甲高い笑い声を上げていた。そして隙あれば僕たちの顔に水を飛ばしてくる。

「こら! やめなさい」

 オグマが叱りつけても、悪戯は止まらない。子どもらしくて実に良い。

 オグマはしきりと井戸を触ったり、何か考え込んでいる様子だった。夕べ聞かせた話を引きずっているのだろうか。

「雪領では、井戸から汲まなくても空から水が降ってくるんでしょう?」

「ああ。だがその代わり、湧き水には泥が染み込んでひどく濁っているから、そのままではとても飲めやしない」

 ジョムが口を挟んだ。

「雪領にも、氷の木はあるのかな?」

 オグマは苦笑する。

「ないよ」

 それを聞いてジョムが何故か誇らしげに鼻を膨らます。

「いくら魔術師でも、氷の木は流石に作れないだろうな」

 僕はオグマが怒るんじゃないかと冷や冷やしたが、彼は苦笑いしただけだった。

「そうだな、所詮人間だからな」

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