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氷砕ける時  作者: 六福亭
28/65

28?

 今、僕の手元には何度も使い倒した火打ち石、やはり慣れたガラス細工の棒、そして大量に余ったガラスの牛がある。


 乳を出さない作り物の牛たちをいつまでも残しておいても、家が狭くなるだけだ。祭りには出品しないと決めているし、捨ててしまうには忍びない。


 僕の家兼工房には、チェロアとジョムもいる。オグマはリートを連れて出かけていった。一度隊長に捕まってから、どんな魔法を使ったのやら、大手を振って表を歩けるようになったのだ。


 彼らが帰ってきてから数日が経ったけれど、まだ一度もまともに話せていない。これからのこと、ナキシュニのこと、そしてリートのこと。


 リートが魔物の子だからと差別するつもりはない。だけど、ああやってナキシュニに暴かれる前に何故教えてくれなかったのかと恨み言の一つも言いたい気持ちはある。

 もっとも、今のオグマは僕の文句などに耳を貸さないだろうけど。


 オグマは短い時間にすっかり変わった。今までのようには話してくれなくなった。ずっと黙って何か考え込んでいる。リートがはしゃぐと厳しく叱りつけるようになった。チェロアさえリートに触れさせない。何だか、いつ出て行ってもおかしくない気がする。


 二人がいなくなる? そうしたら僕らの負担は随分軽くなるはずだ。だけど、ちょっと想像しただけで寂しくてたまらない。

 作ったガラス細工をありったけかき集めてかまどの前にぶちまけた。多少ひびが入っても気にしない。チェロアとジョム、僕の友人二人が僕の動きを見守っている。

「これからガラスを溶かして一つの塊にするよ」

 二人はうなずいた。そこでやっと火をかまどに入れる。長い一日を置いたせいで、随分久しぶりな気がした。


 かまどが十分に温まってから、ガラス細工を思い切って火の中に全て投じた。時間をかけて溶け出すガラスは互いにくっつき、広がってかまどから溢れ出しそうになる。鉄の棒でそれを柔らかい飴のように巻き取って、やがて大きな棒付きの塊にしてしまう。垂れる熱いガラスの滴にはご用心。


 鮮やかな色つきの細工を溶かし込んだため、塊は様々な色が混ざり合ってとても不思議な色合いに変じていた。赤でもあり、青でもあり、黄も緑も紫も茶色も入っている。といって虹のようなくっきりと分かれた色でもない。小さな火が端っこで粘り強く揺らいでいる。


 棒をもう一本、ガラスの中に突いた。両手で棒を同時に引っ張るとガラスがつられて長く伸びる。炙ったチーズのように。


 伸びきったガラスを透かして、家の中が見える。チェロアの顔も、ジョムの輪郭も。そして垂れ幕をのけた向こうにはティルムの景色も。


 おっと、ガラスが冷えてきた。固まる前にと棒を動かし、一つのイメージに沿って形を変えていく。脳裏に浮かぶのは、かつての師匠の教えだ。強く念じ、敏く感じろ。自分の周りに世界を作れ。


 ガラスで作られた、僕の世界か。弟子となったその日から何度となく考えてきた。側にジョムとチェロアがいるならば、僕はどんな世界にだって行ける気がする。

 煙に混ざったガラス特有の強烈な匂いが鼻を刺した。


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