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氷砕ける時  作者: 六福亭
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 ぐずぐずしている暇はない。

「祭りどころじゃなくなっちゃったわね」

 ぐちゃぐちゃに散らかった室内で、緩く垂らした髪をまとめ直しながらチェロアが呟く。

「いや」

 僕は中断された儀式のランプを肩掛け袋に入れた。

「祭りだってちゃんとやる。せっかく、ここまで準備したんだから。やるよ絶対に」

「ええ、そうね」

 チェロアもうなずいた。

「今まで準備してきたものね」

 しかし、今の最優先事項はとにかくリートたちの安否だ。

 牢屋に様子を見に行くというチェロアに同行する。昨夜の散歩とは打って変わって緊張が僕らの間に歩いている。会話がなくても互いに考えるべきことはいろいろあった。

「あ、おい」

 くぐもった声が道の反対側から聞こえた。目を上げると、ランプを提げた若者たちだ。今お世辞にも会いたかったとは言えない連中。

 スナネコだ。

「あいつ、捕まったんだってな」

 ランプでにやけ面が映し出される。

「耳が早いことで」

「ちゃんと見てたんだぜ、荷物みたいに抱えられて運ばれていくところ」

 耳障りな馬鹿笑いをするスナネコたち。

「いい気味だ! あのまま首だけになって戻ってくればなお良い」

「よくもそんなこと言えるわね!」

 大声を出して詰め寄ろうとするチェロアを何とか抑える。

「お前、警吏だろ。仲良くしてて良かったのかよ?」

「あの人たち、いい人よ」

 エインが頬のかすり傷を指差す。

「あいつがいい人なら、オレは生まれたての赤ん坊だな」

 その時エインは少しだけひるんだ。


 昨夜は一体、何をされたんだろう?


 だけどそれもほんの一瞬のこと。エインはすぐまた自信と軽蔑を取り戻したようである。

「どこに行こうっていうんだよ?」

「牢屋よ。ついてきたいの?」

「差し入れにでも行くのかよ」

 誰かが冷やかすように口笛を吹いた。

 苛立ちを通り越して怒りが湧く。

「お前らがたれ込んだんじゃないのか?」

「何を言ってるか分からねえな」

 エインは鼻で笑い、唾を吐いた。

「ヒヅリ、行きましょう」

 チェロアに手を取られ、スナネコ団に背を向けた。下卑た声が幽霊のように追いかけてくる。


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