20
ぐずぐずしている暇はない。
「祭りどころじゃなくなっちゃったわね」
ぐちゃぐちゃに散らかった室内で、緩く垂らした髪をまとめ直しながらチェロアが呟く。
「いや」
僕は中断された儀式のランプを肩掛け袋に入れた。
「祭りだってちゃんとやる。せっかく、ここまで準備したんだから。やるよ絶対に」
「ええ、そうね」
チェロアもうなずいた。
「今まで準備してきたものね」
しかし、今の最優先事項はとにかくリートたちの安否だ。
牢屋に様子を見に行くというチェロアに同行する。昨夜の散歩とは打って変わって緊張が僕らの間に歩いている。会話がなくても互いに考えるべきことはいろいろあった。
「あ、おい」
くぐもった声が道の反対側から聞こえた。目を上げると、ランプを提げた若者たちだ。今お世辞にも会いたかったとは言えない連中。
スナネコだ。
「あいつ、捕まったんだってな」
ランプでにやけ面が映し出される。
「耳が早いことで」
「ちゃんと見てたんだぜ、荷物みたいに抱えられて運ばれていくところ」
耳障りな馬鹿笑いをするスナネコたち。
「いい気味だ! あのまま首だけになって戻ってくればなお良い」
「よくもそんなこと言えるわね!」
大声を出して詰め寄ろうとするチェロアを何とか抑える。
「お前、警吏だろ。仲良くしてて良かったのかよ?」
「あの人たち、いい人よ」
エインが頬のかすり傷を指差す。
「あいつがいい人なら、オレは生まれたての赤ん坊だな」
その時エインは少しだけひるんだ。
昨夜は一体、何をされたんだろう?
だけどそれもほんの一瞬のこと。エインはすぐまた自信と軽蔑を取り戻したようである。
「どこに行こうっていうんだよ?」
「牢屋よ。ついてきたいの?」
「差し入れにでも行くのかよ」
誰かが冷やかすように口笛を吹いた。
苛立ちを通り越して怒りが湧く。
「お前らがたれ込んだんじゃないのか?」
「何を言ってるか分からねえな」
エインは鼻で笑い、唾を吐いた。
「ヒヅリ、行きましょう」
チェロアに手を取られ、スナネコ団に背を向けた。下卑た声が幽霊のように追いかけてくる。