17
翌日の夜、ジョムやチェロアがやってきてから灯送りの儀式の決行に取りかかる。
「いいか、気合いを入れて送るんだぞ」
冗談混じりにジョムに発破をかけていると、オグマが目を丸くする。
「灯りをともすのに気合いがいるのか?」
今に分かりますよ、ええ。
灯送りにはいくつかの大切な決まりがある。もらい火はしない。自分の願いが叶わなくなるから。途中で消えたら全ておしまい。火をつける前には手を清めること。神聖な火を扱うのだから。
手を清めるために、一晩星明かりに晒しておいた桶の中の水を使う。両手を濡らした時、厳かな気持ちが頭の中に渦巻いた。自分たちは神官ではないけれど、こうしてささやかでも儀式ができることが嬉しい。
用意するのは、清める水に、人数分のランプ、火口箱、それにこの日のためにとっておいた薬草酒。聖火信徒の儀式には欠かせないものだから、オグマも少しは持っていた。妖しい緑色の汁をランプに垂らし、火をつける。一人ずつ。この祭りのおかげで、どんな子どもだって三歳までには一人で火打ち石を扱えるようになる。
「願い事を心の中で唱えながら、火を灯すんですよ」
異国人のオグマに説明する。
「声に出すと叶わなくなる?」
「いいえ、そんなことはないです」
「なら良かった。俺が最初でいいのかい?」
「年長者から、どうぞ」
促すと、オグマは石を二度ほど打ちつけて火花を出した。乾いた麻にすぐに移し、息を少しずつ吹きかけ、火の赤ん坊を育てていった。
その場に満ちていた不思議な静寂を破ったのは、僕らの中の誰でもなかった。