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「何だよ」
「それなんだけどさ……ヒヅリ、頼みがあるんだ」
「言ってみなよ」
「いや、頼みというか……もう決まったことというか、でも、理不尽なのは分かってるんだけど」
ジョムらしくもない。煮え切らない態度で卑屈に僕の機嫌を窺ってくる。あまり良い気分にはなれない。
だから、こっちから冗談めかして尋ねる。
「次は何百体ガラス細工を作ればいいんだよ」
ところが、ジョムは首を振る。
「今度はその逆だ」
「逆?」
「ヒヅリの作ったものは儀式には使えないんだ。牛も、ランプも」
僕はぽかんとした。今日の働きが音を立てて崩れていく。代わって真っ先に抗議したのはオグマである。
「何故だ? ヒヅリがこんなに苦闘しているのに」
「出来上がりが遅いから?」
「違うね」
僕は自分でも驚くくらい冷えた声で言った。「ジョムが考えたんじゃないな。誰が僕の作った物を「使えない」と言ったんだ? 親父さんか? 準備係にいるスナネコ団の一員か?」
ジョムがうつむく。ごつい顔に影が差す。
「それとも、ナキシュニ隊長か?」
ジョムは長い沈黙の後に、呟くように肯定した。
「……そうだ」
オグマが腑に落ちないと首を捻る。
「分からないな。何故警吏隊長が、この子の邪魔をする?」
僕たちにはその理由は分かっている。だがチェロアは毅然と表情を変えずにガラス細工に目を注いでいるし、ジョムは決まりが悪そうに口を拭うばかりだ。オグマの疑問に答えてやる者はこの場に誰もいない。
「参ったな。この牛たちはどうしよう」
「私が買い取ろうか?」
「オレの食堂で飾ってもいいし」
「馬鹿だな。お客さんの食欲がなくなるだろ、牛ばかりずらずらと並べてたら」
オグマと目が合う。いつもと少しも変わらない表情でオグマは苦笑してみせた。昼間、たった一つのランプをこんなに増やしたのはオグマだ。その後でずっと眠っているほど消耗してまで魔法を使ってくれた。今はさぞがっかりしていることだろう。
「ちょっと出かける」
立ち上がると全員が口を揃えて「どこへ?」
「お散歩だよ」