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しかしその時、頭の中で声が響いた。
『よした方がいい』
エインもチェロアも、他の皆も怪訝な顔で辺りを見回す。聞こえているのは僕だけじゃない?
そういえば、オグマは? リートもいない。この狭い家から消え失せている、出口は塞がれているというのに。
『戦うなど時間の無駄だ』
「ふざけるな!」
空中に向かって怒鳴りつけたのはエインだった。
「誰だか知らねえが、顔見せろ! ヒヅリの前にまずはお前だ!」
少し間を置いて、溜息まじりの返事がくる。
『どこにいるのかも分かっていないのに? 君は存外間抜けだな』
「ま、間抜け……?」
エインの口元が歪み、目はきつくつり上がった。
「いいぜ、間抜けじゃないことを証明してやる」
エインは僕の首を掴み、強い力で引き寄せた。喉が急に締まり吐き気がした。
「三つ数える間に出てこないとコイツを殺すぞ、いいな! __ひとぉつ!」
固くて太い指に力がこもった。既に息が苦しい。必死でエインの脚を蹴るが、全く緩む気配はない。
「二つ!」
視界が霞む。諦めかけて目を閉じたその時、自由と呼吸が戻ってきた!
もの凄い勢いで突き飛ばされ、僕は柔らかい何かに背中から倒れ込んだ。後ろで痛そうな声が上がる。
「チェロア?」
「ええ。大丈夫?」
どうやら、チェロアを敷いてしまったようだ。慌てて離れる。
「ご、ごめん」
「いいの。それより、見て!」
チェロアの顔は輝いていた。
「オグマさんがあいつらをシメてる!」
室内には、僕らとリートしかいない。
「エインは?」
「見てなかったの?」
いつの間にかそこにいたリートの頭をなでながらチェロアはにっと笑う。
「さっきはオグマさんが一瞬であんたとエインの間に入ったの。あいつ、凄く怖がってていい気味だった! そのまま押されて外に出て行ったわ、四人とも」
しばらく口をつぐみ、三人で外の様子を窺った。一目散に逃げていくスナネコたちが見えた。チェロアがほうっと安堵の溜息をつく。
「オグマさん、まるで火の精霊みたいだったわ」
「ごめん、よく分からない」
「説明しても分からないわ、きっと」
やがて顔を覗かせたのは、オグマと、何故かジョムだった。オグマは堂々と、ジョムはおどおどと入ってくる。
「おかえりなさい」
オグマは顔をしかめている。
「顔を見られてしまった。こっそり驚かすだけのつもりだったんだが」
「十分見事な驚かし方だったわ」
「ありがとう」
チェロアの賛辞を軽く受け取るオグマ。僕は心から頭を下げる。
「ありがとうございました」
「気にするな。災難だったな」
ジョムが居心地悪そうに立ったまま身じろぎする。いち早く声をかけたのはチェロアだ。
「ジョムは見た? スナネコ団がやられるところ」
「え……いや、」
今朝までの陽気さはどこへやら、彼は曖昧に首を振る。
「少ししか見ていなかった……ただエインはすごく怯えてて、ほとんど腰をぬかしかけてた」
オグマがにやりとする。
「祭りの準備は順調かい?」
するとジョムはもじもじしたままで僕の方を向いた。