12
「あれ! お前、もしかしてヒヅリか?」
陽気に声を跳ね上げ、最初の男が乗り込んでくる。
「ちょっと!」
文句を言おうとするチェロアを止めた。厄介な奴らだ。下手に怒らせない方がいい。
「おまけに姐御殿までいらっしゃるとはね! こりゃ楽しみだ」
「何が楽しみなんだよ」
僕は腕を組んで睨みつける。
「楽しいことばかりじゃないか。旧交を温めようぜ、この狭いニワトリ小屋でさ」
「そうよ、ここ狭いのよ。さっさと帰ったら?」
「寂しいこと言うなよな!」
入り口から他の三人が入ってきた。わざと擦り切らしたぶかぶかの衣をこれ見よがしに翻し、威圧的に僕らをねめつける。黙っていれば、ガラスの牛やらランプやらをべたべたいじくり回した。
「祭りに出るつもりなのか? 聞いてなかったな。その話、呑みながらゆっくりしようぜ、な?」
彼らは酒やら肉やらを持ってきていた。長居するつもりだ。
子どもの頃の悪夢が蘇る。引っ越してきたその時からスナネコ団は僕たちの天敵だった。泣かされて帰ってきた兄弟を迎えた時のたまらない悔しさ、ほんの子どもなのにふてぶてしい奴らの顔。
リートとオグマを隠すようにさりげなく場所を移動した。今はまだ目をつけられていないけど、一度逃がした獲物をスナネコどもが忘れているはずがない。もし逃げようと思っても、出入り口といえば今ジョムが出た玄関と小さな窓、あとは屋根に一つだけ開けた通気孔しかない。簡単な作りの家というのはこういう時に困るのだ。
「これ何だ? ガラクタ?」
「牛だよ!」
爆笑が起こった。
「牛だってよ! どう見ても色のない馬糞にしか見えねえぜ。なあ?」
「帰ってくれよ……えっと、ノック」
スナネコ団の笑いがぴたりと止まった。ノックと僕が呼んだ男は、ゆっくりと冷たい声で言った。
「俺は、エインだ」
チェロアが息を飲む音がした。打って変わって不機嫌になったスナネコ__頭のエインは、黙って一歩踏み出した。
僕の右足の上に。
痛みで呻き声が出る。それを鼻で笑い、低い声でささやくエイン。
「また家を燃やされてえか? 今度こそ死ねるだろうぜ」
僕は言い返さなかった。やっぱり、こいつが犯人だったのか。それだけを考えていた。鼻の裏に焦げた臭いを感じる。幻だ。少なくとも今は。
「エイン! 今のは聞き逃せないわ。警吏の権限で逮捕することもできるのよ」
「やってみろよ、隊長の雌犬サマ。どれだけ体格差があると思っているんだ?」
エインが殊更に見せつけた卑猥な指真似にチェロアが怯む。
彼女を傷つけさせたくはない。僕は咄嗟にかまどの側に立てたガラス作りの棒を掴んだ。いざ武器として見るといささか細さが心許ない。スナネコ団は開戦の合図とばかりに拳を固めて腰を落とした。
本当は分かっている。毎日大工や畑仕事で体を鍛え上げている彼らに、力で打ち勝てるはずがない。腕っぷしでは町中で一、二を争える強さだからこそスナネコ団は恐れられているのだ。いじめられた子どもの親兄弟が仕返しに出られないのは、とても敵わないからだ。
町に戻ってきてから今まで、深く関わらないように身を隠してきたけれど無理があるようだった。
「下がって、チェロア」
「ヒヅリ? やめてよ。怪我でもしたら!」
「仕方ないよ」
エインは進み出た僕に笑いかける。どういたぶってやろうかと考えている悪意に満ちた顔だ。