06
その後も折を見てはマジョリスちゃんとフラン様が会う機会を作ってみたものの、2人の仲は全く進展を見せない。
私とマジョリスちゃんは仲良くなったのだが、フラン様とマジョリスちゃんの距離はかなりの隔たりを持ったままの平行線。
例えるなら巨大な運河を挟んであちら側とこちら側でずーっと並んでるみたいな感じだ。
おかしい、何かがおかしい。
知れば知る程マジョリスちゃんはとても良い子で、私が男ならばコロッと行くだろう。
でもまぁ、うちの妹の方が可愛さで言えば圧倒的強者なんだけど。
だってあの子ったらもう本当に可愛くて可愛くて、頭からガブッと食べてしまいたくなる程に可愛すぎて時々胸が『不整脈?!』って思う程に苦しくなる位に可愛いの!
語彙力がないから可愛いしか言えないけど、もう本当に可愛いの!
何をしてても可愛いって最強だと思うんだけど。
そんな最強の妹を小説の作中で打ち負かして王子の心を奪ってしまうマジョリスちゃん。
婚約者になるはずだった妹が婚約者にはならず、私というイレギュラーな存在が婚約者の座に座ってしまったものの、私では太刀打ち出来ない程に魅力しかないマジョリスちゃんとの仲が全く進展しないのはどういう事なんだろう?
今日も今日とてマジョリスちゃんには目も向けずひたすらに私だけを見ているフラン様。
その視線で穴が開きそうな私。
「フラン様とアンナ様は本当に仲が良いですね。そんなに想い合っているなんて羨ましいです」
「うん、僕らは相思相愛だからね」
こういう時だけ返事するのやめてもらえません?!
「マジョリスさんには好きな相手はいないの?」
チラッとフラン様を見ながらそう言うと、マジョリスちゃんは首を振って「いないです!私の家の近所にはおじさんとかおじいさんしかいなくて、そういうのとは無縁で」と否定した。
「私もお2人のように素敵な恋がしたいです」
ほんのり頬を染めてそんな事を言うマジョリスちゃんの顔の破壊力よ!
これは流石のフラン様も落ちるのでは?!と思ってフラン様を見ると、相変わらず私しか見ていなかった。
「フラン様?私ばかり見ていて飽きませんか?」
「全く飽きないよ。寧ろ目を離すのが勿体ないからずっと見ていたい」
「ふふふ、本当に仲が良いですね」
「僕らの仲を引き裂ける者はいない位には仲良しだよね」
...思い違いでなければ、私、フラン様に溺愛されてます?
ふとそんな考えが浮かんで来て慌てて打ち消した。
そんなはずがない!
そう、そんなはずはない...多分。
*
「私ってもしかしてフラン様に溺愛されてるのかしら?」
家族とお茶をしている時にそう呟いたら、家族全員から「今更?!」と言われた。
「お前!流石にそれは鈍感すぎないか?!」
「殿下のアンナへの溺愛ぶりは国中の者が知ってるんじゃないか?って位に有名よ」
「お姉様は少し鈍い所があるとは思っていましたが、まさか気付いておられないとは...」
「殿下も気の毒になー!あれだけ好き好きアピールしてるのに本人に伝わってなかったとは」
「殿下に同情するよ。何たってこんな鈍感な妹をあんなに愛してくださるのか理解出来ない」
凄い言われようである。
でもちょっと待って!何かとんでもない言葉が混ざっていませんでしたか?!
「ちょっと待って!国中の人が知ってるって何?!」
「だってあなた達ったら碌に変装もしないで町に出歩いているでしょ?皆気付いていても気付かないふりをしてくれているのに、そんな事も知らずに殿下とイチャイチャしていれば、そりゃ国中の人が知る事にもなるわよ」
ちょっと良い所の子!って服装にしてたつもりがバレてたの?!
え!何それ!恥ずかしすぎる!
「殿下があんなに蕩けるような視線を送るのはアンナにだけだしな。数多いた殿下を狙っていたご令嬢達ですら「これは無理だ」と白旗を上げる程にお前が溺愛されてるのは周知の事実として知れ渡っているぞ」
何だろうか、このいたたまれないような気分は。
「少なくともこの国にはアンナと殿下の仲をどうこうしようなんて考える人間はいないだろうな」
トドメの一撃を食らった気分だ。
結論、溺愛されているようです。
何故だ...。