05
いよいよマジョリスちゃんとフラン様を出会わせる日がやって参りました!
朝からドキドキソワソワしてる私に妹が愛らしい笑顔で「デート、嬉しそうですね」と言ってきた。
『別にね、デートが楽しみな訳じゃないのよ』とも言えず笑って誤魔化した。
フラン様がシンプルな馬車で迎えに来て適当に町を散策。
2人共ちょっと良い所の子ですよ!って感じの服を着てるからフラン様が王子だなんてバレる事もなく、屋台で食べ物を買って食べ歩きしたり、雑貨屋さんを覗いて見たりして楽しんだ。
そして何とか教会までフラン様を連れて来る事にも成功した。
『私、頑張ったわ!』
歴史のある大きな教会は美しいステンドグラスや天井画が見事で、マジョリスちゃんが来ていなかった為2人でじっくりと鑑賞した。
じっくりと見過ぎていて気付かなかったのだが、いつの間にかマジョリスちゃんは教会の中に入って来ていて、祭壇の前で膝を付いて祈りを捧げている姿が見えた。
さて、どうやって自然に声を掛けようかと思っていたらフラフラとした足取りの顔の赤い酔っ払いの男が入って来てマジョリスちゃんに近付いて行った。
「よぉ!何を祈ってんだ?」
男はマジョリスちゃんの腕を掴むと強引に立ち上がらせた。
「や、やめてください!」
その声を聞いた瞬間、体が勝手に動き出していた。
マジョリスちゃんと男の間に立つと「何してるの?!大声出すわよ!」と男を睨みつける。
「あぁ?!」
男が私の胸ぐらを掴もうとした瞬間、フラン様が男の腕を捻り上げた。
「い、痛てぇ!」
「アンナに手を出そうとしたね?!死ぬ覚悟は出来てるよね?!」
今、とんでもなく物騒な言葉が聞こえましたが?!
「悪かった!悪かったよ!もうしねえから!」
「フラン!もういいから!」
「いい?次アンナに手を出そうとしたら頭と体がバラバラになるから、覚悟しといてね」
「ヒッ、ヒィィ!」
酔っ払いは凄い勢いで外に飛び出して行った。
「大丈夫?」
マジョリスちゃんに声を掛ける。
「アンナこそ大丈夫?!どこも怪我してない?!あの男に触られた?」
「私は大丈夫だから、少し落ち着いて、ね」
マジョリスちゃんの事を全く見る事もなく私の心配ばかりしているフラン様。
「あ、あの...」
「あ、ごめんね!大丈夫だった?」
「ありがとうございました、私は大丈夫です」
「掴まれた腕、何ともない?」
「はい、それ程強くは掴まれなかったので大丈夫です」
「そう、良かった。あ、私はアンナ。こっちはフラン。あなたは?」
「私はマジョリスです」
少しオドオドしながらマジョリスちゃんが答えてくれた。
生マジョリスちゃん綺麗すぎ!
これは恋の鐘が鳴り響くか?!と思ったけど、フラン様はやっぱりマジョリスちゃんの事なんて見もせずに私だけをニコニコと見ている。
「フ、フラン?こちらマジョリスさん」
「ふーん、そう」
え?!ここ、興味を示す所では?!
「マジョリスさん、少し時間あるかしら?あんな事があったんだから、気分を変える為に美味しいケーキでも食べに行かない?ご馳走しちゃう!」
「え?ケーキですか?...お誘いは嬉しいのですが、これから帰らないと家に着くのが夜になってしまうので...」
「お家はどこ?良ければ送って行くけど?」
「いえいえ、そんな!助けていただいた上に送ってもらうなんてそんな事出来ません」
「気にしなくていいわよ!ね?行きましょ!」
もうかなり強引にマジョリスちゃんをカフェに誘った。
私の隣にフラン様が座り、私の向かいにマジョリスちゃんが座って、いよいよ2人の仲を取り持つチャンスがやって来た!と思ったのに、フラン様はずーっと私だけを見て、私だけに話し掛けてくる。
「はい、アンナ、あーん」
向かい側にマジョリスちゃんがいるのに王城で会っている時と同じ感じであーんまでされてしまった。
「お2人は仲がいいんですね」
「そうだよ、僕とアンナはとっても仲が良いんだ」
よっしゃ!フラン様がマジョリスちゃんに返事を返した!
ここから話が盛り上がって良い雰囲気になるぞ!
...と思ったのに会話はそこで終了。
何故?!
「このケーキ美味しいですね」
「良かった、気に入ってくれた?」
「はい、とても!」
「お土産も用意したから、帰りに持って行ってね」
「そんな!お土産だなんて」
「いいのいいの、仲良くなった記念だと思って」
「何から何までありがとうございます」
私とマジョリスちゃんだけで話してるのはどういう事だ?
「フラン?マジョリスさんと話さなくてもいいの?」
「僕はアンナを見てるだけで幸せだから」
「本当に仲が良いんですね」
「最愛の婚約者だからね!」
「婚約者、なんですね」
そういう時だけ反応するフラン様。
どうして?!
結局何も起きないままマジョリスちゃんを家まで送った。
マジョリスちゃんの家から帰る馬車の中でフラン様が「やっと2人きりになれた」と嬉しそうに隣に座り、私の腰に手を回してグイッと引き寄せると、頭の匂いをクンクンと嗅いでいた。
「嗅がないでください...町を歩いたので汗をかいていて臭いかもしれませんから」
「アンナは汗の匂いも甘い良い香りなんだね...ずっと嗅いでいられるよ」
「恥ずかしいので本当にやめてください」
「恥ずかしがるアンナも可愛い」
「.........」
今は首筋の匂いを嗅がれている。
鼻なのか頬なのかが時々首筋を掠めるのが擽ったい。
「...擽ったいです」
「アンナはどこもかしこも良い匂いだね」
本当にもうやめていただきたい!
「マジョリスさん、お綺麗な方でしたね」
「そう?アンナの方が綺麗で可愛いよ?」
「不思議な色の髪をされてて、神秘的な方でしたね」
「僕はアンナのこの濃いめの蜂蜜色の髪が好きだよ。食べてしまいたくなる程に美味しそうで綺麗だ」
「瞳も綺麗な紫色で」
「アンナのエメラルドの瞳は世界一綺麗だよね。ずっと見ていられるし、ずっと見ていたい」
「ケーキ、喜んでもらえて良かったです」
「ケーキを頬張るアンナは小動物みたいに愛らしくて、見ているだけで幸せになれるよね」
いつも思うが、何だろう、この噛み合ってるようで全く噛み合っていない会話は!
「マジョリスさんの事、どう思いました?」
「うーん...僕はアンナの事でいつだっていっぱいだから、他の子の事なんてどうでもいいよ」
「いいな、とか思いませんでした?」
「もしかして僕があの子に奪われちゃうとか心配してる?そんな事絶対ないからね!僕はアンナ一筋だから!あ、でもヤキモチ妬いたのならそれは嬉しいな」
「いえ、そういうのではなくて...」
「もう、アンナは本当に可愛いなぁ!」
思い切り抱き締められ、髪の中に顔を埋められた。
深呼吸するかの如く髪の匂いを思い切り吸い込むと「はぁ...アンナの匂いは良い...」と囁かれた。
「アンナの匂いと体温に包まれて一生過ごしていたい」
ちょっと怖いです、フラン様!