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それからあれよあれよと言う間に結婚の話が進み始めた。
「ウエディングドレスは一先ずデザインだけを決めておいて、式間近にサイズ調整を済ませるといいよね。アンナも僕もまだまだ成長期だから、今のサイズで作ってしまうと式の時に着れないかもしれないし」
「...それはそうですけど...本当にこんなに早くに式を挙げるのですか?」
「僕としてはこれでも遅いと思うのだけど」
「いや、でも...フラン様には運命のお相手が...」
「アンナ?僕の運命は君だよ。それは断言出来る。君以外有り得ない。だから君もその事を早く受け入れて」
小説の展開を知っている側としては私が運命の相手だなんて絶対に有り得ないとしか言えない。
だってあの万人に愛される天使のような妹ですら聖女には勝てなかったのだ。
私如きが勝てようか?!
聖女に心惹かれる王子の気持ちを知り、自分の恋心を思い知らされ、それでも身を引くべきか、自分の気持ちを優先すべきか1人で苦悩する描写が切なかった。
読者側の私的には「そんな可愛い婚約者がいながら他の女に惹かれる男なんて捨てちまえ!あなたならもっと素敵な人が現れるから!」って言ってあげたかったけど、その小説の世界で生きている今の私ならばフラン様がもし聖女に惹かれたと気付いたらサッサと捨てるだろう。
自分以外の女の事を想ってる男なんて一緒にいるだけ不幸だもん。
でも結婚してしまえばその『捨てる』という行為も出来なくなる訳で...え?私、詰んだ?!
*
聖女と出会えばフラン様の気持ちはそちらに向かってしまうはずで、でも結婚の準備は着々と進み始めていて...。
「待って!別に3年後に出会わなくても、今出会わせたら2人は惹かれ合うんじゃない?!」
部屋の中で盛大な一人言。誰もいないから良し!
小説の展開では3年後に母親の病気の回復を願って教会を訪れた少女が、神に祈りを捧げていると全身が光り輝き癒しの力を授かり聖女認定されるのだが、別に聖女認定されるのを待つ必要はなくないだろうか?
小説の中の2人は王子と聖女だから惹かれ合ったのではなく、公務を通して互いを知るうちにその人柄や優しさに惹かれ合っていた。
という事は、今出会ってその人となりを知れば当然のように惹かれ合うのでは?
だって運命なんだし。
小説の中の王子と聖女の結婚式のシーンで王子が「僕達はこうなる運命だったんだ。君は僕の運命。必ず幸せにする」と聖女に告げていた。
そう、2人は運命なのだ。出会えば惹かれ合う運命。
ならばその時期がずれようが惹かれ合う、絶対!
という事で私は聖女の事を調べた。
小説の中で聖女は母子家庭の平民で、王都の端の方にある少し寂れた土地で母親と祖母と3人で暮らしていたと語っていた。
聖女に認定されてからは身柄を教会に移したが、聖女の力により母親の原因不明の病気を治し、聖女特権で母と祖母を自分が暮らす教会の近くに住まわせ、教会から渡されるお金の半分以上を祖母と母に渡し「聖女になれて良かった。おばあちゃんとお母さんに恩返しが出来るもの」と眩しい笑顔で話していた。
その眩しい笑顔に王子は胸をキュンとさせるのだが、今はそんな事はどうでもいい。
小説には具体的な地名等全く出て来なかったので探すのに苦労したけど、容姿と名前は分かっていたので何とか見つけ出す事が出来た。
後に聖女になる女の子マジョリス・ドートン。現在13歳。
王都の端っこの町として名前も付いていない場所で祖母と母と3人で慎ましやかに、だけど明るく暮らしていた。
輝くパールのような乳白色でありながら光の加減で虹色に変化する不思議な髪に神秘的な紫色の瞳を持つ家族思いで頑張り屋の少女。
調べてもらった報告書を読んでもその心根の優しさが分かる程に善良な女の子。
聖女に選ばれるのも納得な素晴らしい女の子だ。
さて、この子とフラン様をどうやって引き合わせようか?!
*
暫くマジョリスちゃんの行動を調べてもらっていたら、マジョリスちゃんは毎週同じ曜日に王都の中心部まで出て来て、家族全員で作った小物等を馴染みの商会に卸している事が分かった。
そしてその帰り道で後に聖女として力を発現させる教会に立ち寄り祈りを捧げて帰路に着く。
「この教会で待ち伏せてればいいんじゃない!さり気なくフラン様を教会に誘って、2人が出会うお膳立てをすればいいのよ!」
思い立ったが吉日!早速フラン様に予定を伺って「町に出掛けませんか?」とお誘いしなければ!
フラン様に手紙を出すとすぐに返事が返ってきた。
━━愛する僕のアンナ
君から誘ってもらえるなんて嬉しいよ。
君の希望する日にちで大丈夫だよ。
君の為なら僕は何時だって、どんな事をしたって時間を作るよ。
君とデートする日が待ち遠しいよ。
君の事を愛するフランより━━
若干想いの強い返事が来て驚いたが、作戦は決まった!あとは決行日を待つのみだ!