77.ミノタウロスとの邂逅
「さて、ここからどうする?」
普段のダンジョン攻略なら別れて散策するのが最も効率がいいが、ここにはミノタウロスがいる。
バラバラになっているときに単独で遭遇してしまった場合、ひとたまりもない。
「その点についてはお任せください! 私の魔法がありますので!」
リリアはそう言うと、右手を高く掲げて魔法陣を展開した。
「何をしてるんだ?」
「この洞窟の構造を把握してるんです。ダンジョンには階段がありますが、この洞窟はそうではないので……ひと際大きい生命反応を探知すればそこがミノタウロスの居所です」
なるほど、リリアが最初に非戦闘担当と言った意味が分かった気がする。
戦闘に関することをマチルダがやって、それ以外をリリアがやる。それがスカーレットアマゾネスのスタイルのようだ。
「……見つけました! 着いて来てください!」
「あ、いきなり走り出すと!」
リリアは先陣を切って走り出す。すると、岩壁の陰からモンスターが現れる。
言わんこっちゃない。彼女は戦いが得意じゃなさそうだ。早く助けないと!」
「はぁッ!」
駆けだそうとした刹那、まるで位置がわかっていたかのようにマチルダが手に持った剣でモンスターの首を跳ね飛ばした。
リリアは減速することなく走り続ける。彼女もまた、マチルダが助けに入ることをわかっていたようだ。
これがスカーレットアマゾネスのコンビネーションか! 無駄がまるでない。そして何より、早い。
早さはクエスト攻略には必要不可欠だ。冒険者は敵陣に乗り込んでいくという性質上、戦闘が長引くことは不利につながる。
この連携は二人がクエストをこなすうちに身に着けた最適解なのだろう。動きを見ていれば、二人が熟練した冒険者なのがわかる。
この二人、強いぞ!
「おい、とっとと着いてこい! 置いていくぞ!」
あまりのスムーズな連携に唖然としていると、マチルダに怒られた。
俺たちは二人にくっついていくように洞窟の奥に進んでいく。
「ここが最深部です!」
リリアが足を止めたのはそこから5分ほど後のこと。
ノンストップで走ってここまで来たため、想定よりも何倍も早い到着だ。
この先に、ミノタウロスがいる――!
「まずオレたちが突入する。アスラたちはそれに続け」
俺たち3人は黙って頷く。それを見てマチルダとリリアが前へ走り出した。
「――なっ!」
二人に続いて最奥部に入った時、俺の視界に入ってきたのは――、
――まさしく財宝の山だった。
「話には聞いてましたけれど、こんなに大量にですか!?」
豪華な装飾を施された武器や防具が山のように積み上がっている。
まるで宝物庫に足を踏み入れたようだ。
「おい、そんなこと気にしてる状況じゃねえだろ。ちゃんと気を張れ」
マチルダはそう言って剣を引き抜く。肌を刺すような威圧感の中、彼女が見つめる先には――、
「ブォォォ……!!」
あれがミノタウロス……! 話に聞いていた通りの巨躯だ。
体長は5メートルくらい。これまでにこのサイズのモンスターと戦ったことはあるが……なぜか、桁違いに大きく感じる。
肌は筋肉がむき出しになったように赤く、顔面に黄色い目玉が輝いている。
「お前ら下がってろ。こいつはオレたちがやる」
そう言って前に出たのはマチルダとリリア。以外にも、二人の横顔は自身に満ちていた。
「いけるのか?」
「オレたちも無策で来たわけじゃねえ。上手くいけばベルグ……いや、こいつにも通用する」
マチルダは武器を構えると、勢いよくミノタウロスに向かって駆けだす。
「ブォォォォ!!」
ミノタウロスは拳を振り上げると、マチルダに向かってストレートを打ち込む。
まるで巨大な岩石のような拳が、土砂崩れのような勢いで襲い来る。
「リリア、今だ!」
その時、リリアが後方からミノタウロスに向かって魔法を放つ。
「はぁッ!!」
マチルダの攻撃がミノタウロスの巨体をぶった切る。続けてミノタウロスを襲うのは絶え間ない連撃だ。
マチルダの一方的な攻撃に、ミノタウロスは成すすべなくじたばたと暴れ回っている。俺はその光景に違和感を覚えた。
「何が起きてるんだ!? ミノタウロスが手も足も出てないぞ!?」
「私の魔法でミノタウロスの視界を奪っているんです!」
なるほど、リリアがデバフをかけていたのか!
あの狂暴なミノタウロスも、相手を捉えることが出来なければ滅多矢鱈に動くしかない。
「ブォォォォォォ!!」
「いい加減、大人しくしやがれ!」
マチルダは華麗にステップを刻み、様々な角度から攻撃を加える。
巨体のバランスが崩れたとき、マチルダは溜めに入った。
「こいつで終わらせてやる……<女王の一蹴>!!」
そして、十分な溜めから放たれたのは、強烈な刺突だった。
マチルダが剣を突き立て、勢いよく突進する。マチルダは一気に懐に入り込む。
「行ける! 行けますよマチルダさん!」
リリアが歓喜の声を上げる。
――その時だった。
「ブルルア!!」
マチルダの突進は止められた。投げられたボールを受け止めるするように、ミノタウロスがマチルダの体を掴んだのだ。
「馬鹿な! まさかわざと受けたのか!?」
マチルダの放った技はまさしく必殺級。それを正面から受けきるなんて、どんなフィジカルだ!?
そして、マチルダの体は捉えられ、ミノタウロスは視界が見えないという弱点を克服した。
「おい放せ! ふざけんな!!」
マチルダは必死にもがこうとするが、両腕を掴まれ逃げることは叶わない。
その刹那、嫌な音が耳朶を打った。
「ああああああああああああああああ!!」
それは、マチルダの両腕の骨が握りつぶされた音だった。
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