76.スカーレットアマゾネス
恐ろしさを感じるほどまで冷酷で真っすぐな視線。一目見るだけで視線が吸い寄せられてしまう。
「なるほど、スカーレットアマゾネスのご登場とは、また話が大きくなってきたな」
そういえば、スカーレットアマゾネスは俺と同じSランク冒険者だとアザレアが言っていた。
となるとこの情報屋もマチルダのことを知っていても不思議じゃない。
「へえ、コカトリスの巣に単騎で乗り込んだあんたがこの話に乗ってくるとは……これはまた面白い話になってきたな」
コカトリスって、確かキマイラと同じAランクモンスターじゃなかったか?
Sランク冒険者だから強いのは当然と思っていたが、もしかしてこの人思っていたよりさらに強いのか?
「黙れ。Aランクモンスターなんていくら倒して何の指標にもならない。それに、単騎じゃない」
その時、どこからともなくバタバタと足音がしたかと思うと、一人の女性が人ごみをかき分けてこちらにやってきた。
「マチルダさん、何やってるんですか! いきなりどこか行ったと思ったら、他の冒険者さんに絡んじゃ駄目ですよ!」
「別に絡んじゃねえよ。オレはただ協力しようって持ち掛けただけだ」
女性はかけている眼鏡の縁をクイッと上げると、俺たちに深々とお辞儀をした。
「ご迷惑をおかけしてすみません。私、スカーレットアマゾネス非戦闘担当のリリアと申します! ……って、皆さまどこかで見かけたような」
そういえば、王城にこの人もいたような気がする。彼女も俺たちのことを認識しているようだ。
「話を戻すが、オレたちも以前から英雄の墓場は狙っていたんだ。共闘といかないか?」
「俺は別に構わないが……そんなに強いならわざわざ共闘なんてしなくていいんじゃないか?」
「煽りのつもりではなさそうだから教えておいてやろう。ミノタウロスに勝てる冒険者は存在しない。あのベルグですら倒せなかったんだからな」
あのベルグも!? 実際に打ち合ったからわかるが、ベルグの実力はAランクは軽く超えている――Sランクは間違いないぞ!?
「王城へ戻ってきたときは酷い有様だったそうだ。全身の骨折に致死量の失血、武器や防具は粉々にされ、門の前で気絶しているのを兵士が見つけたらしい」
俺はゴクリと唾を呑む。あまりにも凄惨な結果――否、命を奪われかねないという事実に。
「でも、マチルダさんはそんなミノタウロス相手に戦いを挑むわけだ。単独じゃ勝てないってわかりながら」
「――ああ、そうだ。理由は至極簡単。オレは奴が守る財宝が欲しい。喉から手が出るほどにな」
冒険者らしい動機だ。冒険者に血気盛んな人が多いのは、彼女のように金銭や名声欲が目的だからだ。
こういう交渉の時に自分の目的を明かしてくれる相手は信用できる。
「わかった。二人も一緒にミノタウロスを倒そう!」
マチルダは俺の返答を聞き、好戦的に笑った。
*
情報屋に言われた場所に歩いて向かう最中、俺は隣で歩くマチルダに声をかけた。
「なあ、ベルグってこの王都だとどれくらい強いんだ?」
「唐突だな、どういう意図だ」
「いや、ベルグがミノタウロスに敵わなかったって聞いて、どれくらいの実力なのか気になったんだ」
実際に戦って、彼は並ではない実力を発揮した。おそらく王都でも上位の力だと思うが……。
「んなもん決まってるだろ。ベルグがこの王都最強だ」
「……そうだったのか!?」
「伊達に戦士長なんかやってねえよ。悔しいが、あいつにはオレも勝てねえ。強さの段階が冒険者とは一個違う」
マチルダはチッと舌打ちをした後、すぐに切り替えて話し始める。
「まあ、次はオレだな! なんたってクエストをこなしてる数が他の奴らとは違うからな! 後は知らねえ!」
うーん、清々しいほどに主観が入っている気がするな……。
「じゃあ、続きは私が話しますね!」
すると、横で話を聞いていたリリアが眼鏡の縁を上げ、自信ありげに言った。
「マチルダさんは自分が2番目の実力者と言っていますが……実際は2番目の候補は3人います。マチルダさんとアザレアさん、それから副戦士長のセリニクスさんです」
副戦士長って、あの人がよさそうな好青年か。覇気がなかったから気づかなかったけど、マチルダと同じくらいの実力者なのか。
「おいリリア。お前、オレが2番じゃねえって言うのか? どう考えてもオレの方が結果を出してるだろうが」
「マチルダさんはクエストを多くこなしてますからね。一方で、アザレアさんは気分屋なのでクエストに出たりでなかったりで、セリクニスさんは武闘派タイプではないので、実力は必ずしも結果に出るわけじゃないんですよ」
マチルダの機嫌がどんどん悪くなっていく。リリアはそれをいなすように咳ばらいをした。
「おっと、もう英雄の墓場が見えてますよ!」
リリアが指す方を見てみると、そこは地面が大きく隆起しており、洞穴が空いていた。
外見は他のダンジョンと全く変わらない。……が、中には件のミノタウロスがいるのだ。
「チッ、まあいい。さっさと中に入って宝をかっさらうぞ!」
俺たちは洞窟の中に足を踏み入れていく。
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