74.見せたかった場所
それから俺たちはしばらく街を歩き続けた。
アザレアの隣に並んでついていくと、彼女は途中から階段を上り、どんどん高いところへと向かっているようだ。
「なあ、どこに行くんだ?」
「もうすぐだよ。ほら、あそこが一番上だから」
階段を上り切ると、そこは見晴らしのいい広場のようになっている。
辺りを見回すと人はいないが、夕日が眩しく思わず目を閉じてしまう。
「ねえこっちだよ。私が見せたかったもの」
アザレアはフェンスに肘をつきながら、ある方向を指さす。
彼女が示す方を見て、俺は思わず呆気に取られた。
「なんだあれ……!?」
そこは、この王都から外れた遠い場所。ここからでは小さくしか見えないが、間違いなく大きな何かがポツンと存在している。
それは巨大なクレーターだった。まるで巨人のスプーンですくわれたように、何もない地面がぽっかりと抉られている。
「アスラは知ってる? この王都には龍との戦いの歴史があるの」
「初めて聞いたが……龍ってドラゴンとは別物なのか?」
「ドラゴンはモンスターの中の種類。龍はモンスターの中で頂点に君臨する種の一つって言ったらわかりやすいかな」
モンスターの中の頂点!? どれだけ強いんだ!?
「千年前、まだ王都が栄えてなかった時代。この土地に龍が現れたの。龍と人間の戦いは何年も続いて、ある日終わりを迎えたの」
「ある日ってことは……龍が退散したとか?」
「ううん。龍は封印されたの。一人の賢者によってね。その跡地があのクレーターってわけ」
なるほど封印か……そこまでしないと止まらない龍もすごいが、それを成し遂げた賢者もすごいな。
「賢者による封印は多くの人間の命を代償にした。でも、封印は完全ではなかったの。いつかそれは破られる。だから、賢者はいつか来るその日のために封印の手段を王族に授けたの」
スケールが大きすぎてまるで想像できないが、要するにその賢者によって王都は救われたってことか。
その賢者はいったいどんな人なんだろうか。俺のイメージでは長い髭を蓄えた老人だ。
「……ま、その賢者って言うのが私のご先祖様なんだけどね」
「今なんて言った? 龍を封印した賢者が、アザレアの先祖?」
「そういうこと。自分で言うのもなんだけど、さっきもそこそこ魔法は使えてたでしょ?」
そこそこなんてレベルじゃない。アザレアのあの卓越した魔法の源流は先祖にあたる賢者だったのか。
「どう? ここからの景色は。あの跡地を見てどう思った?」
正直言って、これまで田舎でゴブリン退治に明け暮れていた俺にはまるで想像が及ばない世界だ。
最強のモンスターが、一人の英雄によって封印された? その跡地があのクレーター?
難しいことはわからないが、俺が思うことはたった一つだ。
「ワクワクするな」
「ワクワク?」
「だって、あの場所に最強のモンスターがいたんだろ? そんなやつと戦ったらどうなるか試してみたいと思ったんだ。それに、そんなモンスターと戦って勝てるくらい強くなりたい。アザレアの先祖みたいに」
俺がそう答えると、アザレアはこらえきれないとばかりに吹き出し、そのまま大笑いした。
「アハハハハ! やっぱりアスラって面白いね!」
「笑うなよ。俺は真剣に答えたぞ」
「だって、私の先祖だって勝ったわけじゃないんだよ? 勝てないから仕方なく封印しただけ。人間が龍に勝つなんてありえないって!」
「え、そうなのか!?」
「うん、いいね。やっぱりアスラはアスラって感じだ」
アザレアはひとしきり笑って出た涙を拭い、再び歩き出した。
「今日は楽しかった。ありがとう。見せたかったものは見せられたし、解散!」
「自由だな。次に会うのは……いつだ?」
「パレードの前日に打ち合わせがあるってさっき副団長が言ってたよ。だからそれまでは自由行動だね」
え……もしかしてさっきの王城での会議でちゃんと話を聞いていたのか?
アザレアはかなり自由闊達な印象があったが、一方で実力があり、しっかりしている。
一週間後のパレードでは、彼女は頼れる味方になりそうだ。
俺たちは二人で階段を下りた後、それぞれ解散した。
……俺はティナとリーリアにこっぴどく説教された。
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