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73.大火事

「あれは……火事か!」


「王都じゃたまにあることだけど……今日のはちょっと規模が大きいね」


 既に火の手はかなり大きくなっており、野次馬や避難する人の数も多い。

 このままいけば、規模はさらに拡大して被害はより甚大になるだろう。


「まだ逃げ遅れてる人がいるかもしれない……助ける!」


「ちょ、ちょっと待ってよ! 正気!?」


 走り出そうとしたとき、アザレアが俺の手を掴んで止めた。


「なんだ? 早くしないと手遅れになる!」


「もう手遅れだよ! だって見て、あの規模で燃えてたら建物の中にいる人は助からないって!」


 確かに、現実的に見て既にどうにかなるラインは超えている。

 ましてや、俺は火事を止めることが出来るわけじゃない。もう手遅れだというアザレアの言葉は正しい。


「それでも、行かなくちゃ駄目なんだ。もしかしたら、一人でも助けられるかもしれない!」


「無茶だよ、自分が死んじゃってもいいの?」


「それでもだ!」


 俺はその場から駆け出すと、火の手が上がっている家の方へと向かう。

 間近に見ると物凄い臨場感だ。炎が燃え盛り、ゴオゴオとモンスターの鳴き声のような音を立てている。


「誰か助けてくれええええええええ!!」


 現場に駆け付けるとすぐに男の声が聞こえてきた。声の方を見ると、建物の2階のベランダでおじさんがこちらに助けを求めて手を振っている。


「すぐに行きます! そこで待っててください!」


 家に向かって走り出そうとしたその時。


「ねえ、こっちも助けて!!」


「こっちを先に頼む! もう火がすぐそこまで来てるんだ!」


 まるで壁に声が反響するように――人々の声が次々に上がる。

 周囲を見回すと、こちらに向かって助けを求めている人は一人ではなかった。目視できる範囲で4人。本当はもっと多いはずだ。


 どうする……一人一人回って助けられるか!?


 その時、俺の頬にポツリと冷たい液体が垂れる。


「雨……?」


 一滴だった雨は徐々に強くなっていき、数秒の間にまるで豪雨ほどに強くなった。

 しかし妙だな……さっきまでよく晴れていたはずだったが?


「もー、アスラはしょうがないなあ。ちょっとだけ手伝ってあげるから、命は大事にね?」


 雨に面食らっていると、アザレアが宙に浮いた状態でこちらへ飛んできた。

 まるで風に乗っているようなアザレアは、俺の前に来るとゆっくりと地面に立つ。


「助かる! だけど、急に雨が……」


「あー、これは私の魔法だよ。今回は範囲が広いから魔力消費が多くてまいっちゃう」


 これが魔法!? まさか、人一人の力で天候を呼び起こしたっていうのか!?

 俺は一通り魔法が使えるが、こんな芸当は出来ないぞ!?


「いちおう雨で延焼は抑えられるけど、時間がないことは確かだよ。後はアスラに任せたからね!」


「わかった! <疾風怒涛翔>!!」


 全身に力をたぎらせ、俺は燃え盛る建物に向かって走り出す。


「待ってろ! 全員助けてやる!」



 救出活動が終わったのは2時間が過ぎた頃だった。

 既に日が傾いており、火事の野次馬もかなり人数が減った。


 俺はというと、一仕事を終えて一休みしていた。


「お疲れ。はいこれ飲み物」


 しばらく黄昏ていると、アザレアが飲み物の入ったコップを手渡してくる。

 俺は中に入った水をぐっと飲み干すと、大きく息を漏らした。


「町の人にすごく感謝されちゃったよ。私のおかげで火事が最小限の被害で消し止められたって。……本当はアスラのおかげなのにね」


「いいや、アザレアが雨を降らせてくれなかったら危ないところだった。助かったよ」


「あれはただ、アスラを応援したいと思っただけ。君が動かなかったら私は何もしなかったよ。それにしても……」


 アザレアが俺の脇腹をつついて感触を確かめる。彼女の表情からは好奇心を感じられる。


「アスラ、君はどうなってるの? あの身体能力が上がる能力――魔法なのかは知らないけど、体への負担は激しいはず。なのに2時間休むことなく動き続けて、今も疲れている様子がないなんて普通じゃない」


「疲れてはいるさ。ただ慣れてるだけだよ。ちょっと前まで朝から晩まで働きっぱなしだからな」


 俺から見るとアザレアの働きの方が凄い。あの雨を降らせる魔法は俺にはとても再現できそうにない。

 彼女は俺より魔法適正が高いのだろうか?


「ねえ、アスラ。君はどうしてそんなに真剣に人助けが出来るの?」


「困っている人がいたら助けたいって思うだろ。ただそれだけだよ」


「でも、アスラのそれは普通じゃないと思う。だって、自分の命が危険になるかもしれない状況で助けに行くなんて誰も出来ないよ」


 そうか……? 自分が助けられるような状況に置かれたら、何かしたいと思うんじゃないだろうか。


「じゃあさ、アスラは私を助ける代わりに死ぬかもしれなかったら、助けてくれる?」


「そんなの当たり前だ」


「……冗談だって。照れるから即答しないでよ」


 アザレアは顔を赤らめてそっぽを向くと、そのまま歩き始めた。


「ねえ、ちょっと歩こうよ」

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