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70.試験、開始!

「はあっ!」


「……ッ!!」


 俺が力を込めると、ベルグの巨体は後方へ吹っ飛ばされ、壁と衝突して亀裂を入れた。


「アスラさんが押してます!」


 確かに状況的に見ればそうなる。……が、それ以上に、俺たちはあの一瞬でお互いをわかりすぎた。


 ベルグはゆっくりと壁から体を起こすと、俺の目を真っすぐに見た。


「君の名前は?」


「アスラ・セインだ」


「アスラか――聞いたことのない名前だ。覚えておこう」


 最初の小競り合いにしてはかなり力を込めていた方なのに、この男にはまるで効いている様子がない。


「ティナ。リーリア。下がっていてくれないか」


「なんで? 3人でかかればもっと有利になるのに!」


 俺に反発するリーリア。その様子を見て、ベルグはふっと笑った。


「そうか――君も同じか」


「ああ、そうだ」


 確信した。俺とベルグは今、同じことを考えている。

 目の前の男と――出会ったばかりのこいつと、一対一で全力でぶつかってみたい。


 今の自分の実力が、相手の強さがどのくらいなのかを試してみたい!


「よそ見している余裕はないぞ!」


 ベルグは猛々しくこちらに突っ込んでくると、目にもとまらぬ速さで五月雨突きを放ってきた。

 とてつもない勢いだ。一瞬でも気を抜けば強烈な一撃を食らって終わりだろう。


「くっ!」


 この槍捌き、恐ろしいのはスピードだけじゃない! 一撃一撃の正確性が高く、確実に俺の避けにくい場所を狙ってきている!


「だったら、これでどうだ!」


 槍を躱した状態から態勢を低くし、剣で槍を弾く。

 木とぶつかったとは思えないような大きな音を立てて軌道を変えた。


 さらに、俺は返す刃でベルグの胴体をめがけて剣を振るった。


「ぐうっ!!」


 しかしベルグの判断は早かった。俺から攻撃が来ると見ると、すぐに追撃を止めて後ろに下がった。


「惜しい! アスラさんの攻撃が外れました!」


「……いいや」


 攻撃を避けた後、ベルグは自分の鎧の腹部を触った。

 そこには、横一文字に傷が出来ていた。傷は鎧の表面に刻まれているだけで、鎧そのものは貫通していない。


 さっきの攻撃を、ベルグは完全に回避できていなかった。あれはかすり傷だ。


「恐ろしいな……最近の冒険者はレベルがこうも高くなったのか?」


「ずいぶん謙遜するんだな。あなたが王国の槍なら、そこらの冒険者なんて簡単に穿つことが出来るだろうに」


「だが、私は君に触れることすら叶わず、君は私に2発入れた。これだけで君の強さは簡単に推し量れるというものだ」


「いいや……まだだ」


 俺は握っていた剣を腰に差し直し、素手の状態になった。


「ちょっと、アスラ!? なんで剣をしまうのよ! このまま押せば勝てそうなのに!」


「すまない、リーリア。でも、どうしてもやってみたいんだ」


 向こうは木槍で、こっちは真剣。そんなのはイーブンじゃない。

 俺はベルグと純粋に力をぶつけてみたい。グレートボスや(スレッド)のように謀略で勝負を仕掛けてくるわけでもなく、ただ真っすぐに力量をぶつけ合う。


 ベルグは強い。その強さと戦い方は、人間というよりモンスターのそれに近い。


 俺は――ずっとこんな勝負をしたかった!


「アスラ、君と出会えたのは今日一番の収穫だ! 私も君に答えたくなった!」


 ベルグが豪快に笑う。次の瞬間、彼は木槍を膂力でへし折ってしまった。


「あんな大きな槍を矢みたいに簡単に……アスラさん、気を付けてください!」


「ありがとう。絶対に勝つよ」


 俺とベルグは、部屋の中心に向かってお互い歩いていく。

 1歩、2歩、3歩進んだその刹那、空気が一気に変わった。


「はァァァァァァ!!」


「<疾風怒涛>!!」


 次の瞬間には、俺たちは拳を交えていた。

 腹部。顔面。そして、相手の拳。まるで鞭を打つような音が、この広い空間いっぱいに響いた。


「アスラさん!」


「いや、待って!」


 心配の声を上げるティナと、リーリアの制止の声。二人も気づいただろう。

 ベルグの連撃は、一度も俺の体を捉えていないことに。


 数秒の応酬。それを止めたのは俺の一撃だ。俺の拳が彼の鎧を貫通してめり込んだ瞬間、ベルグがピタリと固まった。


「やはり、か……」


 ベルグは笑うと、何歩か後ずさると、俺の瞳を真っすぐに見つめた。


「やはり、わかっていたが……悔しいものだな。……ここまで届かないとは」


 ベルグは膝を折り、その場に座った。口からは一滴の血が流れた。


「アスラ、君は強すぎる。君に全力でぶつかっていくにつれて気づいたのだ……君と私では、強さのステージが違う……」


 なんとなくわかっていた。ベルグが時折浮かべる笑みが、どこか自嘲的であることを。

 ベルグという男は実直だ。こうして対峙して、彼が王国の槍として背負って来たものも感じ取れた。


「教えてほしい。君から見て、私はどれほどの強さなのか!? 私は、王国の戦士長にふさわしい実力なのか!?」


 ベルグへの攻撃はかなり力を込めた。あと1分もしないうちに、彼は気を失うだろう。

 だから、答えは簡潔に。


「ああ、合格だ」


 俺の返答を聞いて、ベルグは驚いたような顔をした。


「ふふ――ははははは!! まさか、試験をしていたはずの私が合格を貰うとは! 面白いことがあったものだ!! は――」


 ベルグは満足そうに笑った後、気絶してその場に仰向けで倒れ込んだ。

 これにて試験は完了だ。

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