68.王都アドラキア
村で夜を明かし、俺たちは再び移動を開始する。
カメちゃんに背中に載せてもらった長時間の移動もかなり楽になった。
当初は2日間かかると見込まれていた旅は、イレギュラー込みでも予定よりも早い2日目の夕方に到着となった。
「すごーい! ここが……!」
「……王都アドラキアだ」
夕日を浴びて聳え立つ高い城壁。そしてその先に見える大きな城。
俺たちの眼前に広がるのは、生まれて初めての王都の姿だった。
「やっと着きましたね! で、でもどうやって入ったらいいんでしょう!?」
「わからない……もしかしたら申請が必要かもしれないな」
「普通に正面の門から行けばいいでしょ」
俺たちは――主に俺とティナは、困惑しながらアドラキアの中へと足を踏み入れた。
「見てくださいアスラさん! 人がたくさんいますよ!」
街の中に入ると、ティナはかなり興奮気味だ。辺りを見回して大きく声を上げている。
彼女の反応も無理はない、田舎者の俺たちにとってかなり刺激的な光景だ。
「で、王都に着いたはいいけどこれからどうするの? クエストがあるのはわかってるけど、詳しいことはわからないんでしょ?」
「もちろん考えてる。こういう時に行くべきは……あそこだ」
俺はそう言って、近くにある一つの建物を指した。それは冒険者ギルド。
「なるほど、確かにギルドなら人が集まってるから話が聞きやすいわね」
「まあそういうことだ。行こう」
俺たちはギルドの扉を開き、中へと進んでいく。
やはり王都ということもあり、人数が桁違いだ。人の波をかき分け、俺は特に人が集まっているところへ行った。
情報は人がいるところに集まる。そして、そういう場所には情報を集めている人もいるというわけだ。
「よお、誰かお探しか?」
ギルドの中を歩いていると、壁に寄りかかっている男が話しかけてきた。
……どうやら探していた人物は見つかったようだ。
「こんなところで一人でいて、退屈じゃないか?」
「……いいや、そうでもないさ。雑音を聞きながら飲む酒は美味い。それに……ここはギルド全体が見渡せる」
男はそう言うと、ニヤリと笑ってグラスの酒を喉に流し込む。
「アスラさん、この人は……?」
「情報屋だ。ギルドや冒険者の事情に詳しいのさ」
「いかにも、俺がご紹介に預かった情報屋だ。何か知りたいことでもあるのか?」
「この街で行われるパレードについて聞きたい」
俺の言葉に、男は『ふーん』と言って腕を組んだ。
「なるほどな、お前さんの言いたいことはわかった。だが、タダってわけにはいかない」
「もちろん報酬は払う。いくらがいい?」
「いいや、俺は金で情報を売ってるわけじゃない。俺を楽しませてくれれば構わないさ、そうだな、例えば……」
情報屋の男はそう言って、ギルドの一か所を指した。
「ガハハハハ! これで30連勝だ!」
彼が指す方には、豪快に笑う筋骨隆々な冒険者の姿があった。
「奴はこの街ではそこそこ有名な冒険者さ。毎晩こうやって腕相撲大会を開いてるってわけだ」
「あいつに勝てってことか?」
「それが出来なければ聞いても意味ないさ。どうだ、諦めるか?」
「いや、安心したよ。思ったより簡単そうで」
俺は腕を回し、愉快そうな腕相撲男の前に立った。
「よかったら俺とも勝負してくれないか?」
「ああ、いいぜ。お前、強いのか?」
「いいや、つい最近までギルド最弱なんて呼ばれてたくらいだ」
俺は男の前にある机に肘をつき、腕相撲の態勢に入った。
「……てめえ、舐めてんのか? まあいい、連勝記録を増やしてやるよ」
男は少し苛立った様子で俺と腕を組み、姿勢を整える。
そして――次の瞬間、膝から崩れ落ちた。
「あ、あ、ああ……」
男は俺からゆっくりと手を離し、手の甲をテーブルに付けた。
「俺の、負けだ……」
男はすっかり青ざめ、自分の手のひらを見つめてそう呟いた。
「ど、どうした!? あいつ、なんで試合が始まる前に負けを認めたんだ……!?」
「あいつ、何者なんだ……?」
ギャラリーの冒険者たちのひそひそとした声を背に浴びながら、俺は情報屋とティナたちの方へ戻る。
「ざっとこんなもんだが、楽しんでもらえたか?」
「ああ、どうやら俺はあんたを見くびってたみたいだ」
情報屋の男は楽しそうに酒を飲み干すと、ニヤリと笑って勢いよく空いたグラスをテーブルに置いた。
「今まで何度かこのテストはやらせてもらったが、あんたほどの実力者は初めて見たぜ。知りたいなら教えてやるぜ、護衛任務のことを」
「護衛任務?」
初めて聞くその言葉に、俺は首を傾げる。
「今から一週間後、この国の国王がパレードを行う。その護衛をする冒険者を選定するためのテストが行われるのさ」
目下の目標であるクエストのクリア条件は、パレードでの国王の暗殺を止めること。
国王を守るためには、国王の近くにいるべきなのは必然だ。そして、ついにその方法を見つけた。
「教えてくれ。そのテストはいつ開始だ?」
男は再び楽しそうに笑うと、天井を指さして言い放った。
「応援してもいいよ!」「続きが読みたい!」という方は以下の方法で応援ができます!
・広告の下の☆☆☆☆☆をタップ・クリックして評価する
・ブックマークをする(しおりが使えるようになって便利です!まだの人はやってみてください!)
・お気に入りユーザー登録する
・いいねを押す(地味に結構見てます!)
応援してくださると、作者がもっと頑張ります!




