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66.新スキル<生産>!

「あはははは! すごいです、カメちゃん思ってたより速いです!」


「ウゴゴゴ!!」


 俺たちは亀の甲羅の上に乗り、リカルドさんの村へと進んでいく。

 カメちゃんはその図体からは想像できないほど素早く、馬よりもはるかに速いペースで移動している。


「リーリアさん、さっきから顔が青いですけど大丈夫ですか? もしかして……」


「こ、怖くないし!! 怖くないから今は黙ってて!!」


「まだ何も言ってないですよ……?」


 揺れる巨体の上でしばらく雑談をしていると、リカルドさんが声を上げた。


「あれが私の村です!」


 彼の指示通りにカメちゃんを進めていると、前方にのどかそうな村が見えてきた。

 高い木の柵に囲まれた小さな村だ。何の変哲もないようなこの村に運命の糸(スレッド)の息がかかっているかもしれないと思うと腹が立つ。


「こっちです」


 カメちゃんを村の外に待機させ、村の中に入ると、リカルドさんは一軒の家に案内してくれた。

 建物の中は決して広くなく、リカルドさんの生活ぶりが伺える。しかし、そんなことも気にならないほどに俺たちの視線は一点に注がれた。


「彼女が――私の娘が、眠り病にかかっているのです」


 部屋の片隅にあるベッドで眠っているのは、一人の幼い少女だった。髪色がリカルドさんと同じ茶色であることから、間違いなく彼の娘だろう。


「娘が眠りについたのは3か月前のことです。それまでずっと元気だったのに、ある時いきなり目を覚まさなくなって……彼女は、私にとっての希望なんです」


 リカルドさんは力強く俺の肩を掴むと、必死な表情で涙を流した。


「お願いします、アスラさん! 娘がまた笑ってくれれば、私はもう何もいりません!」


 俺はリカルドさんに深く頷くと、娘さんの手のひらを握る。


「……どうですか、アスラさん?」


 俺は懐から小瓶を取り出すと、彼女の口に入れ、嚥下させた。

 その時、リカルドさんの息が漏れる。


「……パパ?」


 娘が目を覚ましたのだ。目をゆっくりと開け、父親を見る娘。リカルドさんは涙をはらはらとこぼして頷いた。


 やはり、眠り病の正体はワイズマと同じ毒によるもののようだ。その証拠に、彼女を回復させるには解毒薬(アンチドート)が有効だった。

 こうなると運命の糸(スレッド)のことがますます憎くなってくるが、とにかく今は病を治せることがはっきりしたことの方が重要だ。


「アスラさん、本当にありがとうございます……! あなたは恩人だ!」


「やめてください、俺は俺にやれることをやっただけです。それに……他にも患者がいるんでしょう?」


 リカルドさんは娘を抱きしめながら頷く。話を聞いている限り、数人というレベルではなさそうだ。


「しかし、だとすると困りましたね……解毒薬(アンチドート)を量産するのは大変ですから」


 ティナの言う通り、解毒薬(アンチドート)はエクスポーションを使用する上に、他の素材を集めるのもなかなか骨が折れる。

 さすがに最初に作った時よりは時間はかからないだろうが、量産しようと思えば素材を集める場所に目星を付けなければいけないという問題もある。


「お言葉ですが、薬を製造して高値で売るというのはどうでしょうか? 眠り病が直るとなれば、この村ではもちろん、王都でも需要があるはずです。私は商人なので流通に関してお手伝いが出来ると思います」


「確かに、そうすれば経済的なメリットはあるはずね。でも……」


「お金がない人が薬を買えなくなっちゃいますし、素材は自然のものを使うからいつか枯渇しちゃいますね……」


 三人は腕を組み、うーんと唸り始める。


「この村の近くで、自然が豊かな場所と言えば?」


「いくつかは思い当たりますが、仰る通り、全ての人を賄えるだけの素材を集められるような場所というと……それに、どこも強力なモンスターが生息しているので、私のような一般人では出入りが難しく……」


「打つ手なし、ですか……」


「いや、ちょっと待ってくれ」


 しばらく聞き流していると3人が結論を出してしまったので、俺は慌ててそれを制止する。


「あるぞ。素材を枯渇させず、薬を大量に作る方法が」


 俺はそう言うと、ウィンドウを開く。表示したのはスキル一覧だ。


――


<生産2>……所持しているアイテムをスロットに割り当て、生産する。生産時間はアイテムのレアリティにより変動する。スロット数10。


――


「これは……新しいスキルですか!?」


 ティナとリーリアは同じようにウィンドウを覗き込む。リカルドさんは何のことやらという様子だ。

 彼女の言う通り、これはグレートボスとの決闘で手に入れた新しいスキルだ。

 

「この<生産2>を使うと、指定したアイテムを増やすことが出来るんだ」


 俺は試しに、リカルドさんに断って彼のリュックサックの中にある素材を漁らせてもらう。

 様々なアイテムをかき集めてきたという彼の話通り、そこには解毒薬(アンチドート)を作るための素材の半分ほどが集まっていた。


「まずは、これをスロットに割り当てる」


 スロット1には白銀草、スロット2には仙人花……というように、アイテムを順に指定していくと、ウィンドウに表示された空白の四角の中にアイテムの絵が追加されていく。

 すると、四角の下に数字がカウントダウン形式で刻まれていく。それらの数字はアイテムが生産されるまでの残り時間を意味をしており、アイテムによってバラバラだ。


 おそらく、スキルの情報に書かれていた『レアリティ』というのが関係しているんだろう。名前から察するに、貴重なアイテムほど生産にかかる時間が長いのだと思う。


「……よし。どうやらこの能力を使えば、1日30本くらいは解毒薬(アンチドート)を量産できるみたいです。後は残った素材を集めればいいでしょう」


「じゃあ、薬は全ての人に行き届くのね!?」


「やった! さすがアスラさんです!」


 二人の歓声が部屋の中に響く。すると、リカルドさんはその場で座り込んでしまった。


「アスラさん……あなたはとてつもない人だ。この村に着いて数分で娘を助けるだけではなく、この国を救うほどの偉業を成し遂げるなんて!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 素材を入れなくても解毒剤をそのままスロットに放り込めば良いのでは・・・? 条件は「アイテム」だけなら素材しか複製できないわけではないんでしょうし。
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