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65.商人リカルド

「俺があの甲羅を叩き割るから、二人はそのタイミングで攻撃を叩きこんでくれ!」


「「了解!」」


 男と入れ違いになってジャイアントタートルに迫っていく俺。剣を引き抜き、思い切り振り下ろす。

 ガキィン、という音が鳴り響き、手のひらに振動が伝わってくる。甲羅を確認すると、小さなヒビが確認できた。


「一気に行くぞ……<疾風怒涛天>!!」


 身体能力を上げると、その小さなヒビに向けて連撃を打ち込む。


 <疾風怒涛天>……かなり強い能力だ。これを使うと、普段の生活がまるで鎖で縛られているのではないかと錯覚するほどだ。

 だけど、まだこの能力を使いこなせていないような気がする。厚い雲が空を覆って日光が遮られているような、そんな感覚だ。


「ウギャオオオオオオオオオオオ!!」


 その時、甲羅が粉々に砕けてジャイアントタートルが声を上げた。

 どうやら考え事をしている間に何秒か時間が経っていたようだ。これで俺はお役御免。


「ゴオオオオオオオオオオ!!」


 ジャイアントタートルが大きく口を開けると、そこから真っ赤な炎の弾が吹き出した。隕石を横流しにしたようなその炎は、ティナの方へと向かって行く。


「はっ!」


 しかし、得意の予測で着弾する場所を予見したティナは、ひらりと攻撃を躱す。


「リーリアさん、今です!」


「<炎の射撃(ファイアアロー)>!」


 左腕を添え、右腕に力を込めたリーリア。右の手のひらから、真っ赤な炎で出来た矢が放たれた。

 炎の矢はジャイアントタートルの顔に当たると激しく弾け、音を鳴らす。


「ウギャオオオオオオオオオオオ!!」


 ジャイアントタートルは激しく叫ぶと、気を失ってその場にぐったりと倒れ込んだ。


「……死んでないよな?」


「私は全力で撃ったけど、さすがにこのレベルのモンスターなら死なないでしょ。っていうか、Aランクモンスターをあっさりやれちゃうあんたが異常」


「甲羅もかなりボロボロですね……ハイポーションを飲ませて元気にしてあげましょう!」


 気絶しているジャイアントタートルの様子を見て、こちらに歩み寄ってくる影がある。さっき逃げていた男だ。


「助けていただきありがとうございました! あなたがたは……冒険者でしょうか?」


「はい。たまたま通りがかったところにモンスターがいたので倒しました。怪我はありませんでしたか?」


「おかげさまでこの通りです。それにしても……あの巨大なモンスターを倒すなんて、相当腕の立つ方なのですね」


 男は律儀に何度もお礼をした後、ジャイアントタートルから逃げるときに捨てたと見られる大きなリュックサックを拾いに行った。

 かなり大きいリュックだ。大柄な男の背中を押しつぶしてしまいそうなほどパンパンに膨れ上がっているあたり、一人分の荷物とはとても思えない。


「ずいぶん大荷物ですね。もしかして、商人の方ですか?」


「ええ、その通りです。小さな村で商人をしている、リカルドと申します」


 男改めリカルドさんに、自己紹介をすると、俺たちはジャイアントタートルを回復させながら世間話をすることになった。

 リカルドさんは商人というだけあって人柄がよく、丁寧にかつ素早く返答をしてくれた。


 御者に言って馬車を帰し、ひと段落ついたところで、ようやくリカルドさんの置かれていた状況が分かってくる。


「それで、リカルドさんは商品を仕入れた帰りにジャイアントタートルに襲われた……というわけですか」


「そうなんです。アスラさんたちに助けられなければ、このアイテムが……村を救うカギになりうる素材が、無駄になってしまうところでした」


「村を救う?」


 リカルドさんのその言葉に、俺は尋ねた。途端、彼の表情が真剣になる。


「半年前から流行している、『眠り病』を解決する薬を作るための素材です」


「眠り病ってなんですか? 聞いたことがないんですが……」


「健康な人間が、ある日突然昏睡して、目を覚まさなくなる病です。王都を中心に起こっていたのですが、私が暮らしている村にも同じような症状の村人が現れ始めて……」


 そう話すリカルドさんの拳と目には、自然と力がこもっていた。

 彼から感じる悔しさを前に、俺は別のことを考えていた。リーリアの方に目をやると、彼女も同じことを考えているようで、目があった。


 きっとそうだ。ワイズマがロゼリアさんを昏睡させたように、毒を使っている。

 ロゼリアさんの場合はワイズマが自ら触れることで相手を昏睡させていたが……もし、ワイズマの毒が液体などで抽出できるものだとしたら。


 可能性は充分にある。ワイズマのことを思い出すと未だに奴の笑い声が頭に響いて嫌な気持ちになる。

 だが、これはむしろラッキーでもある。原因が分かれば対策が打てるからだ。


「リカルドさん。俺たちを村に連れて行ってくれませんか?」


「ええ、三人は命の恩人ですから、もちろん我が家でおもてなしをさせてください。もっとも、大した食事も出せないかもしれませんが……」


「いいえ、違います。俺ならその眠り病を解決できるかもしれないんです!」


「ウゴオオオオオオオオオオ!!」


 リカルドさんが俺の返答にきょとんとしたその時、ジャイアントタートルが大声で嘶いた。


「アスラさん! カメちゃんが元気になりましたよ! クエストの報酬の内容が正しければ、この子に乗って移動できるはずです!」


 ジャイアントタートルはさっきまでの毒気がさっぱり抜けたように、大きな頭をティナに近づけて甘えている。


「アスラさん、あなたは一体……」


「行きましょう。このカメに乗ればすぐです」


 俺たちは、元気を取り戻したジャイアントタートル――改めカメちゃんの上に乗り、リカルドさんの村に向けて出発した。

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