64.新たな目的地
嵐のような決闘から4日が経った。いつものようにギルドへ行くと、冒険者たちが一斉にこっちを見る。
「見ろよ! アスラさんだ!」
「あの人、最近になって一気に成り上がったよな……俺たちも頑張ろうぜ」
周囲の冒険者たちがコソコソと話しているのが聞こえる。以前は陰口を叩かれていたが、今は賞賛がほとんどだ。
「すまん、待ったか?」
「遅ーい。遅刻なんだけどー」
「リーリアさん、いじわるですよ! 私たちもちょうど来たところじゃないですか!」
先に席に着いていたのはリーリアとティナ。俺も同じテーブルを囲んで椅子に腰かける。
「で、今日は何のクエストなの? 言っておくけど、もうネコ探しは懲り懲りだから」
「リーリアさんはネコに嫌われてますからね……でも、私は宝探しみたいで好きですよ!」
「いや、今日はクエストはやらない。この街のクエストもだいぶ落ち着いてきたし、そろそろ試したいことがあるんだ」
そう言って、俺はウィンドウを開くと、二人にある箇所を見せる。
――
<隠しクエスト>……半径100キロメートル以内の範囲で起こる事件を予測し、クエストにする。所持しているスキルを表示する。
――
俺が示したのは、スキル一覧の<隠しクエスト>の場所だ。
「ここ、『半径100キロメートル以内の範囲で』って書いてあるんだ」
<ランクアップ>のおかげでスキル一覧が解放され、今までは曖昧だった<隠しクエスト>の能力が判明した。
この一文を読んで、俺には気になることがあった。
「この街に滞在してると、半径100キロ以内――この街や、付近にある村のクエストしか表示されないんだ」
「それは確かに……でも、それはそれで問題ないんじゃないですか?」
「そうなんだけど……俺は運命の糸の情報を見つけたいんだ」
ワイズマとの戦いからはや5日ほど。毎日隠しクエストを確認しているが、手掛かりとなるようなものは出てこない。
ワイズマのように上手く潜伏をしている構成員がいる可能性は0ではないが……正直なところ、望み薄だ。
「で、どうするの? クエストを探して宛のない旅にでも行くって話?」
「いや、宛はある。ワイズマが最期に言ってたんだ」
『いいかアスラァ!! この国は既にがんじがらめだ! その意味に気づくのはいつになるかなぁ!?』
この国は既にがんじがらめ――その意味は定かではない。だが、奴がその言葉を選んだということは、何かしらの意味があるということだ。
「つまり、アスラは王都に行ってみたいわけね」
「はぁ~、王都! 私憧れだったんです!」
王都はここから100キロメートル圏内にはない。行こうと思えば2日はかかる。
「王都に行きたいとまでは言わない。だが、王都が範囲に入る場所までは行ってみたいんだ」
俺が頭を下げると、二人は顔を見合わせた。
「はあ、何考えてんだか。もしそれで手がかり無しだったら意味ないんだからね?」
「じゃあ、リーリアさんは行かないってことですか? ということは、私とアスラさんの二人で旅ですね!」
「い、行くに決まってるじゃん! 仕方なくだけど!」
「ええ~? 本当は一番行きたそうに見え……はわわわわわわ!」
リーリアは顔を真っ赤にし、ティナの頬をぷにぷにといじり始めた。
これは……二人ともついて来てくれるという意味で捉えていいんだろうか?
「じゃあ、出発は明日だ。王都はサンバルテから130キロほど離れてるから、30キロくらい進んだら<隠しクエスト>を確認して、怪しいクエストがないか探る」
「長距離移動ですね! 私、村とこの街以外には行ったことがないので楽しみです!」
そういえば、俺も王都に行くのは初めてだ。やはり人が多いんだろうか。
何にせよ、二人に了承してもらえたことだし、明日に向けて準備をしよう。
*
翌日。俺たちは馬車に乗り、王都に向けて出発をした。
澄み渡る青空。どこまでも広がる草原。その果てしなさは、見ているだけであくびがでてしまいそうなほどだ。
「ここから一日、馬車に乗りっぱなしね……」
「何か時間を潰せればいいんですけど……あ、しりとりでもしましょうか?」
「いや、その必要はないぞ」
退屈を持て余そうとしている二人の前で、俺は馬車の進行方向を指した。
「え……あれって!」
俺が示したものを見て、二人は大きく口を開ける。50メートルほど先。地平線の辺りに小ぶりな山がある。
……いや、正確には山のように見えるモンスターだ。その圧倒的なスケールに、二人は驚きを隠せずにいる。
モンスターは四足歩行の、亀のような見た目をしている。しかし、体高は二メートルに迫るほど
「だ、誰か助けてくれえええええ!」
そして、そのモンスターから逃げているのは、一人の中年の男。涙を流しながら、必死になって走っている。
――
『逃走幇助』 ★★
【概要】
サンバルテ北東の草原エリアに出現したジャイアントタートルから逃げる男を助ければ達成。
【報酬】
・経験値20
・ジャイアントタートル
――
さっきクエスト一覧を見つけたら、ちょうど面白そうなのを見つけたところだ。
「行くぞ、ティナ! リーリア!」
俺たちは馬車から降りると、モンスターに向かって走り出す。
それに、普通に馬車で行くよりあいつに乗った方が到着は早そうだ!




