63.決闘、終幕!
「アスラさん……!」
ティナが心配そうな目でこちらを見つめる。俺はそれに微笑み返した。
「大丈夫だ。こいつらを殺すことはない。誰か、ロープを持ってきてくれ!」
「わ、わかった!」
一人の冒険者が返事をし、街の方へと走り出す。
さて……俺が今やるべきはこっちだな。
俺は橋を渡り、這いつくばって泣いている男の前に立った。
「アスラさん……覚悟は出来てます。好きにしてください」
男は土下座の姿勢のまま俺の目を見つめる。今から俺が顔面を蹴りつけたとしても平然とそれを受け止めてしまいそうなほどの覚悟だ。
「じゃあ、これを受け取れ」
「これって……!」
俺は男の顔の前に、ハイポーションの小瓶を置いた。決闘の前にロンバルドから受け取ったものだ。
「これを飲めば、その傷の痛みも少しは和らぐはずだ。とりあえず家には帰れるだろ?」
「なんでですか! なんで俺を罰してくれないんですか!」
「なんだ、殴られるのが好きなのか?」
「違います! 俺は我が身可愛さでアスラさんの情報を売ったんです! 制裁を受けるのは当たり前じゃないですか!」
男は俺の足に縋る。しかし、当然だが俺は蹴りもしなければ突き返すつもりもない。
「確かに、冒険者の情報を他人に漏らすのはタブーだ。ましてやスキルの情報は俺が言ったわけじゃなくて、他の冒険者から探ったものだ。そうだろ?」
「そうです! だから俺は罰されてしかるべきじゃないですか!」
「だけど、家族を人質に取られたなら話は別だ。むしろ、話さずに大切な人を傷つけた方が問題だろ」
ああもあっさりとやられたグレートボスだが、街では実力は随一だ。暴力をちらつかせられれば、誰でも逆らうことなんてできないだろう。
それは、過去の俺も同じだった。
それに、スキルの情報は古くなっているだろうし、奴らの口から具体的なスキル名が出てこなかったことから、隠しクエストのことまではバレていないのだろう。
ならば、全く問題ない。家族に危害が及ばなくてよかった。
「うううう……アスラさん……俺は、何も出来なくて、迷惑かけて……」
「泣くな。大したことじゃない。それより、早くハイポーションを飲んでくれ、見てるこっちが痛くなってくる……」
男と話を付け終えると、冒険者たちのざわめきが耳に入ってくる。
「スキルの情報をバラされたのもお咎めなしって……どんだけ器大きいんだよ!?」
「しかも、自分に危害を加えた相手にハイポーションを渡すって……滅茶苦茶だ!」
男が泣きじゃくりながらハイポーションを飲むのを確認して、俺はシャロンの方を見る。
「なあ、仮に生きたままグレートボスを街に返したらどうなる?」
「私が現時点で確認している罪はアスラへの殺人未遂。それに加えて、過去の暴力事件も加味すると……相当長い期間、牢獄に入れられることは間違いないだろう」
それなら、男の家族に被害が行く可能性もかなり低いだろう。
「しかし、いいのか? もしグレートボスが出所した後、恨みを持つとしたらアスラだぞ?」
「いいさ。他の人がこれ以上傷つくくらいなら、俺に矛先が向いた方がいい」
それに――もし襲われても俺なら勝てる。
さて……そろそろ決闘を終わらせよう。
俺は懐からパンパンに膨れた巾着袋を取り出し、シャロンに差し出した。
「モンスターから採取した部位だ。確か、27匹分だったか……それくらいはあるはずだ。確認するか?」
「いや、その必要はない。アスラの実力は、この場にいる全員が認めているからな」
辺りを見ると、冒険者たちが俺のことを一心に見ている。
今までの、針で体をつつかれているような冷たい視線ではない。なんだか温かくなるような、そんな優しい目だ。
「それでは……様々なトラブルがあったが、決闘の結果を宣言する!」
シャロンが俺の右腕を掴み、高く掲げた。
それと同時に、割れんばかりの拍手と歓声が上がる。
「おめでとうございます、アスラさん! これで晴れてSランクですね!」
「まあ、私は絶対に大丈夫って信じてたけど?」
「いやいや、リーリアさんはずっと心配そうにアスラさんを見てたじゃないですか!」
「い、言うなっ!」
リーリアとティナが笑顔でじゃれ合う。
「うわああああああああ!! アスラさん、アスラさん!」
と思いきや、俺の胸に飛び込んできたのは、ハイポーションを飲んで回復した男だった。
「俺、一生アスラさんに付いていきます! なんでも命令してください!」
「落ち着け! おい、服で涙を拭くな!」
傷だらけだった男が、なぜか過去の自分と重なる。
弱くて、誰からも冷たくあしらわれて、毎日涙を流している時期があった。
ティナに泣きついたときもそうだ。自分の弱さ。周囲に信じてもらえない悔しさ。様々な感情が入り混じって、涙が流れた。
今――俺は名実ともにSランクになった。あの頃とは違う。仲間も増えて、認めてくれる人も増えた。
風が吹く。心地よいその風は、俺の過去の毒気を抜きさってくれたように感じられた。
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