57.進化したスキル
「ギイエエエエエエエ!!」
悲鳴によく似た声が上がる。声を発しているのは体が燃え盛っている巨大トカゲだ。
あいつの体は――どうなっているんだろうな。なぜ燃えているのか見当もつかない。
「ふっ!」
すれ違いざまに一撃入れると、トカゲは一瞬にして絶命した。
これで26……いや、27匹目か。
モンスター狩りは退屈を極めていた。いよいよトカゲの体の炎がなぜ燃えているのかを考え始める始末だ。
30人であそこから渡ってくるとなると、かなり時間を要するだろう。まだしばらくかかるはずだが、既に周囲のモンスターはあらかた片付いてしまった。
これは……今回も完全試合か? この形式の決闘でまともな勝負をしたことがないような気がするな。
「おい! アスラ!」
ぼんやりと考え事をしながら次の獲物を探していると、大声で呼び止められた。
「……思ったより早かったんだな」
そこにいたのは、肩で息をするグレートボスの三人と、傘下パーティの男が一人。
「他の奴らはどうしたんだ?」
「……置いてきた。30人で渡れる足場を作るのには時間がかかりすぎる。俺たちが先にここに来たんだ」
「そうか。じゃあもう帰っていいぞ。この辺りのモンスターは全部狩り尽くした」
俺が挑発すると、ロンバルドが剣の切っ先をこちらに向けてきた。
「おいおい、何のつもりだ? 俺に攻撃したら反則だぞ?」
「……反則だろうが関係ねえ。俺はお前さえ殺せればいいんだからな」
いよいよ隠すつもりもなしか。むしろ潔い。
4人は武器を構えると、俺に敵意を向けてくる。
「今、残りの奴らやギルマスはこっちに来ることが出来ない。それに加えて、これだ」
刹那、俺たちの周囲の景色が変わり、真っ黒な闇に包まれた。
「<ダーク・スフィア>。この球体の中にいる者は外から知覚されない」
これはミョルガのスキルか。3年前はなかった、新しい能力だ。
「これで、お前をぶっ殺す準備は出来た。俺様たちの覇道を邪魔したことをあの世で悔いろ」
「……なんでそんなに自信たっぷりなんだ?」
「当たり前だろ。お前のスキルは4つ。俺たちも4つ。スキルの数は同じだ。加えて、こっちの方が人数が多い。負ける道理なんてねえんだよ!」
……何を言ってるんだ、こいつは?
「よそ見してんじゃねえよ!」
その時、ボーアンが棍棒を振り下ろし、衝撃を飛ばしてきた。
迫り来る一撃。それを見て、俺はため息を吐いた。
本当に――こいつらはどれだけ俺を失望させるつもりなんだ?
「――ッ!?」
「お前、今何をした!?」
刹那、ロンバルドたちが声を上げる。その原因は、俺が一歩も動かずに衝撃を無効化したからだ。
「お前たちはいくつも間違いを犯している。俺が持っているスキルは4つじゃない。6つだ」
「な、なんだって!?」
「それに、一人がスキルを4つ持っているのと4人で一つずつ持っているのが同じことなわけないだろう」
どこで聞いたのかはわからないが、情報がかなり古い。おまけに計算まで間違っているというお粗末ぶりだ。
スキルは一人が複数持っている方が強いに決まっている。スキルを組み合わせるとシナジーが生まれることがあるからだ。
「馬鹿な……そうか、あいつ適当なことを……」
「今何か言ったか?」
「何も言ってねえよ雑魚!」
ミョルガがブツブツと呟いたが、何事もなかったように反論してくる。
「だが、今のはなんだ!? お前の能力は防御力をあげるものって聞いたぞ!?」
「ずいぶんよく下調べしたんだな。だが、それももう古い情報だ」
「ふざけるな! どこまで俺たちを馬鹿にしやがる!? 不変のスキルの情報が古くなるわけねえだろうが!」
それがなるんだよ。俺の場合はな。
スキルは進化する。さっき言っただろ、シナジーって。
1つのスキルともう1つのスキルが組み合わさることで、3や4を超えるような効果をもたらすことがある。
俺のスキルは、進化した!




