55.AランクとSランク【SIDE:ティナ】
「シャロンさん、アスラさんは本当に大丈夫なんでしょうか……?」
決闘開始直前。心配になった私はシャロンさんに尋ねました。
「大丈夫、というのは?」
「だって、30対1ですよ!? アスラさんは平気そうでしたけど……やっぱり危ないんじゃないですか!?」
「いや? アスラが平気だと言ったなら問題ないだろう」
「もう! なんでアスラさんもシャロンさんも、そんなに根拠もなく余裕そうなんですかっ!」
「根拠ならあるぞ?」
シャロンさんの意外な返答に、私は思わず驚きました。
「昨日話したと思うが――A~Fランクと違って、Sランクは特例的な要素がある。それはなぜだと思う?」
「うーん……Sランクに特別な意味があるから、とかですか?」
「よくわかったな、その通りだ。SランクとAランクには大きな隔たりがある。それが何かと言えば……Sランクになるような冒険者は、Aランクに収まらない『圧倒的なセンス』が必要とされる」
圧倒的なセンス……その言葉で一番に連想されるのはアスラさんでした。
アスラさんは<隠しクエスト>で他の冒険者とは比較できないほど強くなっています。それはすなわち、圧倒的なセンスと言えるでしょう。
「……少し前までいたカゲロウを例に取ろうか。彼らもまた、圧倒的なセンスを持った冒険者だった。正式にはシャドーウルフというパーティ名だったがね」
「え!? カゲロウって正式名称じゃないんですか!?」
「そうだ。ある一人の仙人の下で師事していた3人は、その実力から1年でAランクまで昇り、ついにはSランクの称号を恣にした。カゲロウというのは、影狼を誰かがもじったことに由来するあだ名だ。だが、陽炎という意味でもそれは正しかった」
一体どんな人なのか……シャロンさんの口ぶりから期待が高まり、私は唾を飲み込みました。
「当たらなかったんだよ、攻撃が。モンスターにどれだけ襲われても、冒険者と争いになっても……全てを『陽炎』のように躱し、無傷で帰ってきてしまう」
「そ、そんなことってありえるんですか!?」
「普通なら絶対にありえない。だが、彼らはやってみせた。確かに彼らの実力も下支えしているだろうが、それを越えた圧倒的なセンス。これがSランクへの必須条件だ」
そんなすごい人と、アスラさんが同じ等級ってことだったんですね……シャロンさんがアスラさんに全幅の信頼を寄せている理由がわかったような気がします。
「グレートボスも、何度もカゲロウに決闘を挑んでいる。合計で……13回だったか?」
「それで、結果はどうだったんですか?」
「……おっと、そろそろ始めないといけない。話は一度やめよう」
シャロンさんは一歩前に出て、手を挙げました。
「それでは、決闘を始める!」
緊張の一瞬。その中で、私はなんだか言いようのない違和感を覚えました。
「よーい、始めっ!」
その時、敵チームのボーアンさんが剣を思い切り振り上げました。
「おっとっと、転んじまったあ!!」
次の瞬間、叩きつけられた刃は洞窟の入口へつながる道を破壊しました。
「アスラさん!!」
「大丈夫だティナ。アスラを信じよう」
シャロンさんが私の肩を優しく叩きます。彼女の顔を見るために視線を一瞬外し、再びアスラさんを見たとき。
「――えっ!?」
私は思わず声を上げました。
だって――アスラさんが崩れている道の横を走っているんですから。
まるで崖のようになった道は、側面が壁のようになっています。アスラさんは地面と平行な角度で立ち、そこを走っているんです。
「なんだありゃ!?」
「壁を走ってるぞ!?」
「ありえねえ! なんで崩れてる足場であんなスピードで動けるんだよ!?」
30人の驚きの声が一斉に上がる。その想像を絶するような行動を前にして、恐れおののいているようでした。
「そうか、<礫岩怒涛>……!!」
あれは、アスラさんの<疾風怒涛>と土属性の魔法を組み合わせた技。足場にある道を補強しながら高速で移動することで、壁を走るという人間業を超えた行為が出来ているのです。
「も、もう向こう岸までたどり着くぞ……!?」
「馬鹿な! 『早く走れるスキル』とは聞いてたけど、あのレベルかよ!?」
道が完全に崩壊したその時、アスラさんは洞窟の手前の広い足場に到達し、30人の方を見やります。
……あの謀略を、完璧に乗り切ってみせた!
「そうだ、ティナ。さっきの話を続きをしよう」
シャロンさんはこっちを見て、誇らしそうに笑います。
「グレートボスとカゲロウの決闘の戦績は――カゲロウの全戦全勝だったそうだ。SランクとAランクの大きな隔たりの意味、わかったか?」
道を一瞬で破壊してしまうようなAランクの強さ。そして、それを難なく乗り越えてしまうSランクの卓越した力。
今、私は一歩も近づくことが出来ないような領域の戦いを見ている――!




