54.決闘当日
翌日。決闘当日を迎えた俺たちは、モスラヴィル火山にやってきた。
向かい合うのは俺、ティナ、リーリアの3人とグレートボスたち30人の冒険者たち。矢面に立つロンバルドは腕を組んで自信たっぷりだ。
そして、両者の間にはシャロンが立つ。彼女は手を前に出すと、大声で宣言をした。
「これより、アスラとグレートボス率いる合同パーティの決闘を開始する!」
向かいの30人の口角がニヤリと上がった。逆に、俺たちの視線は鋭くなる。
「ルールは通常通り、モスラヴィル火山のモンスターをより多く倒した者が勝利となるスタンダードを採用する。制限時間は30分。ただし、装備品を除いたアイテムの使用と、対戦相手への直接的な攻撃行為は禁止だ」
「ギルマス、それについて俺から一つ提案があるんだが、いいか?」
シャロンの説明を遮り、ロンバルドが挙手をする。
「ん……? ルールはスタンダードから特に変更はしていない。事前にそう伝えていたはずだが、何か異論があるのか?」
「異論というか、提案だな。昨日、俺様たちも考えたんだが、さすがにこのルールは俺たちに有利すぎる。そこで、アスラにも有利な要素を与えた方がいいと思うんだ。そこでだ」
ロンバルドはそう言うと、懐からハイポーションを取り出して俺に投げ渡してくる。
「装備品以外のアイテムの使用は禁止。ただし、アスラはそのハイポーションを一本だけ使えるというのはどうだ?」
「――負けたときの保険か? 俺はお前ら30人相手でも勝てるから決闘をすると言ったんだ。今さら余計なルールを追加される方が迷惑だ」
「おいおい、それはこっちの台詞だぜ。それじゃ俺様たちが勝っても、一方的にお前をリンチにしたみたいで勝った気がしねえ。そっちにデメリットはないんだし、こっちの名誉のためにも、そのハイポーションは受け取るべきだ」
……一方的にリンチしたみたいだと? お前は過去に俺にやったことを忘れたのか? 実際にやっただろが。
とはいえ、向こうの言い分は筋が通っている。このハイポーションを受け取らなければ、まるで俺が負けたときに保険を掛けたようになってしまう。
仕方ない。確かに奴らの言う通り、俺にデメリットはない。これは受け取るとしよう。
「――では、ルールの追加が終わったところで、両者は何を望む? まずはアスラから」
「俺の要求は最初から一つだ。俺がSランク冒険者になることに無条件で賛同してもらう」
「では、合同パーティのリーダー、ロンバルド。何を望む」
「俺様たちは、アスラが本当にSランクにふさわしい実力があると分かればそれで満足だが……もしもアスラが負けたら、こういうのはどうだ?」
ロンバルドは思ってもいないような言葉を並べると、指を立てた。
「アスラがグレートボスの一員になる、というものだ」
こいつ……どこまでも馬鹿にしやがって!!
「アスラは3年前、グレートボスの一員だった。あの時はアスラの都合で辞めるという話だったが、きっと俺様たちの力についていけなくて申し訳なくて辞めたんだろ? 元の鞘に戻してやる」
「違う……! 俺がパーティを辞めたのは、お前が俺に暴力を振るったり、過酷な労働を強いてきたりしたからだ!」
「おいおい、ギルマスの前で人聞きの悪いことを言うなよ。確かにあの時は厳しく当たってしまったが、今はそんなことない。それに、そんなに辛かったならギルドを頼ればよかっただろ」
そんなことが出来るわけがない。もしギルドに密告なんてすれば、こいつらは本気で俺を殺しに来ただろう。
こいつらは肉食獣のように群れを成し、獲物を玩具のようにいたぶった後で残酷に死肉を食らうような連中だ。
絶対に負けたくない。あの日々に逆戻りなんて死んでもごめんだ。
「……聞き受けた。それでは、決闘を開始する!」
「おっと、その前に一ついいか?」
忘れていた、とばかりにロンバルドが付け加える。
「さっき、アスラにハンデをあげるって話になっただろ? それの一環として……俺たちはここから、アスラはあそこから始めるっていうのはどうだ?」
ロンバルドはそう言うと、ある方向を示した。
奴が指しているのは、火山の洞窟に通じる岩の道の真ん中だ。
あの洞窟の中に、今回の決闘でポイントとなるモンスターがいる。橋は200メートルほどの長さがあり、ここから100メートルは離れている。
要するに、ロンバルドは100メートルぶん俺を早くスタートさせようと言っているのだ。
「……おい。何を企んでる?」
「怖いなあ、何も企んでなんかないさ。さっきも言っただろ? 俺はお前と対等な勝負がしたいんだ。こっちが要求したハンデは受けてもらわないと困る。それに、お前が場所を指定したんだから、開始位置を指定する権利は俺たちにあるはずだ」
かなり怪しいが……今の俺に、奴らの論理を否定することは出来ない。
仕方ない、言う通りにしよう。
俺は道の真ん中ほどまで進み、待機する。
道は幅が5メートルほどで、両脇は崖のようになっている。その下にはマグマ。落ちたらまず助からないだろう。
「それでは、決闘を始める!」
シャロンの声が聞こえてきた。彼女は高く手を挙げ、宣言の準備をする。
「よーい、始めっ!」
シャロンが開始の合図に腕を振り下ろした、その時だった。
「おっとっと、転んじまったあ!!」
ボーアンが突如手に持った棍棒を振り下ろし、その場に倒れ込んだ。
棍棒が地面にめり込み、地面に振動が伝わってくる。――その刹那。
「……そういうことか!」
ゴゴゴゴゴゴゴ、という地鳴りとともに、俺の足場が激しく揺れる。
揺れが大きくなるたびに、俺は奴らの考えたことがわかってくる。ハイポーションの所持を通したこと。善人面した演技。全てが奴らの計画だったんだ。
道が――崩れる!!




