表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/78

49.新たな波

 『ぷにぷに』という言葉には魅惑の響きがある。どういう理屈かはわからないが、人間は皆『ぷにぷに』の前では無力な葦に過ぎない。

 そして、俺の前にその『ぷにぷに』があった。


「リ、リーリア()ん……私のほっぺで(らそ)ぶのはやめてく()さいぃ……」


「だって、ティナのほっぺが柔らかいのが悪いんだもん。あー、この感覚止められない……」


「だからって私のほっぺじゃなくていいじゃないですかっ! 手隙になった瞬間触り始めるんですから!」


「…………」


「もはや無言で遊ばないでください!?」


 ぷにぷにと揺れるティナのほっぺ。リスの頬袋のような柔らかさと、白くすべすべな肌。

 ……触ってみたい。あのリーリアがハマる感覚ってどんななんだ?


「……アスラ、ティナのこと見すぎ。そんなにほっぺぷにぷにが羨ましいの?」


「ちちちちち違うが!? 触ってみたいとか思ってないが!?」


「アスラって本当、わかりやすいよね」


「それはリーリアさんが言っちゃダメだと思います……」


 俺は咳ばらいをすると、強引に真面目な空気を取り戻した。


「そんなことより……ギルドに行くぞ」


 パーティーから一夜。俺たちがまず向かうべきはギルドだ。

 今朝確認したところ、ギルドに行けば、新しい隠しクエストが受注できるようなのだ。


 リーリアの家からギルドへ向かうと、そこには相変わらず瓦礫の山と化した元ギルドの建物があった。

 そこでは数人の作業員たちが瓦礫の撤去をしており、大変そうだ。


「……お、いた!」


「ん……? アスラか。おはよう。昨日の疲れは取れたか?」


 そこで待っていたのは、ギルドマスターのシャロン。昨日あれだけ酒を飲んでいたのに、今は真面目な顔をして作業員たちに指示をしている。


「おかげさまでな。そういうシャロンも朝から仕事に精が出るじゃないか」


「こう見えて酒には強いのでな。それに、ギルド再建のために休む暇はない」


 シャロンは相変わらず叩いても埃一つ出てこないような完璧な仕事ぶりだ。

 俺は、そんな彼女に会いに来たのだ。


「シャロン、昨日言ったことについて聞きたい。……俺をSランク冒険者にするっていうのは、本当か?」


「ああ、本当だ。あれは決して冗談で言ったわけじゃない」


 やはり……酔って言っていたわけじゃなかったのか。

 だが、Fランク冒険者がいきなりSランク冒険者に昇格するなんて話は前代未聞だ。


「あのー、つかぬ事をお伺いするんですが、Sランク冒険者ってどれくらいすごいんですか?」


「そうだな、ティナは冒険者になりたてだから知らないだろう。私から説明させてくれ」


 確かに、今のティナにはその異例さがいまいち伝わっていないだろう。


「冒険者のランクがS~Fに分かれているのは知っているな?」


「はい。私とアスラさんはFランクで、リーリアさんがDっていうのは聞きました」


「そうだ。ランクを上げるには二つの条件を満たす必要がある。一つは直近のクエストで好成績を残すこと。もう一つは昇格試験を受けることだ」


「それも最初の講習で聞いた気がします! 昇格試験は、指定されたクエストを攻略したり、ギルド側が呼んだ試験官に力を示したりするんですよね。……でも、あれ?」


 ティナが首を傾げ始めた。

 彼女の疑問はこうだろう。俺がFランクからSランクに昇格するためには、二つの条件を満たしていないと。


「だが、特例がある。それがSランクだ。Sランクが特例と呼ばれる背景には、冒険者は基本的に、A~Eに分布するようになっているからだ」


「……? ごめんなさい、意味がよくわからなくて」


「つまり、Sランク冒険者はAランクに収まらないほど強いとギルドが判断した者にしかなることが出来ないんだ。だから特例的に、どのランクからでもSランクになることは出来る」


 これがSランクのトリッキーなところだ。結果から言えば、ルール上は俺をSランクにすることは出来る。


「じゃあ、アスラさんはすっごく強いってギルドに認められたんですね!? やったじゃないですか!」


「だけど、それだけ大きな変化があれば、反動もある」


「よくわかっているな、隠しクエストに何か出たのか?」


 ……ああ、そうだ。俺がここに来たのは、何も俺が本当にSランクになったかどうかを聞きに来ただけじゃない。


 それよりもっと先の――反動(・・)の話をしに来たのだ。


「……アスラの言う通りだ。昨晩の宣言は、パーティーに参加していた冒険者以外にも波及した。そして今、二つの勢力がギルドに生まれた」


「よお、アスラ。久しぶりだな」


 その時、俺の後ろで男の声がした。


「お前は――」


 そこに現れた三人の男に、俺は覚えがあった。――いや、忘れるはずがなかった。


「ずいぶん偉くなったらしいじゃねえか、ギルド最弱のくせによ、なあ?」


 Aランク冒険者パーティ『グレートボス』。俺が最初に在籍していたパーティのメンバーだ。


 ギルドに生まれた二つの勢力。一つは俺のSランク昇格を認めてくれる者たち。

 そしてもう一つ……俺の昇格をよく思わない連中が、ここに現れた!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ