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48.夜のパーティ

 夜のギルド――俺にはいい思い出の無いその場所は、いつになく明るかった。

 瓦礫の山に建てられた無数のロウソクが、地面を照らしているからだ。


「諸君。今回の一件では、各々よく頑張ってくれた!」


 冒険者たちが集まるその場所で、矢面に立って喋るのはシャロンだ。


「皆の協力でこの街は救われた! ギルドは壊れてしまった。そして、残念なことにSランクパーティ『カゲロウ』をはじめとした犠牲者もいる。――しかし、我々は勝利した。これから、彼らの分も生きて行こうではないか!」


「「「おおーっ!」」」


 冒険者たちの威勢のいい返事を聞き、シャロンは微笑む。


「……さて、なにはともあれ危機は去った。今日は大いに楽しもう!」


 シャロンは他の職員から渡されたグラスを掲げ、高らかに宣言する。


「乾杯!」


「「「乾杯っ!!」」」


 冒険者たちはその号令と共に、手に取った酒を飲み始める。

 簡易的に用意されたテーブルの上には、食事が並べられている。あの中には、ティナが作った料理もある。


「なんか、すごいところですね……」


「そういえば、ティナは冒険者のパーティに参加するのは初めてか」


 派手に飲み食いをする冒険者を見て、苦笑いを浮かべるティナ。


「冒険者たちは、命を懸けて仕事をしてる。だから、騒ぐときはこうやって思い切り騒ぐんだ。いつ死んでもいいようにな」


「そうなんですね……確かに、死を迎える瞬間に後悔なんてしたくないですもんね」


 その時、突然ティナが俺の手を握ってきた。


「ごめんなさい、いきなり。クモになったミサさんと戦ったの、私なんです。シャロンさんを守るに立ち向かったんですが、すごく怖くて……」


 ティナの手が小刻みに震える。そういえば、ティナが強い敵と正面から戦うのは初めてか。

 おまけに元々、ミサは人間だ。人を殺したことへの罪悪感もあるだろう。


「アスラさんは、強いモンスターに襲われて死んでしまうとき、私が隣にいたら……後悔しませんか?」


「ああ、しないよ」


「もっと強い人が味方だったらって、思いませんか!?」


「思わないよ。確かにティナは他の冒険者と比べて実力はまだまだかもしれないが、それ以上に、俺はティナのことを心から信頼できるからな」


 仲間に必要なのは、完璧な強さでも生まれついての才能でもない。それ以上に、一緒に冒険したいと思えるかが大事だ。

 ティナはいい奴だ。だから一緒にいたいと思えるし、本当の仲間だと思っている。


「俺は絶対に後悔しない自信がある。それに、死ぬことを考えて冒険者になるっていうのもおかしな話だ。ずっと冒険者になりたかったんだろ?」


「……はい! 私、これからもっと頑張って、アスラさんの仲間としてふさわしい冒険者になります!」


 ティナは元気よく返事をすると、食事のテーブルへ走り出した。


「私、他の皆さんと一緒に楽しんできます! 本物の冒険者のパーティーを知りたいので!」


「それはいいけど、酒は飲むなよ……?」


 去っていくティナの背中を見て、俺はようやく一息ついた。


「アスラは飲まないのか?」


 少し落ち着いていると、今度はシャロンが俺の隣にやってきた。


「シャロンか……俺はいい。酒を飲むと次の日体が動かない気がするんだ」


「それは少し前まで一日中クエスト漬けだったからだろう? まあ、君がそういうなら仕方ない……私だけいただくとしよう」


 シャロンは手に持ったグラスから、酒を一口飲む。他の冒険者と同じものなのに、シャロンが飲むとなんだか高級そうに見える。

 顔を赤らめ、こちらを見るシャロン。瞳にロウソクの光が反射して、輝いているようだ。


「どうした? 私の顔はそんなに赤くなっているか?」


「いや、そんなことは……」


「ふふ。どうしたアスラ。もっとこっちを見たらどうだ?」


「やめろやめろ! それより他の冒険者のところに行ったらどうだ!」


「そうはいかないな。私はアスラに話があって来たんだ」


 シャロンはそう言うと、真面目な顔になってまたグラスの酒を一口飲む。


「……運命の糸(スレッド)のことか」


「察しがいいな。今回の件はティナとリーリアから聞いているからだいたい把握している。このギルドが壊れた原因も、ワイズマという男にあるとな。そこで、アスラに聞きたいんだが」


「俺は運命の糸(スレッド)を追う」


 必死に尻尾を追っているシャロンたちが見つけることが出来ない組織だ。これから先、見つかる可能性は低いだろう。

 隠しクエストを使って事件を追える俺が最も奴らを倒せる可能性が高い。


 ――何より、奴らの技術は、人間の道徳の範疇を超えている。一刻も早く止めたい。


「いいのか? 奴らの強さは今回の一件でわかっただろう。深追いしないというなら、それに見合った対応が取れる」


「いや、俺は戦う。隠しクエストは俺にしかできないことだ。俺にしかできないなら、その現実から目を逸らしたくない」


「……そうか、わかった。だったら私も腹をくくるとしよう」


 シャロンは酒をぐいっと飲み干すと、立ち上がって歩き出してしまった。

 ……なんだか嫌な予感がするのは俺だけだろうか?


「皆、聞いてくれ!」


 シャロンの言葉に反応し、騒いでいた冒険者たちが黙って彼女の方を見る。


「今回、この街を救うのに、ここにいるアスラは大きく貢献してくれた! そして他にも、15層のミノタウロスを単独討伐したという話も聞いている!」


「ミノタウロスを!? すげえ……」


「そこでだ! 今回戦死したSランク冒険者に代わって――アスラをこの街唯一のSランク冒険者に昇格させることにした!!」


 ――え?


 ギルド一帯が静まり返る。まるで食べ物を喉に詰まらせたような顔をした冒険者たち。


「「「えええええええええええ~~!?」」」


 その声は、街中に響き渡ったという。

本話をもちまして、『隠しクエスト』1章完結です!


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[一言] 1章完!お疲れ様でしたー! いいじ先生!もう一つ!応援方法があるのを忘れてますよー!…レビューです!…気に入ってもらえるとありがたいのですが… 続きを期待して待ってますよー!では!
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