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46.力を合わせて

「来てくれたのか……シャロン!」


 シャロンはこちら向けてサムズアップをして笑った。

 彼女の背後には――ギルドに所属している冒険者に街の人が結集していた!


「ギルマス! 中に残ってた人間の救出、完了しています!」


「報告ありがとう! だそうだ、アスラ!」


 そうだった――中にまだ怪我人がいたんだった!

 だが、シャロンの采配によって救出は完了しているらしい。おそらく、俺とワイズマが戦っている間にシャロンが指示をしてくれたんだろう。


 ワイズマを痛めつけるために時間をかけて戦っていたが、結果的に中の人を助けることにつながったようだ。


「アスラーー! よくやったな、後は俺たちに任せやがれ!!」


「その卵を壊せばいいんでしょ!? 皆、行くよ!」


 声を上げる人の中には、見知った顔もいる。


「この前はダンジョンで助けてくれてありがとうなー! 俺たちに出来ることといったら、これくらいしかねえけど!」


 あれは、ダンジョンで仲間が欠けて出られなくなったところを、俺が出口まで案内したパーティだ。四人揃って、得物を構えてこちらに向けている。


「この前はパパを手伝ってくれてありがとうー! せめて、私から恩返しさせてー!」


 あそこにいるのは、八百屋の娘さんだ。誤発注して在庫が過多になったところを、親父さんと一緒に手売りしたんだっけ。


 それだけじゃない。シャロンの後ろで叫んでいる人のほとんどは、隠しクエストがきっかけで出会った人や、その知り合いだ。


「すごい……こんなにたくさんの人が来てくれるなんて……」


「目に入ったクエストは、出来るだけ全部受けてたんだ。おかげで寝る時間はまだ確保できてないが……」


 リーリアが腕を押さえ、立ち上がる。俺はまだ呆然として動くことができなかった。


『もう3年も冒険者を続けているんですから、アスラさんも自分のことはよくわかっていると思います。ぜひ自分の実力にあった振る舞いをお願いします』


『だって、こいつゴブリンもまともに倒せないような雑魚なんだぜ? 可哀想だろ、才能もないくせに冒険者にしがみついてばっかりで。だからたまには勝って自信を付けて欲しいと思ったんだ』


『確かに、アスラがブラッディボアを一人で倒せるわけがないしな……』


 思い出すのは、苦節の3年間の記憶。

 ずっと誰かに認められたくて、がむしゃらにモンスターと戦い続けて。


 それでも弱かった俺は、誰からも認められず、煙たがられる存在になった。いつしか冒険の理由は、周囲を見返すことになっていたような気がする。


「でも……ようやくわかったよ」


 俺のやってきたことは間違いじゃなかった。弱くても、強くても、目の前のことにがむしゃらに取り組む。それが大事だったんだ。


 そして、それら全てが今この瞬間に実った――!


「アスラ、泣いてる場合じゃない!」


「ぜ、全然泣いてないが!? こんな状況で泣くわけないんだが!?」


「そんなのどっちでもいいから! それより、もう時間がない!」


 卵が小刻みに動いている。孵るまで――あと30秒もないだろう。時間的にも、打ち込めるのはあと一撃だ。


「リーリア、この前のあれ、やってくれないか?」


「この前のって……?」


「剣に炎を宿すやつだよ」


 これだけの人数と、俺たちの力があれば――いける!


「わかった! アスラ、後はお願い!」


 剣に炎が宿る。それと同時に、俺は腕に力を込めた。


「皆、アスラに続いてくれ! 卵が孵る瞬間に、中身ごと燃やし尽くせ!」


「「「了解!!」」」


 冒険者たちの声が重なる。俺は息を吐きながら目を閉じた。


 この一撃に――3年間の全てを込める。


 たくさんの人を傷つけてきた。救えないものも多くあった。多くの挫折と、苦難を乗り越えてきた。


「だから――俺は、強い!」


「「「いっけえええええ!!」」」


「<無色一閃・焔格式ファイアコンバージョン>!!」


 目を開き、俺は卵に向かって剣を振り下ろす――!


 斬撃はギルドの屋上を裂き、光は天にまで昇っていく。音を置き去りにした一撃は、轟々と燃え盛る炎を吹き上げながら大波のように押し寄せる。

 それと同時に、冒険者や街の人たちが放った魔法や矢なども加わり、ギルドの屋上はまるで天変地異が起こったようだ。


「きゃっ!」


「リーリア、逃げるぞ!」


 俺はリーリアを抱きかかえ、崩れ行くギルドの屋上から飛び降りる。

 屋上からとはいえ、<自動防御(オートガード)>があるから、着地の衝撃は抑えられる――よな!?


「一か八かだ!」


 地面に足が付く。痛く――ない! よしっ!

 次の瞬間、ギルドで大爆発が起こり、窓ガラスが全て音を立てて割れた。


 煙がゆっくりと晴れていく。少しずつギルドの全容が見えていく様を、俺たちは祈るような気持ちで見ていた。


 頼む。時間的に、もう一撃を撃つことは出来ない――これにかかっている!


 皆が見つめる中、煙が空に昇り、ギルドの屋上の姿が映し出された。

 ――屋上の卵は、粉々になって消えていた。


「よっしゃあああああああああああ!!」


 誰かが叫んだのと同時に、一斉に歓声があがる。シャロンも嬉しそうに腕を組むと、にっこりと笑った。

 かなりギリギリの戦いになったが、俺たちは街を守ることが出来たのだ。


「アスラ! やったね!」


 リーリアが俺の傍にやってきて、嬉しそうに俺の顔を見る。

 俺も彼女に微笑み返してやりたかったが……そうできないだけの理由があった。


「すまん、リーリア。俺は気絶する」


「……は? 何言ってんの?」


「頼む、その腕で俺のことを支えておいてくれ。俺は、もう――」


 そこまで言ったところで、強烈なめまいに襲われた俺はその場に倒れ込んだ。


 <疾風怒涛翔>の時間はまだ充分に残っていたはず。ということは、残る要因は……。

 ――<無色一閃>だ。あの技は、一撃使うだけでかなり体力を使うのか……。

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