45.言いたかったこと
「はぁっ!? なんで今この状況で!?」
「いいから、教えてくれ。お前の本心を!」
リーリアは何かを言おうとした後、俯いて首を横に振ってしまった。
「……やっぱり無理! こんなの、高望みすぎ――」
「じゃあこうだ! さっき、俺の言うことならなんでも聞くって言ったよな! それで頼む!」
「なんで……」
「どんなことでも、俺は受け止めてやる!」
「なんで、よりによってあんたなの……」
リーリアは涙を流していた。俺は叫ぶ。
「教えてくれ、お前の本心を!!」
刹那の沈黙があった後、リーリアは大きく口を開けた。
「私……アスラと、一緒に冒険がしたい!!」
折れていない方の手で、リーリアは溢れ出る涙を拭う。
「アスラと最初に一緒に戦ったとき、すごく楽しかった! ティナが作ったお弁当を食べたときも、アスラと薬草を探した時も! 全部全部全部!!」
ギルドの屋上から放たれたその声は、青空に吸い込まれて、リーリアの秘められた思いを青色に変えていく。
「あんたじゃなかったら諦められたのに!! なんで、初めてこんな思いになったのが、あんたなの……諦めが悪くて、人たらしで、底抜けに優しい……あんたなのよ!」
俺は泣きじゃくるリーリアを抱きしめた。
「……ありがとう。これが終わったら、怪我を治して、それから一緒に冒険をしよう」
俺はリーリアをその場に座らせると、再びワイズマの方へと歩いていく。
さて――これで、『リーリアの本音』をクリアした。このタイミングでクエストをクリアしたのには、理由がある。
「ワイズマ。お前に残念なお知らせがある」
「黙れ! 今、手足を生やしてお前を殺してやる!」
「――また、レベルが上がっちまった」
レベルが上がると、膂力は飛躍的に向上する。今の俺は、過去一番の一撃をこいつに加えられる。
さらに――クエストクリアで新しいスキルも手に入った。
「な、何をしてる……!?」
使い方はよくわからないが――おそらくこれで合っているだろう。
腕に力を込めると、剣が白いオーラを纏い始めた。それはまるで空気の流れを可視化したように、少しずつ大きく、剣に宿っていく。
そして、数秒もしないうちに剣に宿ったオーラは炎のように膨れ上がり、雷のように空中を駆ける。
「まさか――それで僕を攻撃するつもりか!?」
「そうだ。これで4分経過。お前をぶっ殺す準備が完了した」
「ま、待ってくれ! そんなの食らったらもう終わりだ……やめてくれ、あんたはいい人なはずだ!」
「――他人の痛みがわからないんだろ。来世ではいい人になれるといいな」
「ああああ、ああああああああああああ!!」
「<無色一閃>!!」
剣を振り下ろすと、まるで大気すらも割ってしまいそうな斬撃がワイズマの体の上に叩きつけられる。
刹那、爆発のような重低音が周囲一帯に鳴り響き――、
――建物が真っ二つになった。
「マジか……まさかここまでとは……」
二階建ての建物を斬るって、一体どれだけの威力なんだ? まるで巨人が大きな包丁で豆腐を切ったような、そんな光景だ。
これが<無色一閃>か。難易度3のクエストだっただけに、貰えるスキルもかなり強力だな。
「はは、ははははは!!」
その時、足元から笑い声が聞こえてきて、俺は思わずドキッとする。
見ると、そこにはワイズマの頭が落ちていたのだ。
「アスラァ!! この僕を倒したくらいで、いい気になってんじゃねーぞ!! 一本の糸は解れようと、紡ぐ者さえいれば、運命の糸は残り続ける!」
こいつ、頭になってまで何を言ってるんだ……?
だが、ワイズマの頭はラグルクたちと同じように少しずつ黒い塵になって消えつつある。
「いいかアスラァ!! この国は既にがんじがらめだ! その意味に気づくのはいつになるかなぁ!? アーハッハッハッハ……」
ワイズマは最後に高笑いをすると、そのまま完全に消滅してしまった。
最後の最後まで気分が悪い奴だったな……だが、なんにせよ勝利することは出来た。
「ねえ、アスラ見て! まだ終わってない!」
その時、リーリアが声を張り上げた。彼女の示す方向には――カマキリの卵があった。
「あれ、さっきの一撃を食らってもまだ残ってるのかよ!?」
「急いで! もう1分を切ってる!」
あれの中から幼虫が孵ったら街がマズいことになる――さすがに数百匹の幼虫を相手してやれるほどの体力はない!
俺は剣を振りあげ、力を振り絞って卵に向かって走り出した。
「その卵、私にも手伝わせてくれ!」
走り出すのと同時に、ギルドの下から一人の声が聞こえてくる。
そこに立っていたのは、シャロンだった。




