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43.一番大事なあいつ【SIDE:リーリア】

「何よそれ! マンティスの幼虫!?」


「ええ、それが孵ります。幼虫と言っても、一匹で一人の冒険者の力には相当すると思いますよ。そして、人間を食らって成長することで――この国すらも滅ぼしてしまうでしょうね」


 そんな恐ろしいことが、あと10分で!?

 もし(コア)が孵ってしまえば、溢れ出る数百匹のマンティスたちを倒すことは出来ない。


 今、なんとしても私が止めなければ――!


「<火炎鳥飛翔(バーニング・レイ)>!」


 私はすぐに炎魔法を発動すると、卵に向かって放つ。

 炎の鳥が、くちばしを真っすぐに向け、卵に体当たりするように翼をはためかせる。


 ――しかし次の瞬間、鳥の首は切り裂かれ、ギルドの屋根に落ちてしまった。


「もちろん、僕も妨害はします。さあ、10分以内に僕を倒して卵を破壊できるでしょうか?」


「くっ……だったら!」


 確かにワイズマは妨害をしてくる。だが、向こうも所詮は一人だ!

 だったら、こっちは数で押せばいいだけの話!


 私は両手の五指を合わせると、無数の火球が卵を焼き尽くすイメージを浮かべる。


「あ、そうそう……知ってますか?」


 ――今だ!


「マンティスの鎌は、自分よりも大きいものすらも逃がさないほど強力らしいですよ」


 その刹那、ワイズマの右腕の鎌が私の右腕を挟み込んだ。

 いつの間にこんなところに――いや、それより逃げなきゃ!


「無駄です。あ、骨を折っておきますね」


 ワイズマが残酷に笑った。そして、木の枝が折れるような音が響き渡る。


「ああああああああああああ!!」


「いいですねぇ! そういうふうに反応してもらえると、嗜虐心がくすぐられます!」


 あまりの痛みに、私はその場に座り込んで叫んだ。そうでもしなければ気が狂ってしまいそうだ。


「腕が折れちゃいましたけど、どうしますか? あ、でも悪く思わないでくださいね? アスラさんは僕の腕を斬り落としたんです。その仕返し――と言ったら陳腐になってしまいますが、そういうことなので」


「なんなのよあんたは!! さっきからベラベラ喋って! 殺したいなら私のことをさっさと殺せばいいじゃない!」


「いいえ、リーリアさんは私が街を滅ぼすことになった原因の人なので。普通に殺すんじゃなく、苦しめてから幼虫の餌にしようと思いまして」


 痛い。あまりの痛みで気持ちが悪くなってきた。

 こうしている間にも、卵が孵化する期限が迫っている――!


 私が、なんとかしなくちゃいけないのに……!


「そろそろ気づきましたか? リーリアさんじゃ僕に勝つことは出来ません。腕の骨を折ったことで魔法を使うのも気が散って大変でしょう。もう詰みなんですよ」


 そんなこと……最初からわかってる。

 私は弱い。弱いけれど、常に虚勢を張って生きてきた。だから自分の実力は自分が一番よくわかっている。


「僕の実力は――そうですね、客観的に考えても、Sランク冒険者でもなければ倒すことは出来ないでしょう。この街のSランク冒険者は――あ、さっき3人とも殺してしまったんだった」


 ワイズマは愉快そうに笑うと、鎌の先をこっちに向けた。


「言っておきますが、アスラさんも来ませんよ。ブラックレインはあれでもBランクくらいの実力はあるでしょう。それに加えて、アスラさんは彼らのことを助けようとでもするんじゃないですかねえ?」


 ワイズマが一歩、また一歩とこちらへ迫ってくる。私は腕を抑えながら、顔を上げた。


「次は、左腕の骨を折りましょうか? それとも足にしましょうか? 好きな方を選んでいいですよ」


「……どっちも嫌」


 そう答えた瞬間、ワイズマの鎌の先端が私の左足を突き刺す。


「口答えするなよ、小娘。立場を弁えろ。お前に選択する権利なんてないんだよ」


「……それがあんたの本性ってわけね」


 ワイズマの鎌が抜かれ、血が噴き出す。痛みはとっくに限界を超えて、頭がおかしくなりそうだ。


「選べ! 腕と足、どっちが大事かを!」


「だったら……私は『一番大事』を選ぶ!!」


 私は力を振り絞って立ち上がると、ギルドの屋上から飛び降りた。


「馬鹿な!? 拷問されるくらいなら、自ら死を選ぶというのか!?」


 違う。私は賭けたんだ。きっと、あいつならこの選択をしてよかったと思わせてくれる!


 お姉ちゃんが握ってくれた右手は動かないけど――きっと、あいつなら反対側の手を取って私を引っ張ってくれる!


「アスラァァァァァァァァ!!」


 落ちる――落ちる――落ちていく。

 その時、私の耳朶を打ったのは別の叫び声。


「リーリア、この手を取れ!!」


 私の左手が包まれる。そして、私は宙を浮いた。

 耳元に聞こえてくるのは優しいあの声だ。


「よく頑張った。――あとは、俺に任せろ」

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