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41.ミサVSティナ【SIDE:ティナ】

「ロゼリアさん、ゆっくりで大丈夫ですよ! もう少しでギルドに着きますから……」


 やせ細ったロゼリアさんに肩を貸し、私は診療所から歩いていく。隣には、リーリアさんもいます。


「ごめんね、ティナ。私がお姉ちゃんを支えられればいいんだけど……」


「大丈夫です! 私、こう見えて日頃のお買い物で鍛えてるので!」


 アスラさんは、ひとまずロゼリアさんをギルドの救護室へ連れて行くように言いました。あのお医者さんが何かを企んでいるとも。

 私に出来ることは、まずはロゼリアさんを安全な場所へ移動させること。そして次にアスラさんの加勢をすること。どちらも無事に終わってくれればいいですが――、


「何、この人の流れ――?」


 その時、リーリアさんが周囲を見回して呟きました。

 言われてみれば確かに、向こうからこっちの方へ走ってくる人が多いような……?


「ティナ! リーリア!」


 すると、人ごみに紛れてシャロンさんがこちらへ走ってきました。


「シャロンさん! これは何の騒ぎですか?」


「実は、ギルドを突然カマキリのようなモンスターが襲ったんだ! 今、冒険者たちが応戦しているが、職員や市民は避難することになっている。三人もここから逃げてくれ」


「シャロンさんはどうするんですか?」


「私はもうしばらく、ここにいようと思う。逃げ遅れた人がいたら大変だ。後で追いつくから先に行って欲しい。そこにいるリーリアそっくりの女性は、避難が必要だろう?」


「あーら、カッコいい~! さっすがギルドマスター、善人ぶってて吐き気がするわ」


 その時、会話に割って一人の女性が現れた。

 その女性の見た目に、私たちは息を呑んだ。女性は背中から4本の腕のようなものが生えていて、目が8つもある。


「私のこと、覚えてるぅ?」


「……ミサ・レイリーンか」


「あはははは、せいかぁ~い! よくわかったねえ、私もあなたのこと忘れてなかったの」


 この人……アスラさんが言っていた。シャロンさんにクビを宣告されたギルドの職員だった人だ。

 ようやく、アスラさんが言ったお医者さんが何か企んでいるという言葉の意味が分かった気がする。


「リーリアさん、ロゼリアさんのことをお願いします。ここは私がなんとかします!」


 多分だけど、もうこの人はかつてのような人間じゃない! モンスターのようになっているんだ!


「何よあんた。私はそこにいるシャロンに用事があるんだけど?」


 ぎょろりとこちらを見る目玉。そして圧倒的な威圧感が肌を刺す。

 怖い……だけど、アスラさんならきっとこう言うはず!


「ここは、通しません……それが、私がやるべきことだから!」


「チッ! 部外者がしゃしゃり出てくんじゃねーよボケ!!」


「シャロンさん、私の後ろに下がってください!」


 この人は、絶対に私が止める!


「<クモノイ>!」


 ミサさんは口を大きく開けると、そこから白い糸のようなものを吐き出してきた。


「はぁっ!」


 私はその糸にぶつかるようにして矢を放つ。


「……!? あんた、なんで私が糸を吐き出す前に弓を構えたの!?」


「私に遠距離攻撃は通用しません!」


「なんなんだよこいつ……! なんでアスラの仲間はどいつもこいつも私の邪魔ばかりするんだよ!」


 ミサさんは怒り狂って地団太を踏むと、またしても口から白い糸を吐き出してくる。


「無駄です! 今度はこっちが反撃です!」


 糸を避けきり、態勢を低くすると、私はミサさんの心臓をめがけて矢を放った。

 ――しかし。


「遠距離攻撃が効かないのはこっちも同じぃぃぃぃ~~!!」


 空を切った矢は、ミサさんの手に握られ、へし折られてしまった。

 そうか――ミサさんは腕が6本あるから攻撃を止められてしまう!


「そして、遠距離攻撃が効かない者同士なら、近接戦闘でパワーがある方が勝つ! あんたの顔をねじ切って、シャロンと一緒に並べてやるよぉ!」


 ミサさんはそう言うと、クモのように地面を這いずり、こちらへ接近してきた。


 ミサさんの言う通りだ――近接に持ち込まれたら、モンスター相手に勝ち目はない。私はアスラさんみたいに膂力が強いわけじゃない!


 だからこそ――私は、私にしかできないやり方で勝つ!


「隙あり!」


 その時、ミサさんの口からまたしても糸が放たれた。

 軌道は――私に向けてじゃない! シャロンさんの方だ!


「逃げられたら面倒だからな! 今のうちに捕縛しておいてやるぜ!」


 今、矢を放てば糸がシャロンさんに届く前に撃ち落とせる――だけど、そうすればミサさんは宣言通り私の頭をねじ切ってしまうだろう。

 やるなら――今しかない!


 私はシャロンさんに向かって行く糸の方を向いて、弓を引いた。


「どうした!? 自分が殺されてもいいってか!? そういう偽善者が、私は大っ嫌いなんだよ!!」


「いいえ! シャロンさんは助けます! でも、私は私自身も守ります!」


 魔法を使うときに重要なのは――自分の戦闘スタイルに、魔法を組み込むこと!


「<強化嚆矢(エンチャントアロー)炎属性付与(フレイムエレメント)>!」


 私が放ったのは、魔法で炎を纏った矢!


「蜘蛛の糸は炎で燃えます! そして、その炎はそれを放っているミサさんへと伝わる!」


「う、嘘……そんな馬鹿な……」


 その刹那、糸が一気に燃え上がり、炎の綱ように変化する。そして、ミサさんの体に燃え移った――!


「あああああああああ!! 熱い!! これ以上、醜くなるなんて嫌ああああああ!!」


 火だるまになるミサさんを見て、私は思わず目を覆いたくなりました。


「――美しさは、見た目がどうこうじゃなくて、心に宿るものだと思います」


 ……あれ? なんだか視界がぼやけてきたような……というか、立ってられない。

 そうか、私、さっきの魔法で魔力を使い切っちゃったのかも……ごめんなさいアスラさん、私少し眠ります……。

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